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共同研究から生じた発明は共同出願しなければならない!?|出願人の確認

発明提案を受けた際に、発明者から「これは共同研究に関連する発明なので、相手方との共同出願になります」と言われることがありますが、「共同研究に関連している=共同出願になる」と無意識に思ってしまうのは良くないと思っています。

もし、ここで「相手方の貢献はほとんどないのですが、共同出願にしないといけませんかね…」なんて言われれば、当社の単独出願にできるかもと気づくことができますが、発明者が自発的にこういった情報を出してくれるケースは少ないです。むしろ、知財担当者のほうから聞き出すべき情報だと考えてます。
また、当社単独出願にできるのに共同出願としてしまうケースだけではなく、逆のケースもありえます。本来共同出願とすべき発明であるにもかかわらず、うっかり当社だけで単独出願しようとしてしまう場合には、相手方との関係が悪化すること必至です。

共同研究に関連して生じた発明が共同出願になるのか、実は当社(又は相手方の)単独出願としてもよかったのか…を確認することは、実は重要なんじゃないかなと思っています。出願人の確認、特に共同出願とすべきか否かを確認する際のポイントをまとめておきます。


STEP 1:発明者の確認

最初に確認すべきは、共同研究の成果物であろうとなかろうと、「本発明の発明者は誰なのか?」ということです。発明者の言うことを鵜呑みにせずに、まずは事実確認として、法的観点から発明者に該当するのは誰かを確認しています。

基本的には、下記の3パターンのうち、どれかに該当するはずです。
 1:当社・社外の両方に発明者が含まれる。
 2:当社のみが発明者である(社外の発明者はいない)。
 3:相手方のみが発明者である(当社の発明者はいない)。

発明者の認定については、下記の記事を参考にしてみてください。

STEP 2:関連契約の確認

発明者を確認できたら、次に、関連契約を確認します。

相手方との何の関わりもなく共同出願したいという発明が生じることは少なく、その発明が生じる背景となった取引に関する契約(共同研究契約、取引基本契約、秘密保持契約など)があるはずです。
この契約において、発明が生じた場合の取り扱い(権利帰属に関する規定)が定められていることと思います。多くの場合には、下記のA~Cの3パターンのうちのどれかに分類されるはずと思います。

 A:契約上で明確に定めておく。 
  A1:当社に単独帰属させる。
  A2:相手方に単独帰属させる。
  A3:共有とする。
 B:発明者が所属する当事者に帰属させる(発明者主義)。
 C:別途協議とする。

パターンAは、契約で権利帰属を定めておくものです。当社または相手方のいずれか一方のみに単独帰属するパターンをA1・A2としていますが、これは開発委託の場合だったり、相手方との力関係が大きい場合などが多いように思います。共有とするパターンをA3としておきます。契約の種類としては、これらを組み合わせたハイブリッド型もありますが、今回の発明がどれに当たるかを確認すれば、A1~A3のいずれかに決まるはずです。

パターンBは、発明者が所属する当事者に帰属させるものです。単独発明であれば一方当事者にのみ帰属し、共同発明であれば両当事者に帰属(=共有)することになります。

パターンCは、契約時には取り決めずに先送りとしたものです。この場合には、発明が生じたときに協議することになります。

STEP 3:原則的な取扱いの確認

STEP 1とSTEP 2の結果を掛け合わせた表1が、本発明の権利帰属=出願人の考え方の出発点となります。

表1 本発明の原則的な取り扱い

表1を見るとわかるように、STEP 2で確認した契約上の取り扱いに従うと考えておけば、大きな問題は生じないと思います。そうなると、発明者を確認する必要があったのか、と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、契約上では、単独発明と共同発明とで取り扱いを変える場合もありますし、後述するSTEP 4での協議スタンスが変わってきます。また、事務対応の面では、発明者は願書の記載事項でもあるため、どうせ確認することになりますし、原則通りの取り扱いであっても必要な手続きや対応が異なる場合があります。
私は、一番最初に確認しておくほうが、事務対応の面で忘れないですし、いろいろと楽じゃないかな、と思います。余談ですが、内容を検討する際にも、窓口の方とは別の発明者がわかっていれば、「あの人が関わっているならこういう背景があるのかな…」などと想像することもできるので。

STEP 4:出願人の決定

STEP 3で確認した原則的な取扱いをベースにして、今回の出願人を決めればよいです。
発明の権利帰属の取り扱いは、「特許を受ける権利」を誰に帰属させるかを事前に定めているにすぎません。何も決めていないパターンCはもちろん、パターンA・Bであっても、出願を前に改めて検討・協議したいということならば、検討・協議すればよいと思います。

パターンC(別途協議)の場合

パターンCの場合には、発明部門では相手方との協議によって自由に決められるようなイメージを持ちがちですが、私は、発明者主義が適用される可能性が高い(=パターンBと同じ)と思って対応しています。

出願に必要な「特許を受ける権利」は、発明と同時に、発明者に原始帰属します。そのため、本発明に係る「特許を受ける権利」は、発明者が所属する当事者が権利を有していることになります(権利承継手続きや、職務発明の予約承継などの細かい説明は省略しています)。何も協議が進まなければ、今の状況に基づいて、発明者主義で進めていくしかありません

特に、この協議によって発明者主義を修正しようとしても、話がまとまらないケースのほうが多いのではないかと思います。もちろん、うまくいけばありがたいですが、簡単に決まるのなら、そもそも先送りにしていないはずです。最初から落としどころを想定しておかないと、無茶な協議に付き合い続けるわけにもいかない(出願日確保も重要)ですし、相手方にも失礼になってしまいます。

パターンA(契約上で明記)・B(発明者主義)の場合

これらのパターンの場合には、事前に定めた取り扱いからの変更を協議することになります。なお、特許法上での取り扱いは発明者主義(パターンB)ですから、Aのパターンは、契約時に一度契約自由の原則に基づいて修正していることになります。
協議の際には、この原則的な取り扱いが頭にあるか否かで、協議のスタイルが変わってきます。これを知らないでいると、相手方に失礼な態度を取っていることに気づかなかったり、自社に損を与えることにもなります。

例えば、原則的な取扱い上では相手方に単独帰属するところを、共有にしようとするのであれば、相手方に譲歩いただく(当社としてはお願い)ことになります。一度決めた取り扱いを変えてもらうためには、相手方への「お土産」が必要になると考えておいたほうがよいでしょう。
一方、当社単独帰属でよいことを事前に定めているのであれば、何も当社から共有を申し出る必要はありません。もし共有にするのであれば、当社としては見返りが欲しいところです。このパターンで、もし開発部門が「相手方がお客様だから」などという理由で共有にしようとしていれば、知財担当者の役割としては、安易に同意せず、一度ストップをかけるべきです。一方、このような法律や契約などの根拠・考え方を理解したうえで、当社が譲歩しようとする背景などがあって共有にするというのならば、それは一つの考え方(事業判断)だと思います。

何も協議が進まなければ、今の状況に基づいて進めていくしかないというのは、パターンA・Bの場合も同じです。それが嫌なら、はじめにしっかり決めておくべきだった(先の契約時に譲歩すべきでなかった/見極めが甘かった)ということなので、よほどの場合でなければ、諦めも必要だと思っています。

協議時の注意点

当社有利な場合であっても、相手方に対して横柄な態度を取るような品のないことはしないほうがよいです。別のケースでは立場が入れ替わることは多々ありますし、よくない評判は業界内ですぐに広がります。
言いたいことをしっかりと主張することは大事ですが、礼を尽くすことを忘れずに接したいところです。

関連記事

最終的に、自社単独で特許出願することになった場合の留意点については、以下の記事をご参照ください。


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