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ハガレンを読む ばぁちゃん

私が学生で、実家に帰省中の出来事だった。夏特有の湿気が高い日で、気温もそれなりに高い日だった。セミの鳴き声ばかりが元気な夏の日だ。午後3時頃かなぁ、ばぁちゃんが何やら熱心に読んでいる。小説を読んでいるのだろう と思いながら覗いてみた。

実家に置きっぱなしの「ハガレン」だ。

ダークファンタジー漫画の金字塔「鋼の錬金術師」だった。私は2,3秒の間 固まった。私の脳みそにプチ衝撃が走った。80代女性がハガレンを読むこともあるんだなぁを知った。脳ミソが処理仕切れない不思議な光景だった。処理仕切れない映像に人は固まってしまうことも知った。

ばぁちゃんは、新聞紙やチラシ、小説を時々読む人間だ。理由を聞くと、自分のボケ防止のために読んでいるという。いくつになっても新しい情報を頭に入れてみようとする姿勢は素晴らしいと思う。尊敬する部分である。(ただし、新聞紙に載っているクロスワードの分からない箇所を私に丸投げしないでほしい。携帯電話を使って本気で調べてしまう)

なんで、ハガレンを読んでるの?

ボケ防止のために漫画も読むの?

ばぁちゃんに質問した。小説も新聞紙も飽きてきたから、私が置いたままにしている漫画に挑戦してみたとのことだ。4か5巻めを読みながら ばぁちゃんは質問に答えた。登場人物が多過ぎてよく分からない と付け足しながら答えてきた。

婆ちゃん すげぇな と思った。

小説や新聞紙を読む時と同じか、それ以上に熱心に読んでいるのがすげぇな と思った。次々と登場するキャラクターを理解しようと眉間に皺を寄せたり引いたりしながら、読んでくれているのが嬉しかった。これは誰だ?何が起きたんだ? 表情豊かに漫画を読んでいる。口閉じてても、やっぱり騒がしいばぁちゃんだ。表情がうるさい。置きっぱなしの漫画も役立つのだなと思った。

しかし12か13巻め、ばぁちゃんのハガレンを読む手は、永遠に止まってしまう。

パタンッ

突然、ばぁちゃんが漫画を閉じてしまった。


「この漫画はむんずかしぃ〜、いっぱい人が出てくる。誰が何だか分からんっ!!!」

ばぁちゃんは挫折した。ミステリー小説を読みきれる人が挫折していた。ハガレンを本棚に戻し、他のどんな漫画にしようか眺めている。(LIAR GAMEも、もやしもん も難しいと思うよ。あたしンちが読みやすいと思う)

「あたしンちは全部読んだからなぁ」

(このババァ だいぶ漫画を 読んでいるッ!!)この時の私は知らなかった。数日後に、ばぁちゃんから命令を下されることを。

「面白い漫画を買ってこい!!!」

孫に漫画をねだる ばあちゃん爆誕。

ありがたい。