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ネコクインテット #毎週ショートショートnote

 その大猫は、負け知らずだった。大きな身体から、低くしゃがれた声で威嚇を繰り出せば、近づくものは誰もいなかった。
 ある日、大猫がいつものように縄張りを見回っていると、見慣れない四匹の旅猫が目についた。
「おい、俺の縄張りでなにしてやがる!」
 力強く鳴き声をあげた。いつもならその一声で、相手は一目散に逃げ出すはずなのだが、旅猫たちはそうではなかった。一瞬、驚いたような表情を見せたが、その顔色はすぐに喜びで染まった。
 
「なんて素敵な声なんだ!」
「とってもあったかい声ね!」
「分厚くってかっこいい!」
「渋さでしびれちゃうよ!」
 四匹の旅猫たちは、口々に、大猫の鳴き声をほめたたえた。大猫は戸惑うばかりだった。
 
「ボクらと一緒に歌ってよ! きっと気持ちいいよ!」
 旅猫たちは一斉に鳴き声をあげた。そこに、誰が歌なんて、という、戸惑い交じりの鳴き声が一瞬混じった。その瞬間、五匹の猫たちの間を、透き通った風がふわりと通り抜けた気がした。
 
 四匹の旅猫たちは、すごいすごいと、喜びの歓声をあげた。一匹が大猫に再度話しかけてくる。
 
「ボクたちは、旅猫楽団。キミも一緒にきてくれないかい?」
「……考えといてやる」
 
 誰とも群れずに生きてきた大猫だが、なぜかそのときは、突き放すことができなかった。
 
 次の月。その歌声を聞くと幸運が訪れる。そんな噂の旅猫楽団に、ひときわ体の大きい猫が加わったらしいと、新たな噂が流れていた。

(604文字)

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 たらはかにさんの企画に参加しています。

 今週は、私の人生における、大きな決断をした週でした。
 色んなことがあったので、今週は参加しないでおこうとも思ったのですが、途中まで書いていた大猫の物語をそのままにしておくのがなんだかもったいない気がして、遅ればせながら書き上げました。

 相変わらず、410字くらいという制限が守れていなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。次回も頑張りたい!

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