中国人民解放軍の出願特許


中国特許に関する情報を探しているうちに、知財情報コンサルタント野崎さんの中国人民解放軍は特許出願しないのか?(note 2021年5月29日 09:39)  が目にとまりましたので中国特許情報を研究している一人として若干コメントしたいと思います。
 
『”特許に詳しい関係者”が「人民解放軍が特許を申請するというのは極めて異例」』とされていることに対し、「そんなばかな」と憤慨し(おそらく)、人民解放軍の出願特許をGoogle Patentsで検証され反論しています。野崎さんの検証結果からはもちろん多量の人民解放軍出願が抽出されています。
 
野崎さんの憤慨理由は、そもそも“特許に詳しい関係者”が「人民解放軍が特許を申請するというのは極めて異例」とすましていることにあるようです。
 
「Google Patents等でも簡単に調べることができますので、ぜひとも確認してからコメントしていただきたいものです。」と優しい言葉で締めくくられていますが、「特許に詳しい関係者」からの情報であれば(伝聞であるにしろ)“よく調べてから公にしろよ”とあきれているのが窺えます。
 
“特許に詳しい関係者”は日本特許や欧米特許には詳しくても中国特許を調査したことがない方なのでしょうか。
そのソースになったかもしれないサイトも見つかりました。「知財ポータルサイトIP Force」というものです。
 
ここでは「特許庁発行の公報に基づくランキング」として出願特許、登録特許のランキングが公表されています。この出願特許、登録特許のランキングを見てみますと、どうも日本出願特許のランキングのようです。このサイトでも「日本特許庁発行の日本公報に基づくランキング」とすればいいのかもしれません。
 
ここで「中国人民解放軍」と検索すると、表1のような情報が得られます(2023年10月3日現在)。確かにほとんど出願はありません。
中国特許上位出願である通信(IT)大手である「ファーウェイ(HUAWEY)」についても検索すると表2が得られました。毎年、数千件もの出願をしているHUAWEYのデータではありません。

出願人ランキングも22795位までランキングしていますが、どんな意味があるのでしょうか。
 
表1.知財ポータルサイトIP Forceにおける人民解放軍の出願特許

表2.知財ポータルサイトIP Forceにおけるファーウェイの出願特許

野崎さんが「“特許に詳しい関係者”が「人民解放軍が特許を申請するというのは極めて異例」とされている」ということに憤慨したのは、このような日本特許出願を引用したIP Forceのような情報に惑わされて情報を公開したことによるものと思われます。
 
したがって、「人民解放軍が特許を申請するというのは極めて異例」というのも「人民解放軍が日本に特許を申請するというのは極めて異例」とすればまだ救われるかもしれないと思いました。
 
世の中には様々な情報が出回っているので特に調査初心者(研究者)は注意が必要です。誤情報とまでは言えないにしても、このような情報がAIの学習データとして収集されるかもしれません(残念なことですが)。
 
 参考までに日本特許庁の無料データベースJ-PlatPatで外国文献を選択し、中国特許文献を検索してみました。「公知日2000年~2020年、出願人:人民解放」で検索すると68,367件の人民解放軍からの出願が確認できます。J-PlatPatでは3000件を超える案件は表示できないので、公知日2020年12月に絞って検索すると特許と実用新案混在で1,107件が抽出され、抽出されたものはすべて「人民解放军」のものであることを確認できます。
 
 J-PlatPatの「外国文献:中国特許」は、発明の名称~詳細説明までは日本語に翻訳されているので日本語で検索できますが、出願人のみ日本語に翻訳されていませんので、中国特許の出願人については簡体字入力が必要です。したがって、人民解放軍も「人民解放军」と入力する必要がありますが、日本の通常のパソコンでは簡体字が入力できないので日本語でも入力できる「人民解放」として抽出しました。
 
 また、J-PlatPatだけの情報で中国特許を用語検索(日本語)、出願人検索(簡体字)で抽出した情報を3,000件程度であれば無料でダウンロードもできますので、その情報を基に解析なども可能となります。3,000件以上でも公知日などを分割して抽出すれば数万件の情報もダウンロードして解析可能です。
 
尚、人民解放軍に関する特許出願や出願人名の変更などは以下の検索Tipsでもデータで検証しながら紹介していますので参照ください。
検索Tips
中国研究機関の出願特許
出願人名の変更(中国人民解放軍)
 
アジア特許情報研究会:伊藤徹男