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一次創作小説まとめ・ハリエンジュの赤い星

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一次創作小説まとめ
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キャラクター設定 ハリエンジュの赤い星

ハリエンジュの赤い星 CharacterDesign tatinami 千種川雅貴(ちくさがわ・まさき)  冷静沈着だが興味があることはなんでも尋ねる性格。半年程前に事故に遭っており、それ以前とは性格が大きく異なっているとは彼の知り合いの発言。  綺麗系の左右にほぼ対称な顔立ち、すらりと高い背。十人が十人、彼を綺麗な男だと認識する。  事実は異星の生命体が精神のみを千種川雅貴という男性に潜り込ませた存在。  地球よりも遙かに優れた文明を持つ彼らは、地球という遅れた文明がど

美しい顔の主

title by 蝋梅(https://roubai.amebaownd.com/)  ぐるるるる。  可愛らしい小型犬は、牙を剥き出しにして、喉を鳴らして唸り声をあげている。飼い主らしい老婆は、そんな愛玩動物にあらあらと困った顔をしている。  体勢を低くし、唇をめくって歯を剥き出しにする。背中の毛を逆立てることまでして、最上級の威嚇の姿勢を見せる小型犬に、千種川はちらと一瞥するだけで去っていく。そんな彼の背中に、真っ白でふわふわな小型犬はぎゃんぎゃんと数度吠える。まるで飼

ディミヌエンド、ジ・エンド

title by scald(http://striper999.web.fc2.com/)  典型的なオタクファッションといえる、チェックシャツに褪せたジーンズ。大きな黒のリュックサック。毎日風呂に入ってはいるらしく、せめて清潔感があるのが取り柄だろうか。  大学内では、人が集まらないごく少人数で構成される、同好会のようなサークルは珍しくはない。男が所属するサークルもそういうサークルである。  超常現象調査同好会。いかにも人を選びそうなサークルである。サークルの会員も、男

無邪気時々悪魔

 フランチャイズのファストフード店。その一角に優と千種川はいた。二人は一袋のフライドポテトをつまんでいた。  おもむろに千種川が口を開く。彼の口から、彼に似合わない単語が出てきたことに、優は手元のフライドポテトから視線を上げる。 「先日はエイプリルフールでしたね」 「あー、そうだったわね。なんか、春休みで引きこもってたから、そんな日もあったなー程度の認識だわ。別にSNSをいつも見てるわけでもないし」 「企業のツイッターアカウントなどでは、エイプリルフールに乗じたユニークな投

星の刻/レコードの上で

title by OTOGIUNION(http://otogi.moo.jp/)  昔、顔が良くて気になっている人が居た。  女遊びが激しくて、いつも誰も彼もを値踏みするような目で見ている人だったけれど、とにかく顔だけが好みだったのだ。  そんな人が、大学入学を控えて事故に遭ったと聞いた。聞いたときは頭が真っ白になったし、病院を突き止めてお見舞いに行くべきか、それはもう迷いに迷ったのだけれども、結局の所、ただのクラスメイト以上の関係では無かったのだからと辞めたのだ。  

飴細工でくるんで頂戴

title by icca(https://iccaxx.web.fc2.com/)  あたしの妹はそりゃあもう、誰に似たんだか分からないほど美人だ。十人並程度のあたしとは雲泥の差で、よく見ればなんとなくまつ毛の長さが似ているね、と言われるくらいには似ていない。  母もまつ毛は長いが、妹はもっと長い。父も鼻筋は通っている方だが、顔がすこぶるいいかと言われるとそんなことはない。一家の血筋を遡っても、別にめちゃくちゃな美人がいたと言う話は聞かない。  誰に似たんだか分からない妹

一降りで恋に落として

title by icca(https://iccaxx.web.fc2.com/)  彼女を見た時、脳天に電撃が落ちるような感覚を覚えた。それはあまりにも古典的な一目惚れの表現のそれに、我ながら苦笑したのは後のことだ。なぜなら、当時はあまりにも唐突すぎて、一瞬、いやしばらく理解ができないほどだった。  グラマラスな、と一言で括るにはあまりにも乱暴で、視界の毒になるほどに扇状的だ。胸の肉も、尻の肉も、それを支える脚にもしっかりと筋肉がついているのが分かる。そう、脂肪だけでは

青臭い哲学者

title by scald(http://striper999.web.fc2.com/) 「節分ですか」 「そ。知ってんでしょ」 「ええ。元は季節の始まり、立春などの前日を指していましたが、江戸時代のころから主に立春の前日を指すようになったのだとか」 「へえ。そうだったんだ。そこまでは知らなかったわ」 「季節を分けるから節分、だそうですよ」 「ああー、漢字の由来もそこなんだ」  あんた、本当にそういうこと詳しいよね。そう優がスマートフォンを触りながら返事をすると、ウィ

ベリーもナッツもここでは無用

「クリスマスじゃん」 「ええ、キリスト降誕祭と聞きましたので。欧米では一般に家族で過ごすものと聞いておりますが、日本では恋人と過ごすと聞きました。ぼくと優はそのような関係性ではありませんが、そのように誤解されることも多々ありますから、ぼくなりに乗っかってみる、ということをしてみました」 「あんたってたまに面白いこと考えるよね……まあ、いいけど。え、てかなにこれ。めちゃくちゃおいしそうじゃん。砕いたナッツとか、家で出るケーキにはないし」 「大学の学生に聞きました。クリスマスに仲

犬の跳ねる白の絨毯

 ほかほかと湯気を立てている中華まんを、あち、と言いながら優は掴む。敷き紙を剥がして中華まんを二つに割る――中は肉まんのそれの片方を千種川に渡す。きょとん、としている彼に、あげる、と優は言う。首を傾げている彼に、ため息をつきながら優は手に押し付ける。押しつけられた千種川は、不思議そうな顔をしている。どうして肉まんを押しつけられたのか、さっぱり分かっていない顔だ。 「あげる」 「……それは優が購入したものでは?」 「ん。だからあげる。あたしが買ったものだから、別にいいでしょ?

どんなにたくさん夜があっても

title by as far as I know(http://m45.o.oo7.jp/) 「秋っぽいことしよ。月見とか」 「なるほど。中秋の名月というには早すぎますが、今晩月を見ますか?」 「いいよ。夜中に出歩いても、別にうちの親はなんも言わないしね」 「ふむ。ですが、あまりに遅い時間に出歩かせるのは犯罪に巻き込まれる可能性が非常に高くなります。日が沈んでから、二時間ほどにしましょう」 「んん……まあ、いっか」  そんなやりとりをしたのが、今から一週間ほど前である。

人はそれを恋と呼ぶが、彼らの間に愛はない

 千種川雅貴(ちくさがわ・まさき)という男は異様なまでに顔がいい。  紫がかった黒い髪は短く切り揃えられ、綺麗な天使の輪がかかっている。黒いまつ毛は女子も羨むほどに長く、シャープペンの芯だって――もしかしたら、ボールペンの芯だって余裕で乗る長さだ。  モデルかよと突っ込みたくなるほど小さい顔に、バランスよく配置された顔のパーツ。人の顔は左右非対称なんて言うが、この男の場合はそれが最小限らしい。いや、むしろないのかもしれない。完璧なまでに左右対称であるように見える。  赤い舌に

大輪の炎の花はまだ遠く、

「昨日は花火の日でした。ご存知でしたか?」 「花火? あれって八月じゃなかった?」 「はい、八月にもありますが、五月にもあります。厳密には、旧暦の七月ですが」 「ああ、旧暦か。旧暦だと、日にちがズレるんだっけ」 「はい。新暦、グレゴリオ暦は地球の公転を基準に計算されていますが、旧暦は月の満ち欠けを基準にしています。だからこそ、一年を十二で割ると十一日少なくなります」  そこで千種川は一度言葉を切ると、続けてもいいでしょうか、と尋ねてくる。以前、一息に長い説明を話した際、優が

スーパールーナーエクリップス

「月食だって、今度の……いつだっけ」 「二十六日ですね。二十時十一分ごろから十五分程度と聞いています」 「へー。見れる時間、それだけなんだ」 「はい。そのようです」  じゅずずずず。  シアトル系コーヒーショップの季節限定フラペチーノを啜りながら、優は興味なさそうにへえ、という。  ソイラテをちびちびと飲んでいる千種川とクリームを啜る優の二人は、賑やかな店内に置いても浮いていた。  それも仕方がないことなのかもしれない。誰もが――よほど捻くれ曲がった美醜観を持っていなければ