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恋愛茶屋 7月16日午後11時

そのお店は、山深く水のきれいな川のそば、けれど東京都内にある。
国道沿いにあるけれど、行くにはどこからも遠い場所にある。

店内の明かりを消して、店主は階段を上って行きました。連休の末日で後片付けや終わっていない事務作業で、ずいぶん遅い時間に終わりました。

階段を上がりきったところには、引き戸があります。その引き戸を開けると、ベランダスペースに出ます。
その向かいに別の入口があります。山の旧道沿いに建つ平屋で、店主はここを住まいにしています。
ドアを開けると左手に台所と食堂、奥に風呂場があります。右手は居間と作業場です。食堂の蛍光灯はいつもどおり、スイッチを入れてから少し間を置いて点きました。

この辺りは夜になると風が強くなることが多いのですが、この日はとても静かな夜でした。
風呂を沸かすガスを点けた時に、店主は嫌な予感がしました。

パシン、パシン。
玄関の引き戸を叩く音がします。

こんばんは、こんばんは。
どうして中に入れてくれないのですか。
今日こそは開けてください。

―知らない方を家には入れたくないです。
パシン、パシン。
また叩く音がします。

知っているんですよ。
ここにはひとがたくさんやってきていますよね。
どうしてわたしは入ってはいけないのですか。

たくさん来てないけどな。。。と店主は内心つぶやきました。

どうしてですか。どうしてですか。
なぜ中に入ってはいけないのですか。

バシン、バシン。
叩く音が強くなってきました。

―叩くのを止めてください。ドアが壊れます。

なら、中に入れてください。
どうしてここを開けてくれないのですか。

―ひとが訪れているのは、店にです。ここは住まいです。
―店は今日は終わりました。

どうしてですか。
どうしてですか。
どうして入れてくれないのですか。

バシャン!バシャン!
引き戸を叩く音は一段と強くなりました。いまにも引き戸はけ破られそうです。

―店は明日もやっています。この下の道沿いです。
―これからはお客様としてお越しください。

バシャン!!

その後は、叩く音も声もしなくなりました。

―あ、風呂。
店主は風呂の様子を見に行きました。

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