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我々はなぜ大規模イベント用会場Wi-Fiを作るのか、作ってきたのか

JANOG52で久しぶりにイベント用Wi-Fi構築をやったついでに、今思ってることをを吐き出しておく。
JANOG52の振り返り記事も良かったら見てね。


インターネットアクセスは人権

以前どこかのイベントのスタッフ会議で日高さん(@mhidaka)が、人権はこれだー、と会議室のWi-FiのSSIDとパスワードを提示していた。
「人権」=「Wi-Fi」?、なんだそれ、とその時は思ったけど、インターネットへのアクセスできることはたしかに「人権」だ。
私もすぐに、人権よこせー、というような使い方をするようになってしまったよ。

2013年頃の状況

私が大規模イベント用Wi-Fi構築に頻繁に関わるようになったのは2013年頃。
スマホの国内出荷台数も500万台を超え、ITエンジニアは誰もスマホを持ち、Twitter等をヘビーに使いはじめていた。
携帯キャリアもまだ3G回線が主流の時代で速度も遅かった。
家庭やオフィスではWi-Fiルータが普通に使われるようになっていたこともあり、イベント会場でも普通にWi-Fiでインターネットのアクセスができることが期待されてたんだと思う。
でもその頃はイベント会場ではまだ、Wi-Fiアクセスは標準では提供されておらず、自前で構築したとしても、うまく動かないことが多かったのよね。
大規模なWi-Fiをちゃんと構築するのはわりと難しいんだ。

一方、JANOGでは、その数年前からスタッフ主導でWi-Fi用のネットワークを構築してた。
さすがにネットワーエンジニアのイベントなので、いろいろトラブルがありつつも、それっぽく動かしてたのよね。
そのことを聞いたYAPCを運営してた牧さん(@lestrrat)が taji(@taji_314159265)に声をかけたのが、CONBUという、大規模イベントのWi-Fi構築を専業とするネットワークエンジニアグループが誕生したきっかけなんだ。
私はなんとなくそこにまぎれこんで、いろいろなイベントでWi-Fiネットワーク作りに関わってきた。

参考) CONBUで協力したイベント

大規模なWi-Fi構築は何が大変なのか

大規模イベント向けWi-Fiを作るためには以下のことを全部ちゃんとやる必要がある。

  1. 充分な帯域の上流接続回線を調達する

  2. 多くの端末で利用しても問題がないネットワーク環境を構築する

  3. 集中管理できるWi-Fiアクセスポイント(AP)を充分な数設置して適切に設定する

  4. 稼働中は適切に監視し、問題があったらすみやかに対処する

これらのどこかができてないと、うまく動かない。
できてないところがわかれば、そこを直せば良いだけなんだけど、昔は経験と知識がないとトラブルシュートは難しかったんだよね。

そして昔は世の中的にも知識が充分に行きわたってなくて、会場の既設Wi-Fiが使いものにならない、ということも多かった。

最近の状況

最近はだいぶ状況が改善してきた。
自前で苦労してWi-Fi構築をする必要はあんまりないのでは、と実は正直思っている。

携帯キャリア通信規格の高速化

LTE、4G、5Gと通信規格が高速化され、、携帯通信だけでも充分に高速なインターネットアクセスができるようになってきた。
最近はWi-Fiがなくても人権は確保されてると言って良いんじゃないかしら。

Wi-Fi機器の高機能化

複数のAPを簡単に集中管理できる機器も増えてきた。

  • コントローラを機器側に持たせて、専用のコントローラを不要にしたもの(Aruba、Ruckus等)

  • クラウド側で管理運用監視を行なうもの(Meraki、Aerohive、Mist、Arista等)

これらを利用するとわりと簡単にAPの運用ができる。
クラウド側で監視やトラブルシュート支援をしてくれたりするのもとても便利。
テクノロジーが知識と経験の部分を補ってくれる感じだ。

ちゃんと使える会場既存設備

以前は会場の既存設備は以下のような問題が良く見られた。

  • ユーザーが使えるIPアドレスセグメントが狭すぎる

  • DHCPで配布されるアドレスの数が少ない

  • ユーザー向けのDNSキャッシュサーバの能力不足

  • NATルータの能力不足

  • 無秩序に強い電波を出していて干渉がひどい

  • 上流回線に変な機器が入っているのか異常に遅い、SSH等が使えない

最近作られたり設備更新されたようなイベント会場では、上記のような問題はほとんどなく、とても快適に既存のWi-Fi接続を利用できるようになってきた。
機材の進歩と共に、構築業者にもノウハウが溜まってきてるんだと思う。

長崎のJANOG52の会場になった出島メッセ長崎も、既存のWi-Fiはまったく問題がなく、非常に快適だったので、ぶっちゃけこれを使っても良かった。
(JANOG52では自前でWi-Fi環境を構築するために、既存のWi-Fiは無理を言って止めてもらった)

なぜ自前で構築するのか?

もはや自力で人権を確保しなくても大丈夫な世の中になってきた。
にもかかわらず、なぜ自前でイベント用のWi-Fi環境を作ってしまうのだろうか。

会場で充分な人権が得られない

残念ながら未だにすべての会場で充分なインターネットアクセスが提供されているわけではない。
携帯キャリアの電波が弱すぎるようなこともある。
その場合はやっぱり自前で環境を構築する必要がある。

新技術を試したい

今は会場既設Wi-Fiで基本的なインターネットアクセスは提供されるようになってきたが、IPv6でのアクセスはまだまだ提供されていないことが多い。
IPv6の接続性を確保したい時には自前で構築しなければいけないこともある。

長崎のJANOG52においては、自前で構築したことで、以下のようなネットワーク体験をしてもらうことも可能になった。

  • IPv6 でのインターネットアクセス

  • IPv6 Mostly Access (対応端末ならIPv6だけでIPv4にアクセスできる環境)

  • invalid経路からのインターネットアクセス

自力で作ったネットワークであれば新しいソフトウェアや機器を積極的に試してみるようなことも自由にできる。

勉強したい、させたい

大規模なネットワークを構築する機会って実はそんなに多くない。
ネットワークについて勉強していると、実際に作って動かしてみたい、って思うんだけど、そんな若者が実際にネットワーク作りを体験する教材として、イベント用のネットワーク構築はとても手頃な規模なのよね。

どんなにちゃんと作ったとしても、たいていは何らかのトラブルは発生しちゃう。
それをトラブルシュートすることもとても勉強になるのよね。

作ること自体が楽しい

モノ作りと通じるんだけど、

  • 動くものを作って

  • それが実際に使われて

  • 喜んでもらえる

という体験はわりと良いものなんだよね。

イケてるモノを見てると、自分でもイケてるものを作ってみたくなっちゃうしね。

友達が増える

大規模なネットワークは1人で作るのは物理的に無理なんだ。
大量のAPを会場に設置したり、大量のケーブルを接続したり、物理作業だけでも本当に大変。
でも1人じゃできないことも、大人数だとできるんだ。
わいわいしながら一緒に作業をするのは楽しいんだよね。
友達も増える。

tajiが良くドヤ顔をしながら「インターネットは人と人を繋ぐもの」みたいなことを言ってるけど、まさにそれは一番大事な哲学だと思うんだ。

まとめ

コロナも一段落し、ようやく人と人がリアルに会えるようになってきた。
イベント用のネットワークを作ったり、ネットワークの実験をしたりする機会も増えてくると思う。
楽しいことは止められない。

大規模ネットワークを作ってみたい、とか考えてる若者がいたら、積極的に沼にハマっていけば良いと思うんだ。
すでにいろいろなところでスタッフの募集等が行なわれているので、アンテナを広げておくと良いぞ。

最近は家で本格的なネットワークを作って遊ぶ、みたいな人々も増えてきている。
そういう人は Home NOC の沼とかにもハマると良いんじゃないかなと思う。
自宅ラックを買うのもアタマオカシクて良いかもしれないね。

あとは自由にネットワークで遊べる学校に行くのお勧めかな。
長崎県立大学とか九州産業大学とか中京大学とかオカシイ先生がいるところはわりと自由にネットワークで遊べるんじゃないかと思う。知らんけど。


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