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2月16日(金)死にたいのそばに

今日はとっぷりと疲れてしまった。
身体も心も芯からクタクタで、しかし、どうしてこんなに疲れているのだろうか。

体調が悪いので有給をとりたい、と一緒に働いている女性に伝えた。
「いいわよお。休んでちょうだい。全然有給とってなかったんだものね」
今年で六十二歳になるというその女性は鷹揚に言ってくれたが、
「でも、なんで休むの?」
と間髪いれずに尋ねてきた。
「あ、ちょっと病院に」
と曖昧に答えると、その言葉に被せるように、
「どこが悪いの」
と質問してくる。先輩とはいえ彼女はただの同僚だ。一体どうして有給の取得理由を細かく話さなければいけないのだろう、と思いつつ、
「最近めまいがして………」
などと言うと、
「え、もしかして妊娠?」
と言われてびっくりした。そんなあからさまなハラスメント発言を、まさかこの令和の世の中で聞かされようとは。

愛想笑いを浮かべながら適当にやり過ごしたけれど、だんだん頭が真っ白になっていくような不愉快さがあった。
同僚への怒りというよりは、簡単に越えさせてはいけないプライバシーのボーダーラインをうっかり越えさせてしまった、自分への情けなさ。

帰りに日高屋に寄った。
生ビールを注文し、いきおいよく煽ってから、そらまめと唐揚げと春巻きを注文する。

「もしかして妊娠?」と聞いてきた女性は六十二歳で、わたしの母と同い年だ。彼女にも、わたしと同じ年頃の娘さんがいるという。
母親気分でいろいろと干渉したくなってしまうのかもしれないが、半年前に初めて会ったときから、
「一人暮らし?誰かと一緒に暮らしてるの?」
「結婚してるの?子供はいる?」
とプライベートのことをガンガン質問してくるので、他人から干渉されるのが苦手なわたしは、ちょっとたじろいだ。

それでも「この人しか仕事教えてくれる人いないし、和やかな関係性を築かないと……」と思い、パートナーと同棲していること、結婚予定であること、子供はいないことを伝えた。
彼女は「そう。じゃあ、結婚したら子供ができて、夜遅いシフトには入れないわよねえ。保育園へのお迎えとか、あるもんね。わたしがそのぶん、夜遅いシフトに入らなきゃいけなくなるのかしら……」
と、まだ起こってもいない事態を思い描き、不安そうにしていた。

それ以来、彼女はほとんど毎日のように、
「まだ妊娠してないわよねえ?」
「結婚するって言ってたけど、いつ入籍するか決まってるの?」
と尋ねてくるようになってしまった。
そのうち「ちゃんと避妊してセックスしてるの?妊娠されたら困るのよ」とでも言い出しかねない形相だった。というか、彼女が本当にわたしに問い詰めたいのは実際そういうことなのだろう。

わたしはすっかり辟易した。ひらたく言うなら「なんで入ったばかりの職場のおばさんに、自分の結婚や出産の計画まで言わなきゃならんの?」という気持ちだ。入社したばかりだから、かなり年上の人だから、基本的には温厚ないい人だから、といった理由で我慢し続け、半年働いていたが、今日のことで「もう嫌だ!!!!!!!!」と限界がきてしまった。

しつこいようだが、彼女に腹がたっているわけではない。
毅然とした態度で「それ、ハラスメントですよ。言っちゃダメですよ」と伝えられなかった自分に腹が立つのだ。
わたし、カッコ悪い。

日高屋でシメの半ラーメン(味玉トッピング)まで食べたら、お腹がいっぱいで気持ち悪くなった。
帰りの電車での気分は最悪だった。
わたしはストレスを感じると過食に走る。
高校生の頃は、大量の食べ物を食べまくってから吐いていた。いわゆる過食嘔吐、摂食障害だ。

現在、摂食障害は治っているけれど、治っているというより「もう十代じゃないんだし、いい歳してカショオってるわけにイカンよな」という世間体(?)でもって、なんとか耐えているという面が大きい。
本当は今でも大量に食べたいし、吐きたいし、死にたいのだ。

夜十一時に帰宅。
パートナーは会社の人たちに誕生日会をひらいてもらったため、帰りがわたしより遅かった。銀座のカラオケから十二時半に帰ってきた。プレゼントにもらったという、楽天イーグルスのキャップをかぶっていた。

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