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恋愛茶屋 7月6日午後3時

そのお店は、山深く水のきれいな川のそば、けれど東京都内にある。
国道沿いにあるけれど、行くにはどこからも遠い場所にある。

―おっ、けっこう中きれいじゃね?
金髪メッシュのひょろりとした男の子は、きれいな黒髪を短くした女の子を伴ってこの店に訪れました。
ドカドカと足音を鳴らして奥のテーブルに向かい、女の子を座らせてからやはり大きな音を立てて椅子に座りました。
―ここは俺がおごるからさ。何でも好きなもの頼めよ。って、メニューこんだけかよ?
声も大きくてやかましいくらいです。

―なんすか、あのチャラいの。
カウンターにいたスギタくんが店主につぶやきました。似たようなものだと思っても、店主は口に出しません。

―まあ、その、あいつとは合わなかったってだけっしょ!
―別れても、またつきあうってこともあるっしょ、なんつーかさ、あんま深刻にならずに、ってか。
大きな声で女の子にいろいろと話しかけています。けれどレモンパイとアイスミルクティーのセットが運ばれても、女の子はうつむいたままでした。

―あのさあ、この店のうわさ知ってっか?
アイスティーをひと息に飲むと、少し声を小さくして、
―ここに来ると、復縁するんだってよ。同クラのダチから聞いたからさ、だから、な。
まだそんなことが。。。店主は心でため息をつきました。

―ありがとう。
―実はさ、シンヤが心配してたとおりだったんだ。
うつむいたまま、女の子は話を始めました。
―もうひとり、別の子ともつきあってたみたい。わたしとはぜんぜん違うタイプの子で、今はその子の方がいいんだって。
―これから夏だから、海に連れて行きたくなるような子が、いいんだって。
女の子は泣きそうにも見える笑顔を、男の子に向けました。

―ふっ。。。ざけんなよ!!
スギタくんがびっくりしてお冷をこぼしました。店主は静かに顔を上げました。
―あんなやつ、別れていいんだよ!ふざけんなよ!!ミズホをバカにするやつなんか!!あの野郎!ふざけてんじゃねえよ!!

女の子は目を丸くして男の子を見つめています。
男の子は急に静かになりました。背を向けていますが耳が真っ赤です。

カウンターをおしぼりで拭きながらニヤニヤするスギタくんを横目に、店主はふたりのテーブルに花を挿したガラス瓶を置いてもいいかな、と思っていました。

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