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共同研究の成果を自社単独で特許出願する際の留意点|単独発明の確認

他者(企業・大学等)と共同研究を実施する際には、共同研究契約などの契約において、発明等が生じた場合の取扱いが定められるのが一般的です。例えば、以下のような規定が設けられるのではないでしょうか。

第〇条(知的財産権の取扱い)
1 甲及び乙は、本共同研究の実施に伴い発明等が生じた場合には、速やかに相手方に通知しなければならない。
2 甲及び乙はそれぞれ、自己に属する研究担当者等が、本共同研究を行う過程で単独で発明等を行った場合は、単独で発明等を行ったことについてあらかじめ相手方の確認を得たうえで、当該発明等を単独で出願等することができる。
3 甲及び乙は、甲に属する研究担当者等及び乙に属する研究担当者等が、本共同研究を行う過程で共同して発明等を行った場合には、当該発明等に係る甲及び乙の持分を協議により定めたうえで、共同して出願等するものとする。

ここで、共同研究を実施する中で、相手方の貢献なく発明が生じた場合には、この規定(具体的には第2項)に基づいて、自社の単独発明として単独出願することが考えられます。今回は、このように自社の単独発明として手続きを進める場合の留意点について、まとめておきます。
なお、以下ではすべて「共同研究」の場合として説明しますが、共同開発等であっても、基本的には変わらないと思います。


規定の目的

第2項のうち太字にした箇所(相手方の事前確認を得る義務)は、共同で出願すべき発明であるにも関わらず、相手方が単独で特許出願してしまうのを防止するのが目的です。第1項(発明が生じた場合の通知義務)だけでは、権利帰属に疑義があっても単独出願することを防げないため、単独出願しようとする当事者に対して、追加の義務を負わせることで、抜け駆けができないようにしています。
一方、単独出願しようとする当事者から見れば、本発明への関与がないことを相手方に認めてもらうことで、後になって権利帰属で揉めることがなくなりますので、本発明について自社の自由な実施等を保証できるとも言えるでしょう。

対応時の注意点

本発明の生じた背景を確認し、共同研究の成果といえるのかを確認しておいたほうがよいと思います。そのうえで、共同研究の成果といって差し支えない場合とそうではない場合とでは、対応を区別することにしています。

共同研究の成果である場合

「共同研究を行う過程で発明等が生じた」といって差支えない場合には、共同研究契約(上述した第〇条第2項)に基づいて、相手方に対して、自社の単独発明であることを確認してもらうことになります。

具体的な対応としては、①相手方へ確認を依頼する書面を送る(承諾の返信をもらう)、②共同研究に関する打合せ議事録を残しておく、などが考えられます。どの方法を取るかは、相手方との関係や発明が生じた経緯・重要度等に応じて選択することになろうと思います。
ここで、①書面(レター・メール)を送る場合には、発明した側から相手方に対して「共同研究契約 第〇条第2項に基づいて、当社単独発明であることを確認いただきたい」といった依頼状を送ることが考えられます。②議事録に残す場合には、「〇〇の発明については、A社の単独発明であることを確認した」などの記載を残しておくことが一案でしょう。いずれの場合でも、「この発明に対して、単独出願を認めた」という記録を残しておくことが重要です。

なお、レターや議事録の場合には、後から問題になりそうなケースは多くないと思いますが、メールの場合には、後になって「合意したものではない」と言われてしまうリスクを気にしておいたほうがよいと思います。
例えば、相手方からの返信がなかったり(自社から一方的に送るだけでは「合意」の証拠とはいえない)、複数の用件にまとめて返信されたり(何に対する合意か特定できず、別用件への合意だったと言われる余地が残ってしまう)することが考えられます。第三者が客観的にそのメールを読んだときに、単独出願を承諾していると確実に理解できるかを確認し、懸念がありそうと感じたら念押しで確認する(例えば、「単独出願のご承諾ありがとうございました」との返信をしておく)など、リスクを低減する工夫をしたほうがよいように思います。
なお、あまりしつこすぎて、今後の関係に支障が生じても困るので、ほどほどにも注意しておいたほうがよいと思います。

共同研究の成果ではない場合

「共同研究を行う過程で発明等が生じた」とは言えない場合もあり得るかと思います。例えば、共同研究とは別の枠組み(自社内で並行して行っている研究)での成果物の場合や、共同研究開始前に生じた発明(発明発掘や出願準備に時間がかかったり、当初の想定よりも契約締結が早まったために、特許出願が共同研究期間内にズレ込んでしまった)である場合などです。

この場合には、「共同研究を行う過程で」生じた発明等にはあたらず、相手方の確認をとる必要はないようにも思われます。しかし、そのように解して特許出願してしまうと、あたかも、共同研究の期間内であるにもかかわらず共同研究に関連する出願が無断でなされているかのようにも見えてしまうために、共同研究を遂行するうえで相手方の信頼を損なうおそれがあります。特に、発明者の中に共同研究メンバーが入っている場合には、相手方がその出願を見つければ、厳しい目を向けられるかもしれません。

そのような懸念を払拭するために、相手方との紛争防止の観点から、筋を通しておく意味で、確認を求める場合があります。共同研究の中で、担当者間で会話していることもあるかもしれません。
この場合の対応では、相手方への依頼状に「共同研究契約 第〇条第2項に基づいて、当社単独発明であることを確認いただきたい」という表現を用いて差支えないか、慎重に検討したほうがよいのではないかと考えています。

その理由は、共同研究契約では、知的財産権の取扱いとは異なる条項で、「研究成果」の取扱いを定める場合があるためです。そして、研究成果の取扱いについては、知的財産権ほどに縛りを設けずに、一定の条件の下で、双方に自由な実施を認めているケースは少なくないように思います。
そのため、本当は共同研究とは無関係であったといえる場合でも、「共同研究契約 第〇条第2項に基づき」としてしまうことで、本発明が「共同研究の成果物」であることを自認したものとみなされ、共同研究成果としての自由な実施は認めていると扱われてしまうリスクがあると思うからです。

したがって、本発明が共同研究とは無関係であるならば、発明が生じた経緯も説明したうえで、「共同研究の成果ではないが、共同研究契約第〇条の趣旨を鑑みて、当社単独発明であることを確認してもらう」というスタンスで臨むことが好ましいのではないかと考えています。もし相手方と認識が異なる場合には、出願前に問題点を顕在化させることができ、将来の紛争を防止することにもなるからです。
「本共同研究を行う過程で」の解釈次第のようにも思われるため、共同研究の成果と認めても問題になる可能性は低いかもしれませんが、少しでも事業上の不利益にならないように心がけています。


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