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鯛飯刑事

先日は仕事先でトラブルが起きたため定時では帰れないと予測し、彼女に晩御飯は買って帰るとLINEした。

私の彼女はお世辞抜きでお料理うま子ちゃんなので、1日の楽しみが一つ減ったことになる。
ディスアドバンテージだ。(言いたいだけ)

仕事の件もあり気分転換を図ろうと、いつもお世話になっているスーパーではなく、
デパートの地下にある少々お高めなスーパーで半額寿司を狙う。

半額寿司といっても、通常価格が庶民レベルの軽く2倍はあるので実質的にはほとんどフルプライスだ。

半額で4桁を叩き出してるお上品な寿司達を眺めていると、隅っこに鯛飯弁当が1つだけひっそりと佇んでいる。

見た目も悪くないこの鯛飯弁当、通常価格が800円のところ、半額の400円。
しかも、よ~く見ると鯛飯弁当を包装しているサランラップに「お湯を注ぐだけできるインスタントお吸い物」までセットで付いている。

どうやらこの生鮮コーナーの大将、只者ではないようだ。

富裕層向けのスーパーとお高く留まらず、庶民の心にもきちんと寄り添っている。

「魚(ギョ)には汁(ジル)」これは、基本の「キ」だ。

そんなことを大将は言いたいのだろう。私もそう思う。
ありがとう、大将。 あんたが大将!!

あまりにもお得だったためノータイムで手に取り、即レジ行きのお会計。
プチ贅沢で自分の機嫌を取ろうとしたが、結局コスパを優先してしまった。

しかし、贅沢はいつでもできるわけで。
むしろ、こういった直感にビビッとくる物を優先して生きていくのが私の人生テーマでもあるし良しとしよう。

そして、家に帰宅し、私はあることに気づく。

この ”インスタントのお吸い物” もしや、別々に食すのではなく、この鯛飯弁当に直接ふりかけ、お湯を足して鯛茶漬け形式で食すのでは???

ビビビ!! 音が鳴る。

機動戦士ガンダムのアムロ・レイの額に白い稲妻が走り「そこっ!」と背面の敵をビームライフルで撃ち抜くように、私にも確かに見えた。
まさに「見える、私にも見えるぞ!」状態だ。

弁当の容器の構造もよく観察するとお湯を注いでも底から漏れない構造になっているではないか!!

星々のような点と点が一本の線で結ばれ、春の夜空に真実という名の星座が浮かび上がる。
あれが鯛茶漬け座だ。

「19時10分、鯛飯弁当、逮捕」

私が鯛飯弁当の腕に冷たい手錠をかけた時、鯛飯弁当の眼は穏やかだった。

お吸い物の傍を離れなかった鯛飯弁当は、まるで自ら逮捕されることを望んでいたのではないだろうか?

私は鯛飯弁当を容器からどんぶりに移し替え、お吸い物をふりかけお湯を注ぐ。

お惣菜を食器に移すのは、私からお惣菜に対する最大限のリスペクトだ。

そして、食す。

美味い。
そりゃそうだろう。
言わなくてもわかる。

私と鯛とお吸い物と大将の想いが入り交じった、素朴で、豊かで、芳醇で、少しだけ夜明けの日本海のような寂しさを感じる味だ。


日本食は難しい。

私は時々そんな風に感じる時がある。
箸の持ち方や、綺麗な魚の食べ方
いい歳なのに、そば湯の正しい飲み方やタイミングもわからない。

今回の鯛飯弁当にお吸い物をぶっかけたのが本当に正しい食べ方だったのかはわからないが、鯛飯弁当との対話は間違ってなかったと思う。

今まで歩んできた人生での数々の選択が正しかったかどうかは、死ぬまでわからないだろう。
己のビビビに従え、さすれば道は開かれん。


半額の鯛飯弁当に学び、この夜、私はまた一つ大きくなったのだ。


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