見出し画像

コンパッションコミュニティ関連論文紹介

簡単にコンパッションコミュニティについて(私見)

コンパッションコミュニティ/コンパクトシティは、日本ではここ数年になって注目されるようになっている、しかしアラン・ケレハーが2000年にオタワ憲章および健康都市という概念をもとに提案され探求されている概念である。
あくまで僕の理解であり、正しくはケレハーの本や以下に紹介する論文などを読んでほしいが、

・公衆衛生はこれまで、衛生的な水の整備や感染症対策などhealth protection的な文脈から、生活するだけで健康になるような街の構造や政策をもつ都市:健康都市などの方向へ拡張してきた。しかし、そこでは健康は意識されるが、老いや死や喪失体験などが意識されてこなかった
・一方で、臨床現場で死などを扱う緩和ケアは、患者や家族個人の緩和ケアに注力してきた。近年、より早い段階からの緩和ケアが意識されるようになってきたが、いずれにせよ個人の抱える苦しみに着目していた。
・この2つの課題を統合し、死や老いや喪失などの体験に対して社会全体で向き合っていく、つまり公衆衛生的アプローチなアプローチで死や喪失などに向き合う「優しい社会」を作っていこう、というのがコンパッションコミュニティの基本的なイメージと(僕は)考えている。

※翻訳者の先生方は、ここでコンパッションに該当する訳として「慈悲」「共感」「コンパッション」などかなり意識的に訳してきていて、先人たちの意図は理解している。が、個人的には、細かな用語の意図の正確性を優先した結果カタカナが残存するよりも、目指す社会像を一般のひとにも広く「共感して共有してもらう」ことこそ大事なのでは?とも思っている。学問的にはまた別の話※

日本では、コンパッションコミュニティというと、「死」について大きく扱われているが、ペットロスや失恋などより広いものが対象であり、論文などを読むと「認知症フレンドリー社会」「エイジングフレンドリーコミュニティ・老いと向き合う社会」などとも連続的に扱われていることもある。

※個人的には、人の苦痛や老い、認知症などに優しい寛容な社会は、子育て、子ども、障碍者、外国人、マイノリティにも優しい社会に自ずとつながるのでは?と思っている。高齢者フレンドリーと子供フレンドリーは矛盾しない※

 日本では「コンパッション都市」の邦訳の他、文献が乏しいため、今回コンパッションコミュニティについて読んだ論文を少し抜粋/要約/感想を追記しながらメモ書き程度にまとめてみた。網羅的に調べたわけではなく、pubmedやreserch rabbit、古典的な孫引きで選んできた文献リストなのであくまで参考までに。コンパッションコミュニティだけではなく、市民参加やコミュニティビルディングによる健康増進に興味があるひとにも一部参考になると思う。コンパッションコミュニティについて興味がある人は、レビュー論文、台湾の実践例、評価ツールの開発論文は読むといいと思う。

※箇条書き/直訳調のところもあり、もっときれいに整理したりすればいいのだろうが、労力とのバランスからそこまではしない。より知りたい人は元論文を。それでもコンパッションコミュニティについての日本語の文献は乏しいのでなにかのガイドにはなるかもしれないととりあえずシェアすることとした。今後また新しく追加で読んだら追記するかも※ 

The Compassionate Communities Connesctors model for end-of-life care: implementation and evaluation

Samar M. Aoun et.al.
オーストラリア2020-2020、パイロットスタディ 前向きコホート研究+実施前後の横断研究+半構造化インタビューによる質的研究を組み合わせた混合研究。一次アウトカムは、社会的つながりsocial connectednessへの介入の影響。
参加者は、患者、家族、コネクター、ヘアヘルパー、医療専門職
患者:多様な慢性疾患、進行した疾患の自覚がある、緩和ケアのために頻回の入院やER利用、社会的などのアンメットニーズ、社会的孤立や日常ニーズを特定の一人に依存している、18歳以上、同意可能な能力がある
コネクター:地域のボランティア、患者や家族を公式/非公式のサポートと接続し、周辺の支援ネットワークを向上させる
ケアヘルパー:家族や友人、隣人など日常の活動を支援、援助できる人
介入:コネクターへの2日間のトレーニングコース。役割を認識する、public health palliative careやコンパッションコミュニティの重要性、死やACP、グリーフについてのリテラシー、コミュニケーションスキル、セルフケア、緩和ケアと慢性疾患など。
→コネクターが患者や家族/家庭を訪問12週間で6回以上 13のコネクター30の家庭
結果:社会的つながりは改善 コネクターが支援調整した内容として、内的非公式ネットワーク、外的非公式ネットワーク、コミュニティ、専門的ケアであった(政策レベルはなし)
コネクターを利用した介入は、social connectionを改善して、孤立を減らすかもしれない。が、基本的には前後比較研究。他コホートとの比較なしに留意。面白いのは、専門的緩和ケア、ジェネラリストによる緩和ケア、市民活動、自然発生的ネットワークの4つによる緩和ケアが提供されていて、すでにあるヘルスケアシステムでは、専門的緩和ケアとジェネラリストをつなごうとする活動が主体。慈善活動やコミュニティ活動のような市民活動は公的ヘルスケアとの連携ができていることが多い。ただしこれらの活動は、患者個人や患者家族個人へアプローチしているが、患者や家族周辺の自然発生的ネットワークとは連携できていないことが多い。そのため、この自然発生的ネットワークを、それが存在するコミュニティレベルから支援し向上するため公衆衛生的アプローチを意図したところが面白い。

Implementation of Compassion Communities: The Taipei Experience


Chia Jen Liu, et.al. 2021
台湾台北市におけるコンパッションコミュニティの取組の紹介。データというより活動報告といった面が強い報告である点は注意。Life Issues Cafeと名付けたデスカフェのようなものを特に重視している。東アジア文化の中で公的機関や寺院と連携しながら、「人生カフェ」「死についてのイベント」「コミュニティエンパワメント」など多層的に取り組んでいるという点で、日本での取組に大いに参考になる。ほかはアジア初のコンパッションコミュニティとしてインド Kozhikodeの取組があるが、日本と文化的に近いのは台湾だろう。日本の大阪にある町における認知症フレンドリーコミュニティの取組が、日本での事例として紹介されている(孫引きまでみないと気付かないが)
Age-friendly, dementia-friendly, palliative-friendly
障害、子ども、動物植物、マイノリティ、外国人を含めてもいいかも。

Area-Based Compassionate Communities: A systematic integrative review of existing initiatives worldwide


Bert Quintiens, et.al. 2022
地域ベースのコンパッションコミュニティについての26の研究の統合的レビュー(2021.10時点)
多くはヨーロッパと南アメリカの事例(アジアはインドの事例のみが含まれている) オタワ憲章のうち、活動項目が複合的に意識された内容になっていた。介入について評価が実施されているものは少なかった。
多くは、高齢化社会を踏まえたヘルスケア/公衆衛生/社会的課題を契機に企画され、ポピュレーションんレベルでの終末期ケアの向上のためのpublic healthとして実施されたいた。多くは医療機関やNGOによってはじめられていた。オタワ憲章に基づいた複合的な活動が含まれつつ、学校、自治体、メディア、政治家を巻き込むという共通点がありつつ、それぞれの地域での取組内容は異なるものだった。そのため、なにが取組の成功の要素なのかは判断が難しい。政治家との協力と、ソーシャルネットワークやつながりの強化を重視する点は各地域の共通点。
現状は、研究数や内容が不足しており、なにがコンパッションコミュニティのために必要な要素で、成功に導くのか、どのように結果を評価するのかについて不明確である。 

Slum compassionate community: expanding access to palliative care in Brazil


Maria Gefe da Rosa Mesquita, et.al. 2023
ブラジルの貧しい地域/スラム地域における実践報告。研究者が現地に入った時、政治活動の一貫か?という疑いが住民からかけられた、というのは他の論文にはあまりみられなかった要素で面白い。 

Compassionate communities: How to assess their benefit? A protocol of a collaborative study between different countries


Valentina Gonzalez-Jaramillo 2023
アルゼンチンのブエノスアイレス、コロンビアのメデリン、スイスのベルンの3都市の取組を比較し、アウトカム評価のための基準を作成しようとするプロトコル論文。地理的、人口的背景が異なる都市が選ばれている。
市民レベル(患者、家族や介護者)、組織レベル(医療機関や教会、学校、NGOレベル)、政治行政レベルの3つのレベルにフォーカスしている
プロトコル論文なので続報に期待。 

How does community engagement evolve in different compassionate community contexts?  A longitudinal comparative ethnographic research protocol


Emilie Lessard, et.al. 2023
プロトコル論文。カナダでコンパッションコミュニティを2つの地域で実施し、インタビューなど質的方法を中心に、なにがコミュニティ・エンゲージメントに影響するか、それがどのようにアウトカムへ影響するかを検証する。ケレハー自身が参加しているチーム。

Researching Compassionate Communities: Identifying theoretical frameworks to evaluate the complex processes behind public health palliative care initiatives


Hanne bekelants., et.al. 2023
コンパッションコミュニティの取組を開発し、実施するための背景となる理論的フレームワークとして何が適切か検討した。
過去の3つのレビューからは①各地域の特異性を考慮すること ②多様なステークホルダーを巻き込むことがわかった。そのため、コンパッションコミュニティのために必要なフレームワークは、ステークホルダー間の協力や異なる視点へアプローチすることであり、これは、集団的な合意形成であり、経験的に学習する過程である。さらに3つ目の特徴として、様々なレベルや場でのファシリテーションの重要性が言及されていたことである。4つ目には、活動の持続可能性が一番の課題であると述べられている。5つ目には、これらの特徴を考慮すると、コンパッションコミュニティは複雑で適応的なシステムであると考えられている。各要素の相互の関係性、依存性、主体性によって形成されている。この複雑性と動的性質を認識したフレームワークである必要がある。最後に、明確な評価が現状欠けているということが指摘されている。時間や金銭的な理由、複雑性などが理由となっている。
これらのことから、コンパッションコミュニティの核となる特徴は、①社会的文脈による変化②積極的な参加と協力③ファシリテーション④持続可能性⑤複雑性である。
コンパッションコミュニティの開発と実践は、現在進行形の、非線形の、社会や文化の変化の家庭であり、線形モデルではとらえられない。効率性など線形性を前提にしたモデルや、複雑性の考慮が乏しいモデルは適切ではない。
The Consolidated Framework for Implementation Research(CFIR), the integrated-Promoting Action on Research Implementation in Health Services framework(i-PARIHS), the Extended Normalizaion Process Theory(ENPT)が挙げられた。
社会生態学的すべてのレベルをカバー:CFIR, the Conceptual Model of Evidence-Based Practice Implementation in Public Service Sectors
構造の深い記述と、構造をオペレーションすることと評価することの評価ツールを提供:CFIRとi-PARIHSのみ
ファシリテーションを各となる構造と注目している:i-PARIHSのみ
より特定された特定の組織の特定の評価をするのに適切:The Interactive Systems Framework, Theoretical Domains framework
実践理論:ENPTのみ:積極的同意形成のプロセスを理解したり、参加する人々の認知論的な過程を理解したり、新しい活動が広い文脈の中で認識されることを説明したりする。持続可能性が評価にはいっている
RE-AIMは広く用いられているフレームワークであるが、量的測定や計画通りに活動が進んでいるかを評価するため、コンパッションコミュニティの評価にはそぐわない。
これらを踏まえ、この論文では、CFIR,i-PARIHS、ENPTを取り上げている。
CFIRは取組の構造や実践について評価することのできるフレームワークで、websiteの利用可能性や明確さなど利用の勝手が良い。しかしファシリテーションについて抜けているのでこの点をi-PARIHSで補助すべきである。ENPTをさらに併用することで、持続可能性を含めた、動的な性質を評価することができる。 Normalization Process TheoryやNoMAD:Normalization MeAsure Developmentなどが追加で言及されている。

Rural age-friendly ecosystems for older adults: An international scoping review with recommendations to support age-friendly communities


Daniel Liebzeit, et.al. 2022 ナラティブレビュー
コンパッションコミュニティ関連と思ったが、少し違うので今回は省略 

Compassionate communities: end-of-life care as everyone's responsibility


Allan Kellehear 2013
総説。これは目を通すべき。日本語で該当するのは竹之内先生の「至誠を支え合うコミュニティの思想的拠り所-手がかりとしての「対話」と「コンパッション」-」が近い

Implementation Models of Compassionate Communities and Compassionate Cities at the End of Life: A Systematic Review


Silvia Librada-Flores, et.al. 2020
2000-2018の間に出版された31の研究に対するシステマティックレビュー。コンパッションコミュニティの開発や評価については質の良いエビデンスは乏しく、評価については、介護者の満足度や意見などが主となっている。 

Civic engagement in serious illness, death, and loss: A systematic mixed-methods review


Louise D'Eer, et.al. 2022
コンパッションコミュニティを含む、緩和ケアへの公衆衛生的アプローチでは、市民参加が多くの文脈で語られる。23+11の文献から19の市民参加の取組の報告を発見し、どのような形や方法で行われているかを検討した。活動の開発の際のコミュニティとの協働や、コミュニティ-アカデミズムの協力が多くで行われていた。介護者と患者をつないだり、社会資源をつなぐための市民参加型の活動も多く行われていた。過程の評価やアウトカム評価が行われているものもあったが、持続可能性は評価されていないことが多かった。面白いのはこの中で調べられた市民参加型活動のリスト。「よい隣人のパートナーシップ」「ケアするコミュニティプロジェクトにおける健康増進資源チーム」「互いの家を行き来しよう」「悲嘆支援の介入」「家とコミュニティに根差したケアプログラム」「緩和ケアにおける隣人ネットワーク」「キャパシティビルディングのための4段階」など


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?