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花の旅にて 1

山小屋の植物のお店のお話を。

敷地内に車を停めて、建物へ向かうと、大きな木に吊られたのれんが迎えてくれる。目に留まるのは、小さな野草の鉢や盆栽、蔓で作られたリースやランプシェード。手作りと思われる、白い木製のテーブルと“いらっしゃい”の手書き看板。

入り口から見える店内にはセレクトされた生花と自然の植物。小さなスペースに配置された花たちの後ろの壁には、年期の入った道具類が掛けてある。上をふと見上げると、根ごと掘り起こされた草や杉の皮が天井や壁に吊られている。杉の皮のランプシェードが素敵に見えた。
店内はそのランプたちに照らされて、なんとも不思議な空間に仕上がっている。頭上の棚には、山から採ったであろう植物が花器に活けられている。少し奥を見ると、建物の基礎と山の地肌が見えている。

洞窟のような山小屋だ。 

▼ここから物語のような備忘録が始まります。

「人と植物と山小屋と」

 山小屋の少し手前、木に吊るされた白色の暖簾をくぐると、店主と女性二人が出迎えてくれた。"宮城から来た"という事と、"花屋をしている"と言う事を伝えると“ゆっくり見てってください”と店主が話す。
標高がやや高いお陰か、近くの山々は紅葉していて、目の前の道路はたくさん車やバイクが通っていく。

<普段はこんなに車通らないんですよ。もっと静かなんですけどね...

と一人の女性が話す。

山小屋の壁面には、蔓や山の植物で作ったリースやランプシェード。それらを横目に、小屋の入り口をくぐった。入ると直ぐに切り花が陳列されていた。その中には、自然の植物(山採り)もあったと思う。

>....素敵ですね....。店内の写真、撮ってもいいですか?

<もちろんいいですよ!花屋さんなんですね~

と、奥の台で作業していたアシスタントらしき女性が答えた。

>はい、東北の宮城県で無店舗の花屋をしているんです。ずっとこちらには来たくて…やっと来れました(笑)

<私もこのお店がここに移転して来たときから、アシスタントという形で勉強させてもらっているんです。いずれは、自分で(花屋を)やりたくて。

店内に窓は無く、光が入るのは入り口の扉を開けたとき。(扉は常に開いていた。)天井に添う柱には、杉の皮を被った電球色のランプが吊るされていた。お店は大人が4人も入れば、歩き回れない程の広さだったが、不思議と心地よさで包まれるような空間だった。

外へ出て、ふらふらと植物を見ながら写真を撮っていた。風に靡く白色の暖簾が素敵だ、などと考えていると店主から

<....裏山見てみます?

>え、いいんですか?!

<どうぞ....こちらです。

すぐ山小屋の脇から、裏山へと登る斜面が見えた。

そこからすぐ上に登ると、終わりかけの秋草がちらほらと生えていた。少し奥の大きな木の枝には、ロープと木の板を使って作られたブランコが傾いて吊られていた。

<こんな感じです…。

>いいですねぇ…。

<草などは全て刈らずに、こんな感じで残してるんです。

ぽつんと島のように自然のまま残された場所には、野菊やチカラシバが咲いていた。

<夏は到底管理しきれないのでそのままなんですが…。鹿とか来るんですよ、草を食べてくれるので助かってますが、お花も食べちゃうので、そればっかりは…。

>鹿が来るんですか…。超自然的な除草ですね(笑)

<ハハ(笑)そうですね。

数メートル先には簡易的なフェンスが置いてあるが、鹿だったら悠々と越えてしまうだろうな…。などと思いながら、切り花の話をしつつ小屋の前に戻った。

<なにか聞きたいこと、ありますか?

と私に言った店主。斜めになった斜面に折りたたみの椅子をカツっと置いた。

<どうぞ。地面、傾いているので上手く座って下さい。

斜めになりながら座って、お店のいろいろや、仕事の事、植物についてを、ぽつぽつと聞いてみた。
独特なテンポで話してくれる、店主のお話はすごく面白くてずっと聞いてられた。

<僕は、自分を花屋だと思っていないし、花屋と名乗るつもりもないんです。

>植物屋、みたいなことですよね?

<そうですね。庭の仕事もするし…なんでも屋、植物屋と思ってもらったらいいかな。

>いいなぁ…(笑)

またバイクや車が数台、目の前の道路を過ぎて行く。

<すいません、お客様がお花を買いたいそうです。

という声が聞こえた。アシスタントに呼ばれて、店主が小屋に入っていく。それと同時に中で作業していた、アシスタントが作りかけのアレンジを抱えて、外のテーブルへと移動してきた。

<中、狭いので(笑)

どうやら、外で商品を作るのは当たり前のようだ。話を聞くと、大きなスタンドなどは、裏山で作るらしい。なんと素敵な作業場なんだろう…。

少しして買い物が終わったのか、人が小屋から出てきた。お花を包んでいる茶紙には、買った花の名前が手書きで書かれている。おそらく筆で書かれたであろう文字が見えた。気がつけばあっという間に時間が経っていた。

>長々とお邪魔してしまいました。

<遥々遠くから、ありがとうございました。また来てくださいね。

>また遊びに来ます!それでは、失礼します。ありがとうございました!

また白色の暖簾をくぐり抜け、山小屋を後にした。
私はしばらくの間、脳内で今日聞いたことを反芻していた。


またあの白色の暖簾をくぐりに来よう。



実際のお話を、かいつまんでこちらを書いてみました。
備忘録であり、一つの物語である。
物語であり、備忘録である。
最後まで見てくださり、ありがとうございました。


登場したお店/ 楠田商店

 

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