あきんどとスタンド【中国語】商(宮城谷昌光『太公望』)
古代中国。商王の軍に家族を殺され、故郷を追われた羌族の少年・望の復讐譚。
それにしても、いまさらだが、「商人」ってすごい言葉だ。
「商」という漢字の原義には諸説あるようだが、もともと商売や商いの意味はなく、商いという営みを始めたのが商と自称する民族だったというのだ。
大昔に商人が商売を始めたころ、「商人」には「商売をする人」という意味はなかったのだ。
当たり前だけど、すごくない?
「商」という漢字は、帽子をかぶって高そうな服を着たかっぷくのいい商人を象形したものです、と言われたら、信じてしまいそうなほどだ。
これってある種の異化作用だと思う。
これで思い出すのは、ジョジョシリーズの「スタンド」だ。
かつて「スタンド」とは、飲み屋、あるいはガソリンスタンド、あるいは照明器具のことだった。
そこに登場したのが『ジョジョの奇妙な冒険』第三部の超能力「スタンド」で、「そばに立つ(stand by me)」から命名されたとされる(注1)。
最初は「?」と思ったし、このネーミングをダサいという人もいるが、私は「スタンド」というなんでもない単語に特別な意味を付与し定着させた、つまり異化に成功した、特異な例だと思う。
これがもし「そばに立つ」ことから「ソバ」と命名されていたとしたらどうだろう。
「ソバ」という言葉は異化され、蕎麦屋は「ソバ使い」と呼ばれ、蕎麦屋では「ソバ使いは引かれ合うってのは本当だな」とか「魔術師の赤(焼きそばのこと)は許さん」とか「わたしの法皇の緑(抹茶そばのこと)は…ひきちぎるとくるいもだえるのだ。喜びでな!」とかいうおじさんたちが、日夜店員を困らせることになっていたかもしれない。
でもガソリンスタンドや繁華街のスタンドでジョジョごっこをしているおじさんは、いまでもいそうな気はする。
注1.「スタンド」は日本語では「幽波紋」とされているが、「ゴースト・バイブレーション」とか「ファントム・ウェイブ」とかにされなくて、本当によかったと思う。
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