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今日の晩ご飯は?負のエントロピー。

ちょっと奇を衒って変なタイトルをつけてしまって、卒業文集とかでボケたのに明らかに後から見たらスベってる時のような感覚で恥ずかしいですが、これは有名な理論物理学者のシュレーディンガーの本、『生命とは何か』に書いてある「生物体は負のエントロピーを食べて生きている」という言葉に由来しています。このエントロピーという概念は統計力学及び熱力学において大事な概念ですし、実際に上の言葉は熱力学的な視点で見た時の生命活動を説明する上で興味深い示唆を与えています。

まずエントロピーとは?

エントロピーとは「無秩序さの度合い」です。これはホワッとした概念ではなくある測定できる物理学的な量を示します。エントロピーの単位はcal/℃で表されます(calはカロリーであり、熱量のこと)。

エントロピー=k log D  と定義されます。
K=ボルツマン定数(3.2983×10^-24 cal/℃)
D=無秩序さ

"エントロピー増大の法則とは、例えば、熱いお湯と冷たい水を混ぜると、ぬるいお湯になり、ゆるいお湯は再び熱いお湯と冷たい水には分離しません。また、ゴムボールを床の上にトントン跳ねさせると跳ねる高さは次第に低くやり、やがてゴムボールは跳ねなくなりますが、跳ねなくなったゴムボールは外部から力を与えない限り、再びひとりでに跳ねだすことはありません。生きていない一つの物質系が外界から隔離されるかまたは一様な環境の中におかれているときは、普通はすべての運動がいろいろな種類の摩擦のためにはなはだ急速に止んで静止状態になり、電位差や化学ポテンシャルの差は均されて一様になり、化合物をつくる傾向にあるものは化合物になり、温度は熱伝導により一様になります。そのあげくは系全体が衰えきって、自力では動けない死んだ物質の塊になります。目に見える現象は何一つ起こらない或る永久に続く状態に到達する訳です。物理学者はこれを熱力学的に平衡状態あるいは、「エントロピー最大」の状態と呼んでいます。"(『生命とは何か』より)
 このように、すべての物質は、秩序のある状態から無秩序な状態へと変わっていこうとする傾向があり、これを熱力学の第二法則(エントロピー増大の法則)と呼んでいます。

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負のエントロピー、それを食べるとは?

まず無秩序さ(D)が大きくなることはエントロピーが大きくなることを表します。
Dが無秩序さを示すとすれば、その逆数の1/Dは秩序の大小を示す尺度、ということになります。同じく無秩序さ(D)が大きくなる→秩序(1/D)が小さくなる、と言えます(とても普通のことですね)。1/Dの対数はDの対数に負の記号をつけたものなので、

ー(エントロピー)=k log (1/D) と言い換えられます。

つまり負のエントロピーとは無秩序さに負の記号をつけたものであるから「秩序さの大小」そのものであって、負のエントロピーを食べるとは「秩序さを取り込む」ことを示します。

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人間も含めあらゆる生命が熱力学第二法則に従い、エントロピーが増大する方向に向かっています。つまり外界との物質のやりとりがなくなった状態=死に向かっています。死んで動かなくなる、ひいては崩壊して腐って骨もなくなっていくこともエントロピー(=無秩序さ)が増大していく方に向かっています。

ではこの状態に向かわないように生命は何をやっているのか。これは代謝であると言えます。あるいはエネルギーを取り込んでいるとも言えます。そして世界から秩序さ=負のエントロピーを取り込んで、自身の無秩序さの増大文を相殺して、低エントロピーの状態に保っているというわけです。

まず元素がバラバラに飛び回ってる状態は最もエントロピーが大きい(無秩序な)状態です。一方で元素が結合した分子はエントロピーが小さくなっている(秩序さがが大きくなっている=無秩序さが小さくなっている)と言えます。分子がつながってタンパク質などになり、細胞になり、器官や臓器ができて、体が出来上がる、このような生物の体は、エントロピーがかなり小さくなった(秩序さが大きい)状態を意味します。

例えば、元素がバラバラに無秩序に散らばった状態がエントロピー最大の状態とすれば、穀物のような植物は大気の二酸化炭素という小さい分子を有機物、炭水化物やタンパク質のようなまとまった(エントロピーの小さい=秩序が高くなった)分子に変えています。この低エントロピーのものを食べて、体の中でアミノ酸のような小さな分子に変えることで高エントロピー=無秩序さを大きくします。この差額分で自身のエントロピーの増大分を補うわけです。

そして生命の歴史全体でみても、単細胞から、それらが数兆個からなる人間のような高等生物まで、エントロピーを小さくしていく方向に進んできました(秩序さを大きくした)。これは生命が物理法則に抗い続けて進んできたことを意味します。とても不思議です。

生命とは負のエントロピーを食べる、秩序さを引き出す、という不思議な過程を経ることでその個体を維持し、生命全体としても進化してきました。そんな「熱力学的に奇妙な振る舞いをする異端児」が生命であり、これが生命そのものの特殊性を強調しているのかもしれませんね。このような視点からみる生命という存在もまた面白いと感じました。

ちなみに僕は鶏肉とカレーいう低エントロピーなものが好きです。


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