駅の便座の冷たさじゃ、金木犀には敵わない
10月に入りどうしようもなく日常は秋で、例年通り金木犀の香りが街を包み、仕事終わり疲れているはずの帰り道も自然と口角が上がる。秋の気候は最高、そしてその気候の中に金木犀の香りが含まれていることが重要なんだと思う。
嗅覚から季節を感じさせる絶対的存在は金木犀以外ない気がする。”夏の匂いがする“とは言うけど明確に夏の匂いの正体はわからないし、きっと人それぞれ違う香りだ。しかし秋の匂いとなると100人中70人は金木犀を想像するだろう。
そんな秋を報せる金木犀だが、昨今SNSでは誰もがその話をしていて、金木犀で溢れたタイムラインに辟易した誰かの
「金木犀以外に秋を感じないのかよ」
という呟きも見た。
秋に感じる得体の知れない寂しさや、懐かしさの正体が、8割がた金木犀の香りであることは昔から知られていたこと。だけどいざ流行りのようにSNSでその話をされると、自分だけが知っていたはずの秋のワクワクを無作為にバラされたような気分になるのだろう。売れない頃から応援してたアイドルが売れて遠くに行ってしまった気分になるそれと同じ。
調べたところ金木犀は江戸時代に中国南部から日本にやってきたらしい。意外と最近
恐らく売れないアイドルと違い、当時から支えていた古参ファンなど居なくとも、持ち前のポテンシャルだけで人気を獲得してきたのが金木犀だ。
もし平安時代に既に日本に存在していたら、その香りを嗅いで懐かしさに苛まれ、わけもわからずエモくなった紫式部とかが鼻息を荒くしながら金木犀を題材に詩や俳句を詠みまくってただろうな。
「金木犀の香り好きだけど、金木犀の香水とかは違うんだよね〜」
と言っていた同級生がある日の帰り道、
僕が金木犀のコロンをつけていることを知らずに
「もう金木犀の香りするね〜」
と呟いたことがあった。その香りが偽物でも、街中で人をエモくできるのは素敵だ。と思ったのと同時になんとなくその子に申し訳ない気持ちになり、それ以来人前ではつけないようにしてる
そんなふうに高いポテンシャルを元々秘めている金木犀に秋を感じさせられるのは必然であり、街の香りという日常的不可抗力で、マジョリティの意見が
”秋=金木犀の香り“になるのは普遍的なことなのだ。
いざ、金木犀以外に秋を感じることありますか?
と聞かれても、落ち葉や秋刀魚などしか浮かばない。
秋刀魚はズルだな。字に秋って入っちゃってるし。強いてあげるなら
駅のトイレの便座がちょっと冷たく感じたことだ
“秋の空 温もり忘れる 便座かな”
“駅トイレ 前の人の温もりで 少しだけぬるい 便座かな”
駄目だ。字余りだし
このとおり、
駅の便座の冷たさじゃ金木犀の放つエモーショナルには到底敵わない。
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