マジック、クラブセキュリティ、フォント規定、べつの星のかまいたち―暮田真名の川柳句会こんとん、の句を読んだ―
アバンチュールは、アベックとは別の死に方をした。アベックは、カップルに立場をとられてしまっただけなんだけど。アバンチュールって、私や暮田氏が、もう中学生のときにはすでにただのリズムになっていたはずだよね。意味はよくわからないし、どうでもいいし、あらま飛んでったってだけ。
だからこうして出会い直して、少しはアバンチュールについて考えられる質と量は変わったんだけど、それから、調べるための知的体力だってぐんと増えたんだけど、どうでもよさは変わらないまま。居心地のよさだけが暮れ残る。体温もぱさつきも、せつない。語尾がね、かわいい。せつなかわいい。体温もアバンチュールも人のかたちをそのまま贈ってくれる。ぱさつくって何?そういうあいまいさがこの形容を成り立たせている。
その用途のためにあるわけじゃないけど使われているものたち。ライフハックというジャンル。法律と城はこんなことにも使えるってわけ。こんなことも別に役立たせたいような対象じゃないんだけど。でも対象にとってはそのお堅い意味よりもふんいきのほうが大事だから(雰囲気の漢字はひらいたほうがいいかも)。
これは 遠 の関連で持ってきたというより、「ぱさつく」とか、もっと有名なところで言えば「かっこいい」(銀色の曜日感覚かっこいい)とか、「はずかしい」(いけにえにフリルがあってはずかしい)とかを浮かべながら引いてきた。
暮田氏は形容詞を使ったマジックが得意だ。ほれぼれする。
いよいよ、暮田氏の句のフォントが決定されてきたような気がする。合うフォントがある。『ふりょの星』はテキストサイズもフォントも合っていたよね。新郎は外、放火魔は内、クラブセキュリティとしてはたらいている小柄な宇宙人が、身分証をチェックしている。
殿とかいう、クラブへ招いていいのかわるいのか、まあどっちでもいいような陳腐なものにはさんずいでもつけていい気分にさせておく、というひねくれた基準。でも一応、ちゃんと身分証の確認はしているんだ。
「出血後、とても無口な。薄明の。」(暮田真名『補遺』2019年)だったりも、概ね通りに面している気がする。川沿いの通りでも、繁華街でも、裏路地でも、デカい高速道路でも、道っぽければ寄っていく。薄明は、入り組んだ光を閉じ込めるクラブと扉いちまいだけでしか隔たれていない、ような感覚。
紙幣を綺麗にそろえているときにかんじる愚かさは、メタっぽい告発だ、というのはただの妄想だともいえないくらい、特に2023年6月の暮田真名「重し」はぜんぜんそれぞれの世界から少し身を引いている。
独裁、復権。権威へのこだわりがある、という刷り込みはいつなされたんだろう。『補遺』、『ぺら』、『ふりょの星』によって刷り込まれたのか、あるいは暮田氏が参照して血肉としている過去の川柳が透けてみえるのか。これはぜんぜん間違った刷り込みだったかもしれない。といううろうろをあえて書き残しておくのは意図のうち。
いよいよ、暮田氏の句のフォントが決定された(で、どれ?)。この2023年8月の暮田真名「重し」はフォント規定の機運が最高潮だった。自分は、フォント規定という言い方にすこしこだわっていると思う。文体とか、作家のイメージとか、っていうよりも、もっと魅せ方のはなし。書式なしペーストでつくると味がけっこう変わるから注意ってわけ。美術館のホワイトボックスに鎮座していて、むしろ画像データなんだと思ってレプリカをつくったほうがいいような。
そうそう、川柳は箴言っぽくなることがよくあるんだけど。箴言は何百年か、何千年か前の人間も隣人のような気にさせてくれる。それはそれとして、これはいましか効果のない戒めだ。
暮田氏の川柳は、みじかい時間しか効果がないようなマジックが多かったなと思いなおして2022年をもう一度ふりかえっていき、こうした句がシミュってくる。あっという間だった。べつの星のかまいたち。
『補遺』、『ぺら』、『ふりょの星』の句や、寄稿の句を読んでもよかったんだけど、アクセスしやすい「川柳句会こんとん」の句たちを読みました。そうしようとはじめから考えていたんじゃなくて、たまたまです。かるい気持ちで、まとめて読みたかった、というのがほんとうのところ。おすそわけ。
「川柳句会こんとん」では毎月10句が発表されている。マガジンでまとまっているから、リンクを置いておきます。
「川柳句会こんとん」第一期|暮田真名|note
「川柳句会こんとん」第二期|暮田真名|note
「川柳句会こんとん」第2期メンバー発表|暮田真名 (note.com)
「川柳句会こんとん」については↑を読めばだいたいわかります。
了。ササキリユウイチ。23年10月。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?