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『二階堂地獄ゴルフ』3巻

改めて、俺が一番読みたかった福本伸行の漫画に戻ってきてくれた感じがしている。

町中華編(と言っていいのか?)のラスト、誰も幸せにならない地獄舞い戻っていく二階堂の姿は名作映画みたいな余韻。
架純が謎の不安を感じながら就寝して翌朝あの1本の道を作ってる二階堂を見るまでの心持ちは、同じ「夢という呪い」に食われた経験があるからだろうし、その禍々しい引力を知っているから止められなかったのだろうし。
個人的には「地獄ゴルフ」というタイトルが一番効いた瞬間だった。
地獄の渦中にいるどうしようもない日々よりも、そこへ引っ張り戻す重力の方がよっぽど恐ろしい。
恐ろしいのだけれど、同時に「二階堂はそうでなくてはいけない」と思ってしまう。
それは「そういうコンセプトの漫画だから」みたいなメタな理由以上に感じる、「この男はそこにいなくてはいけないんだ」という謎の説得力。
それの正体は読んでる自分もよくわからない。
架純が本当にいい子に見えるから(たぶん福本伸行が今まで描いてきた「女キャラ」の中ではぶっちぎりで一番だと思うんだが)、だからこそ「バカバカやめろそっち行くな幸せになれ幸せになったっていいんだよ二階堂」という気持ちも嘘じゃなく湧き出た。
なのに同時に「お前はやっぱり地獄にいないといけない人だよ」という相反する気持ちも確かにあった。
そこの答えは出るんだろうか。

個人的に『最強伝説黒沢』が傑作になったのは、黒沢の日々を描いて描いて、「黒沢ならこうなる」「黒沢ならこうしちゃう」「黒沢ならこう考えちゃう」をストーリーの都合に左右されずにその場その場で描いて描いて、最後に黒沢(と、福本伸行)が、あの決戦前の公園でした婆ちゃん抱えた「大演説」に辿り着けたから傑作になったんだと思っていて。
たぶん漫画を描き始めた段階で、福本伸行にそこに辿り着く保証なんて全くなかったはずで。
でも「お前はここでこうならなきゃいけない奴だもんな」という福本伸行の愛と容赦なさの選択の繰り返しで奇跡のように辿り着けさせたわけで。
本当にたまたま辿り着けたんだと思う。
でもたまたまだからこそ素晴らしいし、だからこそ大号泣ながら読んだ。
でもそれが今回、二階堂にも「ちゃんと起きる」かはわかんないわけで。
でも、起きてほしい。
この男が生きていた意味を、ちゃんとこの男に掴ませてあげてほしい。
たぶん漫画史上でもここまで「作中年齢が過ぎていくスピードが早い」漫画は珍しいと思うのですよ。
不死になって1000年過ぎたとかじゃなく、ちゃんと死ぬ普通の中年男性の年月がここまで1年2年と物凄いスピードで消化されていく漫画は無いと思う。
そこが胸にくる。
だからこそちゃんと二階堂に人生の意味を掴ませてあげてくれと願ってしまうのです。
マジで福本伸行頑張ってあげてくれよぉ。
ちゃんと最後まで付き合って単行本買うからよぉ。


それにしても後半の展開のきっかけになる「ある日の奇跡」の描きかたとか読むと、やっぱり福本伸行はすげえやと思ってしまう。
あの展開になるとしても、そのきっかけとしてあの「こんなことに何の意味が…?」という「なんでか突然思ってしまったこと」からの想像と例え話のロジック連打で力任せに共感させられてしまう感じは「ザ•福本漫画」という感じでたまらんかった。
あの感じはやっぱりこの人にしか出来ねえよなぁ。

【追記】
架純のキャラクターは、まぁ確かにどう考えても「中年オッサンの夢」みたいなキャラクターだと思うんです。
あまりにもファンタジー過ぎない塩梅というか、「いやもう自分みたいな者は贅沢言いませんので」みたいなポーズはキープしつつその中で一番贅沢を言ってやがるみたいなリアリティのラインみたいなとこまで含めての「中年オッサンの夢」。
(あからさまに有村架純を想起させる名前なのも含めて)

でも、それでも、このキャラクターを描いたのは福本伸行にとっては「チャレンジ」だったと思うんですよね。
改めて思い返してみると「福本伸行が描いてきた女キャラで一番」って、そらそーだろとしか思えないくらい、本当に女が描けない人なんだろうと思うんですよね。
(時代的な背景もあるかもだけど)エスポワールに乗る連中の中にひとりも女がいないとかおかしいし、多分どうしても「ヒロイン」が描けないことから生み出されたのが黒沢の最後に出てくる婆ちゃんだったんだろうし(アレはソコがいいんですが)。
そんな人が「中年オッサンの夢」であろうと、ちゃんと生きてる人間として女キャラクターを描いたわけで。
少なくとも自分はリアリティもあるし、何より魅力的ないいキャラになってると思うのですよ。
ちゃんとかわいいと思うもの、架純。
だからラストシーンのあの余韻に嘘なく感情移入出来たわけで。
そして福本伸行自身も思い入れを込めてあのシーンが描けたんじゃないかなぁと思うわけで。

改めて65歳の大ベテランがちゃんと「チャレンジ」もしていると思って読むと、更にこの漫画への思い入れと、最後に辿り着くだろう場所への期待も増してしまうのです。
やっぱり面白い漫画だと思います。『二階堂地獄ゴルフ』。

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