測り知れない恐怖【形容詞】unplumbed(H. P. ラヴクラフト『闇をさまようもの』)
異教徒の教会で召喚される怪異と、それに魅入られた作家の狂気を描いた短編より。
とかく抽象的で分かりにくい文章ばかり書く作家だが、それを読むのがまた癖になりもする。
今回気になったのは unplumbed 。plumb は「鉛錘」「(測鉛で)〈海などの〉深さを測る」の意。unplumbed は「測深されていない」「深さの計り知れない」という意味だ。
日本だと「千尋の谷」などと大きな数字を使ってべらぼうな深さを表現したりするが、測鉛というプラクティカルな技術で計測できない深さというのは、より具体的でイメージしやすく、底知れなさが恐怖に結びつきやすい。
海が今よりはるかに危険で謎に満ちた世界だったころに、実感とともに生まれた言葉なのだろうか。
初めて見た、と思ったが、この本では7回も使われていた。被修飾語は gulfs(割れ目), voids(空虚), abyss,(深淵) warrens(トンネル), abysses, depths(深み)。(残りのひとつは名詞的用法)
確かにラヴクラフトの書く小説には、地の底、海の底から湧き出てくる恐怖のイメージがある。
その「測り知れない恐怖」は、これまでもこれからも、読者を魅了し続ける。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?