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天才的な中学生による、ちょっと変わった中学生の観察日記【読書感想文】宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』

4話目で挫折。

1話目は95点、2話目は90点と高得点だったが、3話目と4話目は普通の小説だった。

学園モノ?はほとんど読まないが、数少ない経験から言わせてもらうと、ジャンル的には重松清みたいな感じだろうか。

申し訳ないが、興味の範疇外である。

しかし1話目は本当によかった。

プログレ華やかなりしころに現れたセックス・ピストルズ、LAメタル全盛期にデビューしたニルヴァーナくらいのインパクトがあった。

きれいな伏線回収、最後の一行の衝撃、○回泣けるといった売りになる要素を排除した潔さ、というか無頓着さこそが、1作目を傑作たらしめていると思う。

成瀬というキャラクターが人気のようだが、どう考えても島崎という高機能な言語化フィルター、天才的ナラティブマシーンあってこそだろう。

もしもシャーロック・ホームズが一匹狼の私立探偵だったとしたら、永遠の名作にはなりえなかっただろう。
 
もしも松本人志が最初からピン芸人としてデビューしていたら、鳴かず飛ばずか、知る人ぞ知るアングラ芸人として終わっていただろう。

明石家さんまや刑事コロンボのように一人で完結するタイプではなく、優秀なバイプレーヤー、女房役、まさにワトソン役がいてこそ光り輝くキャラクター、それが成瀬だ。

私がもっとも感心したのは、島崎が成瀬の行動を毎日、日付とともに淡々と記録していることだ。それこそ朝顔やカブトエビの観察日記の体裁だ。しかもそれが小説としておもしろい。これは一種の発明ではないか。

とはいえ、しょせん地方都市の中学生。魔法少女でも超能力少女でもアイドルでもないただの中学生だ。いくら変わり者とはいえ、たかが知れている。

そのキャパシティを十二分に活かしつつ、常識的でスキルフルないい大人の視点とボイスを持つ中学生・島崎という語り手を得たことで、稀有な短編が生まれることになったのだろう。

2作目はその余力をかって、十分鑑賞に足る佳作となっている。

しかしここからは苦難の道だ。成瀬の奇矯さを増してゆくか、新しいキャラクターの導入、または新しいイベントを設定するしかない。

それはつまり、どこにでもある普通の小説にならざるを得ない、ということだ。

とはいいながら、だからといって、第1作の価値が減ずるわけでは決してない。

この第1作が生まれ、評価され、認知されただけでも、オールドメディアである小説という表現形式にもたらした恩恵は、決して看過できないものがあると思う。

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