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アストロスケールの岡田氏が語る、持続可能な宇宙開発のために必要なこととは?

ELSA-dミッションでSatellite Technology of the Yearを受賞したアストロスケールは、宇宙産業最大の問題の一つであるスペースデブリに取り組む新時代の宇宙企業です。

今年で4年目を迎えるVia SatelliteのSTOTY(Satellite Technology of the Year)賞の競争は、年々激しくなっています。2021年の受賞を目指してエントリーした企業は30社以上になります。ELSA-d(End-of-Life Services by Astroscale-Demonstration)ミッションで受賞したAstroscaleは、業界最大の問題のひとつであるスペースデブリに取り組む新世代の宇宙企業です。今回はロンドンにて、アストロスケール社の岡田社長に、ELSA-dミッションの最新情報、2020年代のビジョン、そして宇宙を安全な環境に保つために業界がすべきことについてお話を伺いました。

VIA SATELLITE:アストロスケール社の皆さん、「サテライト・テクノロジー・オブ・ザ・イヤー(STOTY)」受賞おめでとうございます。このことは会社にとってどのような意味があるのでしょうか?

岡田:このような賞をいただき、本当に感動しています。宇宙のサステナビリティに対する私たちの献身的な取り組みが評価されたものであり、グローバルチームの勝利だと考えています。ELSA-dは、私たちのチーム全体が取り組んできた衛星です。この賞を受賞できたことを大変うれしく思います。

VIA SATELLITE:岡田社長がアストロスケールを設立した経緯を教えてください。

岡田:私は、宇宙産業とは全く関係ありませんでした。コンサルティングや金融の仕事、日本政府の仕事をやっていました。40歳を目前にして自身の中年キャリアに対して危機感を覚え、40代から50代は何をすればいいのかと自問自答していました。私は宇宙に興味がありましたので、月探査や新しいロケットなど、話題の宇宙関連の会議に何度か参加していました。しかし、宇宙はもう持続不可能であり、誰もその解決策を持っていないことに気づきました(2013年当時の話です)。そして、この問題を解決するために、アストロスケールという新会社を立ち上げることにしました。

宇宙を説明する言葉として、スペース、コスモス、アストロ、ユニバースという4つの単語があります。アストロという言葉は非常に古く、ギリシャ語を起源としています。スケールは、バランスをとるための道具です。そこで、開発と環境のバランスをとることがサステナビリティ(持続可能性)だと考えました。それで、アストロスケールという名前が生まれました。

VIA SATELLITE:奥様はどう思われましたか?

岡田:妻の同意が必要でした。私はドイツで開催された宇宙会議に出席していました。そして、家に帰ってきて、妻に「朝、一緒にコーヒーを飲もうか。」と言ったんです。彼女はこのときすでに何かを感じ取っていました。そこで私は、「スペースデブリを掃除する会社を作りたいんだ。」と言いました。妻は、「私たちの銀行口座にいくら貯金があると思っているの?」と言いました。私は40万ドルあると言いました。すると彼女は、「20万ドルあれば始められると思う。」と言ったのです。こうしてアストロスケールはスタートしたのです。

VIA SATELLITE:この会話の中で、彼女は中年キャリアの危機という言葉を口にしたのでしょうか?

岡田:そうです。彼女はもう知っていました。私が打ち込めるものを見つけたことを喜んでくれている部分もありました。

VIA SATELLITE:これからの話をしましょう。アストロスケールの長期的なビジョンについてお聞かせください。5年後、アストロスケールはどのような姿になっていますか?

岡田:中期的な目標は明確に持っています。軌道上サービスは現在改修中ですが、2030年までにルーティンサービスにすることが私の目標です。国際機関は2030年までに達成すべき17の持続可能な開発目標を掲げ、企業/国/個人が一体となって世界経済を持続可能なものにしていこうとしています。世界経済を持続可能なものにするためには、宇宙も持続可能なものにする必要があります。現代の私たちの日常生活は、交通、航行、通信、天気予報、農業、漁業、ITなど、宇宙技術に完全に依存しています。ですから、私は、2030年までに軌道上サービスを日常化させたいと考えています。

では、日常化とはどういうことでしょうか?宇宙を持続可能なものにするためには、3つの課題を解決する必要があります。まず、技術です。2つ目は、経済性です。そして最後に、規制です。

技術面では、技術を成熟させ、アプリケーションを拡大し、商業的なサービスを提供する必要があります。デブリの除去、軌道上輸送、寿命延長、SSA(宇宙状況認識)など、商業的に利用可能なサービスを提供する必要があります。そのためには、事前に生産量を確保する必要があります。そのために、私たちは日本で大規模な施設を開発しています。また、イギリスでも巨大な施設を開発していますし、アメリカでも同じようなことをしたいと考えています。

経済性については、良いニュースとしては、これからどんどんプロジェクトが立ち上がり、グローバルに多数の入札を行うことでこれらの機会を獲得していることです。市場はまだ初期段階ですが、商業企業は長期的な利益価値を見出しています。

規制にも時間がかかりますが、2013年に比べれば、スペースデブリ問題への意識は強くなっています。政府も民間企業も、規制の更新が必要であることを受け入れているのです。今後4、5年の間に、多くの国がより強制力のある規制を作ると確信しています。

VIA SATELLITE:新しい衛星や機能に対する投資のレベルに驚きましたか?これは、スペースデブリやサステナビリティの観点からはどのような意味があるのでしょうか?

岡田:例えて言うなら、高速道路です。高速道路を見てみましょう。車の数が増えたら、渋滞や事故が増えましたよね。しかし、私たちはドライバーに運転をやめろとは言いませんでした。交通ルールや交通管理システム、ロードサービスなどを導入したのです。私たちが必要とするアプリケーションがあるので、より多くの国や民間企業が宇宙分野に参入したいと思うのは十分理解できます。通信やコンステレーション(複数の衛星システム)への投資は素晴らしいことですが、必要なのはより効果的な宇宙交通管理であり、それを管理する手助けをしたいのです。

衛星の密度に関して、これほどまでに成長するとは思っていませんでした。だからこそ、私たちは迅速に技術を開発し、規模を拡大しなければならないのです。衛星コンステレーションは新しいアイデアではなく、1990年代半ばから存在しています。2014年から2015年にかけて、すでにコンステレーションビジネスに手を挙げる企業があり、現在では100以上のコンステレーションプロジェクトがサービス開始を検討しています。

VIA SATELLITE:アストロスケールがELSA-dミッションでどのような状況にあるか、最新情報を教えてください。課題は克服されたのでしょうか?

岡田:ELSA-dは、私たちの今後のミッションやサービスに多くの学びと経験を与えてくれました。昨年3月にELSA-dを打ち上げ、8月には試験捕獲の実証実験に成功しました。これは、衛星が高度を変える時間や、サービサーがクライアントと向き合う時間など、コマンドを1行ずつ設定する「マニュアル」での実現です。すべてのコマンドを設定したのです。

今年1月からは、サービサーが自律的にソフトウェアを使ってデブリを捕獲し、テレメトリとコマンドを地上で高度処理する「自律捕獲」の運用を開始しました。運用開始時には、クライアントとサービサーの分離に成功し、自律的な追跡と相対航行を開始しました。

その後、異常を確認したため、すぐにデモを停止しました。チームが問題を調査している間、サーベイヤとクライアントは離れていき、一時は1700kmにも達してしまいました。スラスターの異常は起こるもので、今後の運用にはある程度の制限があります。しかし、燃焼、空気抵抗、地球の重力の自然摂動を複合的に利用し、サービサーを運用を継続できる距離まで戻すことに成功したのです。ここまでの道のりは長かったです。それぞれの操縦について、規制当局の認可を受け、審査を確認しました。現在、クライアントを再捕捉するためのプロセスに入っています。

VIA SATELLITE:ELSA-dの今後の展開について教えてください。

岡田:近い将来、サービサーを操縦して、約160mの距離までクライアントに近づく予定です。今、地上でのシミュレーションを行っています。160mからでも、限られたスラスター数で、安全に捕獲できる機体を作りたいのです。もうすぐ、160m付近まで行って再捕獲しますが、それは2〜3ヶ月後かもしれません。私たちのミッションは終わっていないのです。

VIA SATELLITE:今後2〜3年のアストロスケール社全体の案件の流れや、商業顧客と政府顧客の構成はどうでしょうか?

岡田:現在、複数のサービスを同時進行で開発しています。今、複数のサービスを同時進行で開発しています。英国では、OneWebを含むコンステレーション向けに、マルチキャプチャのデブリ除去衛星ELSA-M(マルチ)を開発しており、現在、他のコンステレーションからの関心も高いです。また、日本では、JAXAの商業デブリ除去実証プロジェクトのフェーズIに採択された「ADRAS-J」を開発しています。この衛星は検査衛星で、来年打ち上げられる予定です。宇宙空間にある物体を識別し、その特性を調べることができます。また、第2フェーズでは、既存の大型デブリを除去するデブリ除去衛星である「ADRAS-J2」を開発したいと考えています。この衛星は、宇宙空間にある3トンの物体を捕獲して除去する能力を持つ予定です。また、イスラエルとアメリカのチームは、寿命延長衛星「LEXI」の開発も行っています。今後2〜4年の間に、このような衛星が打ち上げられることになるでしょう。

VIA SATELLITE:ロシアのウクライナ侵攻がアストロスケールに与えた影響や、今後の事業への影響はありますか?

岡田:最初の2基の衛星はソユーズロケットで打ち上げましたが、現段階では、近い将来、ロシアのロケットで打ち上げる予定はありません。サプライチェーンを見ても、現在、ロシアの企業との取引はありません。要するに、私たちには何の影響もないということです。

VIA SATELLITE:宇宙はグローバルなコミュニティーです。宇宙を舞台にした新たな冷戦が始まる可能性がありますが、宇宙が誰にとっても安全な環境であるために、どのような影響があるのでしょうか?

岡田:アストロスケールの関心は、宇宙の持続可能性にあり、商業、民間、防衛のすべてのセグメントを教育していくつもりです。安全で持続可能な軌道でなければ運用できないので、宇宙での最大の課題はデブリです。宇宙で冷戦が起きると、宇宙の持続可能性の問題全体に悪影響が出るかどうかは分かりません。しかし、もし宇宙環境が不安定になれば、多くの人がその代償を支払わなければならなくなるでしょう。

VIA SATELLITE:スペースデブリの問題について、業界は十分に真剣に取り組んでいると思いますか?

岡田:そうですね。ELSA-dの受賞が、私たちが産業界に影響を与えているということであれば、これは宇宙のサステナビリティにとって素晴らしい兆候です。宇宙のサステイナビリティに対する意識は、ずいぶん高まってきました。しかし、産業界の一部には、まだ危機感を共有できていないところがあります。衝突が起きれば、私たちの軌道は回復不可能になる可能性があるのですから、待っているわけにはいきません。もし企業がサステナビリティを語るのであれば、新たなデブリを発生させるべきではないでしょう。衛星通信事業者は、宇宙での長期的な持続可能性を確保するよりも、収益や利益を優先しているのが現状です。だからこそ、国内規制、国内での規制が重要になり、各政府も今、対策を取り始めています。昨年のコーンウォールでのG7では、各国が宇宙の持続可能性を確保することを約束しましたので、各政府がより強制力のある規制を作ることを期待しています。

VIA SATELLITE:衛星に限らず、持続可能性が大きな課題となっている今、宇宙産業は新しい衛星を大量に打ち上げていく時期だと思いますか?

岡田:私は2つのシナリオを考えています。まず、2026年までに、宇宙産業が混雑した軌道のコストを負担して、赤字になることを受け入れるというものです。LEOでのニアミスを見ると、これが月単位で1km以内で起こっているんです。2020年までは月に2,000回程度でした。2021年には3倍の6000回のニアミス、2021年11月のロシアのASAT(対衛星実験)の前にもありました。宇宙空間の物体の密度に関しては、臨界レベルに達しているのです。今、衝突回避を心配する衛星事業者は、ミッションを中断してマヌーバを行い、1~2週間後にその場所に戻らなければなりません。これは今や彼らにとってコストであり、今後も増え続けるでしょう。

業界を見ると、スターリンクやワンウェブがすでに多くの衛星を打ち上げていますが、これらの衛星は2026年には寿命を迎えます。これらを下げてから新しい衛星を打ち上げ、衛星の世代交代をしなければならないでしょう。その頃には、LEOの宇宙交通は非常に混雑しており、クリアな軌道で打ち上げるのはかなり難しいかもしれません。事業者は、短期的な利益にとらわれず、宇宙の持続可能性を確保するためのサービスにお金を払う方が良いと理解するようになるでしょう。

VIA SATELLITE:テクノロジー・イノベーターとして、アストロスケール以外の次の大きな技術で、業界が前進するために必要なものは何だと思われますか?

岡田:私は、オンボードのコンピューティングパワーを挙げたいと思います。地上でも利用できますし、AI技術に見られるように劇的に増えています。宇宙では、まだまだ旧態依然としたオンボードコンピュータを使っています。しかし、誰かが宇宙で忠実な、あるいは超高速のオンボードコンピューティングを可能にすれば、これは画期的なことになります。大量のデータをダウンリンクする必要がなくなり、衛星はより自律的に動作するようになります。

VIA SATELLITE:アストロスケールが成功するために克服すべき課題は何だと思われますか?

岡田:グローバルに人材の争奪戦が繰り広げられているため、雇用と人材です。今現在、270名の社員がいますが、彼らはとても強いチームです。私は彼らをとても誇りに思っています。しかし、私たちはグローバルチームを成長させなければならないので、優秀な人材を採用し続ける必要があります。私たちは世界に5つのオフィスを構えており、各地域で優れた人材を見つけたいと考えています。しかし、それは簡単なことではありません。適切な人材を確保するためには、価値を重視し、コアとなるDNAを開発し続けなければならないのです。

【原文へ】" Astroscale’s Nobu Okada Talks What Needs to be Done to Make Space Sustainable "

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