政策過程論ノート②

※このnoteは、政策研究大学院大学での飯尾潤教授の講義を受けて、僕自身がとったノートをもとに記載しています。専門の方からみて間違えなどあるかもしれませんが、ご指摘いただけると幸いです※

そもそも政策とは?

今回は、政策過程論の各論的な内容に入る前に、そもそも政策とどのように捉えるか?という話題です。

そもそも政策と政治とはどのように違うのでしょうか。
日本語では「政治/政策」、英語では「politics/policy」と使い分けられていますが、国によっては同じ単語が使用されていることもあります。

暫定的に、ここでは
政治:集合的な問題解決の営み。個人や家族では解決できない社会的な問題を解決するための人々の営み。
政策:集合的な問題解決のための行動の案。よって作ったり提案したりするのは政府には限らない。
行政:政治の一部。営みのうち、ルーチン化したもの。
と、おおまかに捉えたいと思います。

⇒日常的にいわれる政治/行政という言葉であれば、うまくいっている定型的な営みが行政、それを外れた問題に対応する営みを政治、と呼んでいる印象です。上の定義とはやや矛盾しますが。

政策過程論におけるモデル/類型化

以下で、具体的な政策過程を分析するためのモデルを示しますが、まずモデル化について話をします。
政策過程のモデル化は、「政策科学 Policy Science」という「政治や行政を合理化していきたい」という学問の発展の過程で産まれた考え方です。無論、「政治を合理化する」という政策科学の考え方は、現実の政治を分析するには不十分であり、合理化の試みは挫折し、そこから現実の人間関係や運や直感に左右される政治/政策を考える学問として「政策研究 Policy Studies」や「公共政策 Public Policy」などが生まれていくのですが、
この政策を外面から分析して「モデル化するという試み」はひとつの方法として生き残っています。(なお余談ですが、この流れをみれば昨今、EBPMがブームのようになっていますが、EBPMも前途多難であることが推測できると思います)
このように、政策を分析するためには、一定の類型化やモデルの利用することが有効ですが、モデルはあくまでモデルであり、以下の2点に注意することが必要です。
・モデルは、政策を解釈したり、なにかの目的のために使う枠組みであって、「理想」ではないこと
・どのような目的のためのモデル/理論なのかを認識すること。目的としては①現象を記述するために必要な枠組みとしてのモデル ②何かを分析して因果推論をしたりするためのモデル がありうる。

分析および類型化の方法

モデル化や類型化には、類型化の方法、それ自体の分類があります。概要をみていきます。
・制度やアクターによる分析:例えば、三権分立や二院制などの制度であったり、そこにある「国会」「内閣」「裁判所」のそれぞれの内容や役割を分析していく、という方法です。この枠組みを通して政策形成の過程を分析することができます(公民の授業などに近いイメージです) しかし、この方法には欠点があり、制度や構造に焦点が当たる傾向があり、あまり政策形成の過程には視点がむかないことや、そもそもある「二院制」という制度をどうするか?などの政治過程では議論が難しくなることです。アクターの場合、ある政治家個人に焦点をあてて、その個人史や評伝のような形で記述をし、それを蓄積することで政策過程がみえることがあります。一方で、これは各アクター間の相互交流や作用がみえにくくなることがあります。
・分野別の分析:日本では官庁別の類型化が中心です。例えば、文部科学省の政策とはどのようなものか?どのような政策が行われ、どのような歴史的経緯があるか?といったような研究があります。一方で、国際金融政策は、財務省なのか?外務省なのか?日銀なのか?といったように交差したり衝突したりする政策分野があり、さらに特定の政策分野は国や制度によって分類される先の「分野」は変わってくる点が複雑な類型化の方法です。
・機能による政策類型:セオドア・ローウィの4分類(規制政策・分配政策・再分配政策・構成的政策)や、松下恵一の類型論(伝統政策(軍事、税、治安)、近代化政策I・II・III(福祉、環境など)、市民政策(市民活動))などがあります。

ロウィLowiの政策類型論

ロウィの政策類型論は機能による分類でも代表的なものです。「政策の内容によって、それに伴う政治(的な営み)が変わる」という、直感とは反した分析です。分類の軸は、2x2であり、1つ目の軸は「政策による強制の対象が、個人の行為なのか、社会環境なのか」、2つ目の軸は「強制は直接的か、間接的か」という方法です。以下にその分類を示します。
①規制政策は、個人の行為を対象として、直接的な強制力を持つ政策です。これは、自動車の運転免許制度などの免許制度や、食品領域での不良品の販売規制などが思い浮かびます。規制によって利益を受ける人々と、規制によって自由が制限される人々がいるため、それぞれの価値や理念、利害のための対立的な政治が展開され、議会本会議や委員会での議論が重要性を増します。また新たな規制が導入されるような際には、既存勢力は抵抗しますが、当人たちは「抵抗勢力」とは言われたくないため、既存政策は裏で有力者と連携する傾向があります。
②分配政策は、個人の行為を対象として、間接的な強制力を持つ政策です。例えば、補助金政策などがあり、「間接的な強制力」というのは理解が難しいですが、「その裏では徴税などの一般的な強制的な行政が行われている」ことを意味しています。補助金政策は、一般に反対勢力は少なく、政治家はやりやすい政策です。それぞれの利益領域団体が補助金を誘導しようと「競争」するために、議会の委員会などが重要となってきます。(対立的ではないから本会議まで紛糾することは少ない。)一方で、それを実施する自治体の負担などがありえます。
③再分配政策は、社会環境が対象で、直接的な強制力をもちます。例えば、累進課税や社会福祉政策など、資源の再分配を行う政策です。どこかからとってどこかに回す形式をとるが、その構造がみえやすくなると対立が発生します。これは、都市と地方の対立や、高齢者と若年世代の対立、生活保護バッシングなどを考えればよくわかると思います。政治家としては、このような政策を通そうとすれば「再分配にみせないようにする」ことが大事であり、例えば年金制度を実態は「賦課方式」なのに「修正積み立て方式」と呼んで「積立方式」のようにみせかけたりします。また医療制度では、表面的な対立をみえないようにするために、中医協など委員会による決定を重視するなどの方法を用います。
④構成的政策:分類としては、社会環境が対象で、間接的な強制力を持ちますが、あまりイメージしにくい部分だと思います。内容としては、行政改革や、国会の「身を切る改革」のような「制度そのものの改革」です。普通のひとへあまり影響しない内容を扱うため、国民が興味をもたない政策も多いのですが、一方で国民には負担があまりなく(公務員には負担があったりする)国民には人気であったりします。これは、政府のハンコ廃止の動きなどをみるとよくわかります。

Policy Cycle~政策循環

Policy Cycleは、かなり形式的な政策形成のモデルですが、形式的であるからこそ普遍性も高く、政策過程の分析モデルとして用いることができます。
アジェンダ設定→政策立案→政策決定→政策執行→政策評価→政策転換/政策終了
この一連の流れ:「政策の産まれてから死ぬまで」を政策循環/Policy Cycleと呼びます。
アジェンダ設定は、はっきりした形をとらないこともありますが、実際には課題や問題が認識される過程が政策立案の前段階には存在します。
政策立案は、複数の案が提示されます。実際には、アジェンダ設定から政策立案するためには専門的な知識技術が必要となることが多く、また政治家、官僚、研究者、活動家などの人的なネットワークも影響してきます。
そのような案から、どれを実施するか決定するのが政策決定のプロセスです。しかし、決定ははっきりと「いつ決定したのか」わからないことも多いです。例えば、日本においては、根回しによって立案の段階ですでに事実上決定されていることがあります。つまりそのような場合には「立案と決定が融合している」とも言えます。
決定した政策は、その次に執行/実施されます。しかし、決定した政策が、意図したとおりにそのまま実施されるとは限りません。また実施する「現場」を知らずに政策立案/決定をしてもうまくいかないという含意でもあります。このような「政策実施論」が発展したものが、近年の「行政経営/公共経営 Public Administration」やガバナンス論などです。
さらに実施された政策は、評価され、必要に応じて終了したり、内容を変更されたりします。

このように、Policy Cycleを含む、いくつかの政策過程のモデル/類型化は、政策過程を分析する基本となるだけでなく、どうすればうまくいくか?どうしてうまくいかなかったか?を考える糸口ともなりえます。
このPolicy Cycleは、政策過程を考えていく上での、一つの土台となり、今後はこの過程にのっとって、政策過程を説明していきたいと思います。

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