Kickstarterで広東語文学の専門誌を作るプロジェクトを支援しました  【迴響:粤語文學期刊】

広東語文学の専門誌を作るプロジェクトがあったので、クラウドファンディングで支援した。

広東語の小説や評論を掲載する雑誌の計画で、もう第1号の原稿自体は集まっているんだとか。最終的には短編小説を最低6本、その他の評論を含めた15本程度の文章を掲載する月刊誌としての刊行を目指しているらしい。

リワードは出来上がった雑誌で、海外発送もしてくれるそうなので、私も超微力ながら日本への送料も含めて180香港ドル(2500円くらい)支援した。7月に第1号が発送予定らしいので楽しみ。


日本で生まれ育ち、日本語を母語とする私たちは「母語で文学が読める」ということのありがたさを意識することはあまりないと思う。

でも世界中のたくさんの言語のうち、文学的な創作に用いることのできる言語は決して多くはない。

それは何もその言語自体が本質的に創作に向いていないからではなく、たまたま文字表記が普及していなかったり、話者人口が少ないから市場が狭かったり、あるいはより強大な標準語の影に隠れてしまっていたりといった文化的、社会的な理由が重なってそうなっているにすぎない。

広東語もそういう言語の一つだった。

香港では大多数の人々がこの言葉を母語とし、日常的な会話だけでなく、政治の場での議論もこの言語で行われる。そういう意味では立派な共通語であり、公用語だ。

でも、この言葉はあくまでも「口語」であり、学校の作文からビジネス文書まで、まともな文章を書くときには標準中国語とあまり変わらない書き言葉である「書面語」が使われる。

それは小説などの文学も同じで、香港の作家の多くは「書面語」を使って文学を書いてきた。だから小説の中の香港人たちは、広東語を話していない。

最近ではネット小説を中心に口語の広東語をそのまま表記して書かれた小説も増えているし、海外文学を広東語に翻訳しようとする動きもある。そう言った試みについては、このnoteでもたびたび紹介してきた。

でも、そういう動きはまだまだ香港文学の主流にはなりえていない。

それは決して、広東語での文章表記が弾圧されているからというような政治的な理由ではなく(少なくとも今のところはそんな弾圧は行われていない、はず)、標準語で書いた方がより大規模な世界の華人市場で売ることができるから、という単純に経済的な理由から来ている。

このクラウドファンディングの説明文もこんな言葉ではじまっている。

好きな作家がいた。ネット上で文章を発表していた。ほとんど広東語を使って書いていた。数年前のある日、その作家はFacebookでバズり、有名になった。

それから、作家の小説は2つのバージョンで発表されるようになった。まず広東語版、そして後ろに書面後版が続く形で。

それからさらにしばらく立つと、作家は2つのバージョンを出すのをやめてしまい、書面語版だけを出すようになった。

なぜか。

同じ繁体字を使う台湾は、人口も香港の3倍で、読書文化も根付いている。広東語で書いて売れたからってどうにもならない。結局、大陸や台湾の市場で売れなければダメなのだ。(…)

だから香港の文学は十中八九が純粋な書面語で書かれてきた。広東語俗語をいくらか織り込んで「香港らしい」と言えるものですら1割しかない。純粋に広東語で書かれたものは、全く未知の領域だった。

このプロジェクトは、そんな状況を変えて「広東語文学」という新領域を開拓するために有志が集まって企画したものらしい。

この企画に共感して「自分の母語で文学を読みたい」と思う広東語話者はとても多かったらしく、すでに目標金額である3号分の発刊コスト(26万7000香港ドル)を大きく上回る30万香港ドル(約400万円)以上の支援が集まっている。

このプロジェクトがうまくいけば、広東語文学、中国語口語文学の今後にとって重要な成功例になるだけでなく、少数言語による創作活動のためのクラウドファンディング活用例としても意義深いんじゃないだろうか。


まだプロジェクト終了まで20日あるようなので、興味のある方はぜひ。プロジェクトの説明文は広東語と英語のみですが、Kickstarterは日本語対応しているので、日本からでも簡単に支援が可能です。


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