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エブリスタのエンタメ×ヒューマン作家さんをご紹介♪

 noteで交流のあるクリエーターさん、皆さん唯一無二のセンスをお持ちで「ちょっとこの方見てくださいな!」と片っ端からご紹介したくなる方ばかりなんですが、今回は小説をお書きの出雲黄昏さまをご紹介させていただきたく…!

 出雲さまの作品、とにかく個性が突き抜けています。しかし個性全開のエンタメに振りきっていると思いきや、繊細な表現と骨太なヒューマンドラマでぐいぐい読ませる。軽快で切れ味のいい筆致、入念に練られた堅牢なプロット、豊かな表現力、重いテーマとユーモアの絶妙なバランス。センスが素晴らしいなと脱帽するばかりです。
 
…と私がぐだぐだ語るよりも読んでいただきたい!
 まずは『オトメシ!』。

 元バンドマンのアラフォー・五十嵐が、破天荒な性格の部下・姫原の歌い手としての才能を見出しプロデュースに乗り出す。そのうちに、忘れようとしていた音楽への情熱や悔やみきれない過去と向き合っていく…というのがあらすじです。

 大衆グルメ×音楽ドラマ×コメディ…どんなジャンルなのだろう?イメージするのが難しい。しかも主人公五十嵐は、39歳部長職元バンドマン。どういう心構え(?)で読めばいいのだろうか…?と思いつつ読み始めました。
 導入部分はキャラクターの軽妙なやり取りで進行するため、なるほどライトな味わいのコメディなんだ、よしわかった…と思いきや。読み進むとぎくりとします。
 あれ?これ、キャッチーな内容に見えるけどちょっと待った…!人間の深い部分にどんどん筆が食い込んでいく。テーマが予想とはまったく異なる部分にあるぞ…と覚り、何だこれは、面白い!となるのです。

 主人公が「中年」であるがゆえに、その人生はまっさらではなく大小さまざまな傷がついている。目を背けてきた取り返しのつかない過去もある。一見ライトな筆致で描かれるのは人生半ばに差しかかった「いい大人」の物語で、それが突拍子もなく思われる物語に地に足のついた重みを与えているのを感じます。
 コメディの要素を除いたシリアスな人間ドラマにもできるけれども、そうしない。そこに面白さと妙味があるのだと感服します。大衆グルメ部分も単なるコメディではなく、意味があることにも気づかされます。豊かに表現されるキャラクターの内面や、音楽や業界の描写にリアリティを与える知識も圧巻。そして構成力がすごい。
 最後の締め方がまたいいのです(泣く)。
 笑って泣けるグルメ音楽ヒューマンドラマ、ぜひご一読のほど…。

 そして、最近エブリスタにて発表なさった『賭博雷同』。
 『オトメシ!』からさらに進化なさっている…!とこちらにも圧倒されました。(ちなみに元ギャンブル狂とお書きですが、『カイジ』のような闇世界ギャンブルじゃありませんので誤解なさいませぬよう。出雲様、たいへん良識的な方でいらっしゃいます)

 ギャンブルがテーマ?と一瞬ぎょっとしますが、反社会的暗黒ハードボイルド小説というわけではなく(怖い人が出てきたりはしません〜)。
 危険とわかっている世界にどうして堕ちてしまうのか、そこに生きる人間の姿とはどのようなものなのかを、ギャンブルの底なし沼にはまってしまった大学生の主人公の目を通して描き出しておられます。
 おどろおどろしいというよりも、ビジネスライクで無機的にすら見える世界です。しかし、登場するキャラクターはいずれも大胆さと弱さ、飢餓感、孤独、繊細さといったものを抱えていて、どこにでもいる「人間」なのだと読み手に訴えかけてきます。
 実際、主人公はじめ他のキャラクターはモラルの崩壊した危険人物や極悪人などではなく、皆拍子抜けするほど「普通」です(名前や言動こそ一見強烈なのだけど)。主人公・桜内など頭もよく、情けないところもずるいところもあるけれども基本的にやさしい性格。なのに抜け出そうとしても抜け出せない。
 そこで「普通」と「異常」の境界の曖昧さにはたと戸惑います。こちら側とあちら側、そんなものはあるのだろうか。そんなに単純に切り分けられるものなのだろうか。…そう思わずにはいられなくなってきます。

 重いテーマを扱いながらも、ルポルタージュ的な悲壮で重厚なトーンになりそうなところを、あくまでも軽快さを失わない人間ドラマとして描く。
 知識の厚み、構成力、表現力、疾走感。いずれも目を瞠るばかり。『オトメシ!』とはガラッとカラーを変えつつも、エンタメとしても社会派人間ドラマとしても楽しめる内容です。
 人間や社会のかたちを繊細に、偏見のない目で捉え、読み手に伝える。そういう強い意志を感じる、非常に考えさせられる作品でした。ぜひあとがきまでじっくり読んでいただきたいと思います。
 ちなみにこちらは6月には非公開とされるご予定だそうですので、お読みになりたい方、今月中にお早くどうぞ♪

 際立った個性がおありにもかかわらず、「人間」を常に見つめる普遍性を備える、他に類を見ないご作風。今後どのような作品を生み出して行かれるのかたいへん楽しみだなと思います。
 ますますのご活躍をお祈り致します!

(サムネイルはMegumiさまよりお借りしました。ありがとうございます)

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