マガジンのカバー画像

一次創作まとめ・嗤うノウゼンカズラ

12
一次創作まとめ
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

嗤うノウゼンカズラ キャラクター設定

嗤うノウゼンカズラ CharacterDesignアマド 山崎アラン 少しおっちょこちょいだが、明るく溌剌とした好青年。一人称 オレ ひょろりとしているが、肉がつきやすい体質なのを気にしており、甘いものはあまり食べない。 趣味はウィンドウショッピングと、ネット通販でカートに商品を入れて支払い画面でキャンセルすること。 失踪した両親の残した莫大な借金があり、病気で入院している妹がいる。 手で持てる無機物を移動させることが出来る。 半径2m以内に限る 篠崎美晴 穏やかな性格。

嗤うノウゼンカズラ閑話 スペシャルビッグサイズストロベリーチョコレートパフェ

「おまたせしましたあ」  店員がカートに乗せて運んできたものを、どん、とテーブルに置く。ごゆっくりどうぞー、とやる気のない返事で去っていく店員を他所に、アランは掛けていたメガネが汚れていたのかな、と思わず現実逃避をする。  眼鏡をパーカーの裾で磨いたところで、見えるものは変わらない。相変わらず、テーブルの中央には食品が鎮座している。  肘を机について、顎に手を置いた美晴が、大きいね、とのんびり声を上げる。眼鏡をかけ直したアランはそうですね、と唖然とした声を上げるしかできない

嗤うノウゼンカズラ2日目-夜

 深夜。第三区域の奥まった港にある、再開発が予定されている半ば放棄された倉庫街の一角にある、コンテナの中にベルクはいた。  常と変わらぬ黒地のストライプジャケットに、無地の黒いスラックス。赤地に深い赤色のトライバル模様が目立つシャツ。黒いネクタイと、黄金色のネクタイピンが彼がまだ眠る予定がないことを見せつけている。  ベルクはいらだち交じりに舌打ちを打つと、両手を一瞬光らせる。迫り来る弾丸は、彼の体に触れようとした瞬間、弾丸の先から削り取られるように消えていく。消える弾丸と無

嗤うノウゼンカズラ 2日目-昼04

「ちなみに、向こうの扉ってなにがあるのかな」  そう言ってアランが指を刺したのは、この部屋に唯一ある扉。気になんの、と少年・ユウキが言うものだから、そりゃあね、と肩をすくめるアラン。なにもなかったと思うけど、と言いながらユウキは扉をぐっ、と押し開ける。  扉の向こうには何もなく、ただただ暗い闇が広がっていた。何もないでしょ、と言ったユウキ。そうだね、と言ったアランだったが、扉の向こう側を覗き込む。きょろきょろと周辺を軽く見ていると、しばらくすると目が慣れてくる。アランはぎょ

嗤うノウゼンカズラ2日目-昼03

 目が覚めると、そこは一面のパステルカラーの部屋だった。  床も、天井も、壁もパステルグリーンやパステルブルーなどの色が使われ、置いてある大きなブロックや積み木、ぬいぐるみたちも、柔らかそうな素材である。そして、アランの向かいには扉が一つある。背後にはなにもなく、おそらく、その扉から出て仕舞えば、この空間から出られるのではないか――そうアランは考える。  しかし、その扉の前には子どもが陣取っていた。ブリキの人形だろうか、デフォルメされたロボットを握りしめた子どもは、目を赤くし

嗤うノウゼンカズラ 2日目-昼02

 灯台の近くにあったカフェに入り、チョコレートサンデーと、ランチタイムだからとパスタとオープンサンドを各々が注文する。チョコレートサンデーだけは奢りますけど、とアランがちょっとだけ恨めしい目で言えば、オープンサンドは自分で出すが、とはん、と鼻を鳴らすベルク。だったらチョコレートサンデーも自分で支払ってくれ、と思いつつも、サンデーを奢る名目でついてきてもらった以上、アランはその言葉を飲み込むしかないのである。 「結構ホテルから距離はあるけれど、綺麗な場所だよね、灯台」 「本当

嗤うノウゼンカズラ 2日目-昼01

 どうしてこうなった。  誰にともなく、アランは灯台の上で疑問を浮かべていた。  朝にベルクと灯台に観光に行く約束を無理矢理取り付け、準備を済ませたアランは息を切らせてフロントに向かえば、すでにベルクがそこで待っていた。遅ェ、と文句を言う彼をなんとかかんとか音便になだめすかせて、電車に乗るための駅に向かう時だった。  やあ、と後ろから声をかけられ、振り向いてみればそこにいたのは昨日訪れた喫茶店のマスターだった。偶然だねえ、と言いながら歩いてくる彼に、そうですねえ、とアランは

嗤うノウゼンカズラ 2日目-朝

 朝食付きプランにしていたため、アランはホテルで借りている部屋の外に出ることとした。朝食をつけてもつけなくても、料金が変わらないのであれば付けてお得感を楽しんでしまう。そういうアランは人種であった。どんな朝食なのだろうか、と浮かれながら、部屋の外に出ると、ちょうど隣の部屋の扉が開く。  そんな漫画みたいなことあるんだなあ、と思いながらアランは隣室の人に朝の挨拶をしようと口を開いて、目も口もあんぐりと開けてしまう。かけていたメガネが少しズレる。そんな彼に、けっ、と隣人は悪態をつ

嗤うノウゼンカズラ 1日目-夜

 チェックインを済ませ、部屋に入ったアラン。兎にも角にもまずは部屋中を確認すると、内側からチェーンロックをかける。オートロックで外側から開けられないらしいが、それでも念のためだ。念のため、にしてはいささか心許ないのだけれども。窓もはめ殺しなことを確認して、一息吐いたアランは、そのままゴロンとベッドの上に大の字になる。今日一日の出来事にすっかり精神的に疲れてしまっていたらしく、そのまま瞼はだんだんと下がっていく。 「あー……荷物の整理しないと……Wi-Fiも繋げないといけない

嗤うノウゼンカズラ 1日目-昼02

「で、気になってる店ってどこなんですか」 「そんなに急かすんじゃねえ。お前、観光客だろ。その辺でもキョロキョロしてたらどうだ」  悪い景色じゃないだろ。  男がそう言うように、たしかに風景は悪くはない。白を基調とした建物は、材質やデザインもそろえているのか、どこまでも眩しく、どこまでも清潔だ。白色の歩道タイルも、目の色素が少なければ痛いぐらいに、太陽の日差しを反射させている。街路樹は等間隔に生やされており、穏やかで涼しい夏の風に青々とした葉を揺らしている。  入場口から比較

嗤うノウゼンカズラ1日目-昼01

「カッコイイなこれ……シンプルで……」    アランは手首に巻かれたスマートデバイスを見ていた。手首を捻ったり、あちこちの角度から見ても、それはただのシルバーの飾り気のないブレスレットだ。ブレスレット、というにはいささか男性的で無骨なデザインであるのは否めないのだが。  旅行者全員に装着されたそれは、現金をチャージして電子決済できるだとか、生命反応の確認のためとかなんとか……あとはなんか言っていたような気がするが、アランはよく覚えていない。島にいる間は身につけなくてはならない

嗤うノウゼンカズラ-プロローグ

 この世界は総じてわりとクソなところが多いと思う。  例えば、両親が蒸発するとか。例えば、蒸発した両親がアホみたいな額面の借金の連帯保証人になっていたとか。例えば、残された子どもが、その借金をこつこつ返済しているとか。例えば、子どもの妹が病気で、治療のために多額の金が必要だということとか。  まあ、世の中にはそんなクソを、全て背負って生きる青年も存在する。哀れにも、可哀想なことに。 「まあ、それでもオレは元気に過ごせてるだけありがたいよなあ」  彼、山崎アランは、かき上げ