【怪談】建設作業員と冬至

建設作業員のG男さんは、本年中割と懐が暖かかった。

梅雨の時期に雨が少なく、一年を通して沢山働けたからだった。

夏は非常に暑くて参ったが、その分例年よりも稼げた。

しかしG男さんにとって今年は試練の年だった。

というのも、仕事は増えたものの、年始から非常に体調が悪かったのだ。

いくら眠っても、疲れが取れず、現場の昼休みに弁当も食べずに眠り込むこともあった。

そのため、夕方には腹が減ってヘロヘロになる。

挙句、体調を崩して風邪を引く……そんなことも多かった。

体調不良は年始から今まで続いた。

彼は生きるためにやむを得ず、微熱があっても黙って仕事に出たりしたこともあったらしい。

G男さんは改善しない体調に、病院を訪ねたこともあった。

いくら寝ても寝たりない。

年中具合が悪い、疲れている。

と訴えた。

だが、結局身体に異常はなく、原因も分からなかった。

G男さんは打つ手なく、あきらめた。

40代も半ば過ぎ、年齢的なものかと自分を納得させた。

若い時のような無理が効かないのだろうと。

そして先日、冬至を迎えた。

奥さんが家の風呂に柚子を浮かべてくれていた。

奥さんは言う。

「あんた、柚子風呂は体を丈夫にしてくれて、風邪を引かなくなるんだってよ。魔除けの意味もあるんだとさ」

奥さんから聞いて、

「こんなんで治ったら世話ねえよ」

とぶつくさ言いつつ、G男さんは柚子風呂に浸かった。

その瞬間、G男さんを激しい頭痛が襲った。

G男さんの脳裏に「小さな祠」のイメージが浮かんだ。

G男さんはピンときた。

今年の正月に地元の仲間と飲んでいる時、気が大きくなっていたずらをしたのだった。

近所の田んぼの近くにある、祠のようなものを蹴倒したのだ。

皆は酔ってはやし立てた。

その時、「ぬるっ」とした悪寒が走ったのを覚えていた。

G男さんはすぐに風呂から上がると、米と酒と布巾を持って祠へ向かった。

祠に着くと、やはり蹴倒されたままだった。

G男さんは祠を戻し、時間をかけ拭き清めると、何度もお詫びをして、素っ頓狂な声で念仏や祝詞を口にした。

その後、米と酒を備えた。

不思議なことにG男さんの体調不良はそれ以来なくなった。

彼は言う。

「多分、神様か、祀られた霊か分かりませんが、俺が罰当たりなことをして腹を立てたんでしょう。俺もいい年をしてバカなことをしたもんです。ですが、あのままだと来年は死んでたかもしれない。柚子風呂には本当に感謝してますよ」

G男さんはそれ以来、大の柚子風呂好きになってしまい、冬至が終わった今も風呂に柚子を浮かべているという。

【終わり】

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