見出し画像

タイトルは『バッタに喰われにアフリカへ』の方がいいと思う【読書感想文】前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』

Audible。

ずっと気になっていた本。

最近、生物学者や言語学者などによるライトなエッセイ(注1)が増えたなあと思っていたが、もしかして本書が嚆矢だったのだろうか。

虫好きとしてはバッタの話が少ないのに拍子抜けしたが、アフリカでの暮らしはもちろん、ポスドクであることの喜びと苦しみ、地位も年齢も国籍も異なるさまざまな人々との交流など、ともに一喜一憂しながら楽しめた。

こういう文科省推薦図書みたいな本は本来苦手だが、出版したり推薦したりする側の意図はともかくとして、著者には教え諭そう、見習わせようという意図が希薄で(ウケようという意図は濃厚だが)、好きなことを突き詰めたい、その楽しさを知ってほしいという純粋さ(というか執念?)が魅力になっている。

それにしても、バッタが好きで研究者になったのに、バッタのすばらしさを世に知らしめたり、バッタをより繁殖させるのではなく、バッタの被害を防ぐために研究し、その過程でたくさんのバッタをあやめることにもなる、というのは、どういう心境なのだろう。  

私は本が好きでうっかり?司書になってしまったが、もし全体主義国家に生まれていたら、焚書官(注2)の職を得るために本を焼くだろうか?焼かない気がする(拷問されたら別だが)。

だが虫が好きで昆虫食の研究者になったり、殺虫剤の開発に勤しんだり、標本のコレクターになる人は、わりといそうな気がする。

しかしネコ好きでネコの剥製コレクター(注3)になる人はいなさそうだ。

私も虫は好きだが、触りたくはないし、害虫の駆除に躊躇することもない。

このあたりに、人間と虫の関係の特異性がありそうだ。

なお、著者は緑色の服を着てバッタに食べられるのが夢だったそうだが、表紙のバッタのコスプレはどういう意味なのか。草のコスプレをするべきではないのか。

もしかして仮面ライダーへのオマージュだろうか。だとしたら怪人トリカブト(注4)や怪人サラセニアン(注5)のコスプレをするべきではないのか。

ともあれ、安心して人に勧めることができ、「最近どんな本を読みましたか?」と聞かれた時に、躊躇なく挙げることのできる良書ではある。

90点。


注1. 昔の(昭和の)研究者のエッセイと違って、最近の(といってもここ四半世紀くらいのことだが)お笑い芸人のシュールなボケやノリツッコミの影響があって、ジブリやテレビゲームをネタにすることが多い印象がある。

注2. ニューヨーク公共図書館で最も多く貸出された本トップ10に入るという『華氏451度』を、なんと私は読んだことがない。ファーブルを読んだことがない昆虫学者のようなものだ(キンドルに積読はしている)。

注3. もし1個300円くらいだったら、コレクターはいたかもしれないが、それでも私は欲しくない。

注4. モチーフと同じ名前の怪人というのは珍しいのではないか。なぜ「トリカブトン」とか「トリカブター」とかにしなかったのか。面倒だったのか。正式採用した側が「トリカブト」という言葉を知らず、造語だと思い込んだのか。これだけで記事一本書けそうだ。

注5. サラセニアは食虫植物なので、バッタに喰われたい人がコスプレをしてはダメだが、植物怪人は少ないので、やむを得ず例として挙げた。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?