【怪談】勝手踏切

60代のK子さんが中学生だった頃の話

K子さんが住んでいたのは田舎町だった。

日舗装の道路も多く、今ほど自動車も道路も普及していなかった。

だが、町の近くには線路が敷いてあり、電車や貨物列車が時折通過した。

現在は残っていないが、町の住民が勝手に作った踏切があった。

正式な踏切ではなく、町の住民が足場を付けて踏切のように横断できるようにしたものだ。

いわゆる「勝手踏切」というもので、標識のようなものも設置されていない。

警報機も遮断器もないので、うっかりしていると突然電車が目の前を通過することもある。

電車が通る時は轟音がするが、注意していないと気付かないことも多いのだ。

そんな時、K子さんには仲良くなったおばあちゃんがいた。

隣町のおばあちゃんだったが、その勝手踏切を通る際に、踏切の向こうから笑顔で話しかけて来るのだった。

他愛のない話をしてるのだが、なぜかいつも踏切の向こうから話しかけてくる。

優しい人だったので、K子さんもいいおばあちゃんだと慕っていた。

ある日、そのおばあちゃんが血相を変えて

「K子ちゃん、こっちへおいで!大変やけえ」

とK子さんを呼んだ。

おばあちゃんは勝手踏切の向こうから、しきりに手を招いている。

その様子がただならぬ気配がしたので、K子さんは走った。

K子さんは慌てて勝手踏切の事を忘れていた。

K子さんが踏切へ入る直前、なぜかK子さんがカバンに着けていたお守りが落ちた。

紐が切れたようだ。

K子さんは「あっ」と言って、立ち止まりお守りを拾おうとする。

その瞬間轟音と共に貨物列車が通ったのだ。

もし、K子さんのおまもりが落ちてなければ、K子さんは無事では済まなかっただろう。

貨物列車が過ぎ、茫然としているK子さん。

踏切の向こうに、おばあちゃんが立っている。

おばあちゃんの顔は、憎悪にまみれた表情で、K子さんをにらみつけていたそうだ。

「もうちょっとやったのに」

おばあちゃんはそう言って、振り向くと立ち去ったそうだ。

後で判明したことだが、そのおばあちゃんは勝手踏切で子どもを亡くしていた。

悲しさ、悔しさから子どもに声をかけては勝手踏切に招く行為を繰り返しているらしかった。

当時管轄の警察署も、

「あのばあさん、気がふれとるけえ、相手にせん方がええ」

と言うのみだったそうだ。

そのおばあさんの行為も、死をもって終わりが来る。

おばあさんは、その踏切で貨物列車に轢過され、死んだそうだ。

その時K子さんは高校を出て、町を出ていた。

帰省した時に母に詳しく聞いてみたが、自殺なのか事故なのか分からなかったらしい。

K子さんの母は言った。

「あのおばあちゃんがおかしくなった原因を考えると可哀想だけど…。だからと言って人の道を外すようなことをするもんじゃないわね」

【おわり】

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