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鳥取で映画と愛について考える――『映画愛の現在』プロダクションノート

佐々木友輔『映画愛の現在 第Ⅰ部/壁の向こうで』パンフレット(揺動BOOKS01)収録、揺動、2020年、6〜11頁

 映画はどこにあるのか

 二〇一六年の春、大学の職を得て、鳥取で暮らすことになった。夜行バスに乗り込んで、三年間過ごした東京を離れる。鳥取市内には、鳥取シネマという映画館一館しかなかった。県内で見ても、東中西部にそれぞれ一館ずつ、合計三館しかなかった。鳥取シネマで見たい作品が見られたら幸運。最寄りのシネコン(MOVIX日吉津)までは車で一時間半かかる。そもそも私は免許を持っていないので、どうしても見たい作品があるときは、二時間半高速バスに乗って姫路に行くか、東京に出かけたついでに見るくらいしか方法がない。

 個人制作の映画を撮り、作品論や作家論も書いてきたわたしにとって、これは大問題だった。「日々、浴びるように映画を見なければ、優れた作品はつくれない。優れた文章を書くことはできない。」そういう世界で生きてきたからだ。

 「映画とは何か。」

 映画を愛する人々の決まり文句。けれども今は、別の問いを立てる必要があった。映画はどこにあるのか。どこに映画を見に行くのか。私はスクリーンを求めて彷徨い歩く、一人の映画作家だった。

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