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「俺たちの野球」の意味を理解した日

プロ野球を観戦していると、年に何度か手が冷たくなる時がある。
きっとプロ野球ファンなら誰でも経験したことがあるはずだ。
昨日はまさに“その日”だった。

九回裏、一死満塁。
横浜DeNAベイスターズの選手たちとファンの声援と熱気は、液晶テレビ越しでも伝わった。
終わった、とは思わなかったけれど、正直「1点覚悟だなあ…」と私は思った。
ただ、1点取られたら阪神に勝ち目がないことも察していた。

通常のペナントゲームもそうだが、延長戦は後攻チームの方が有利だ。なぜなら先攻チームには、得点を獲ること→その上で相手チームに得点を獲らせないこと という2つが求められる。しかし、後攻のチームは先攻のチームがもし得点できなければ得点を獲られなければ良い(引き分け)、または得点を獲る(サヨナラ勝ち)という選択肢をゲーム内で与えられる。
要は先攻チームの出方を見ながら、後攻チームは戦略を練ることができるのだ。

さらに、クライマックスシリーズのファーストステージは1勝のアドバンテージこそないものの、1勝1敗1分けだとペナントで2位を獲得したチームがファイナルに進むことになっている。

1勝1敗で迎えた3日目、我が応援チーム「阪神タイガース」には勝ちの一手しかなかった。

横浜DeNAの若き4番・牧秀悟選手は「どんな一打でも絶対後ろにつなげてやる」ーーそんな気迫を感じた。
ホームゲームが得意の宮崎選手こそ打ち取ったものの、好調のソト選手に四球、代打オースティン選手にはライナー制の初球打ちを見事決められ、一死満塁。

今シーズン「阪神の真のクローザー」と皆に期待され、満を持して晴れ舞台に上がった若きクローザー「ユアレス」こと湯浅京己投手の顔に、普段のニヒルな笑みはもう浮かんでいなかった。
梅野捕手を筆頭に、内野手の選手たちの足が自然とマウンドに向かった。

その時、突然球場内に拍手が起こった。テレビ観戦をしていた私は一瞬何が起こったのかわからなかった。

「矢野監督が出てきました」
実況を務めるアナウンサーがそう言ったので、投手交代かと目を疑った。

しかし、矢野監督は球審ではなく真っ直ぐにマウンドに向かった。
マスクを顎までずらし、口元からは白い歯がこぼれていた。

何を言ったのかはわからなかった。けれど、湯浅投手が何度も頷いているのだけはわかった。

短い言葉を交わし、ナインが配置に戻っていく。
小幡選手が最後まで湯浅投手に何かを言っていた。

プレイ再開。
告げられた代打・藤田一也選手。

「藤田ァ?!」
と、隣で試合観戦をしていた彼が叫んだ。
彼氏はヤクルトファンなので、この3連休は高みの見物と言わんばかりにスマホゲームをしながら試合を観ていた。

私は藤田選手がそんなに意外ではなかった。
初戦で2打数1安打を放っており、右投手に対して左打者は普通の采配だと思ったからだ。
対して、彼は阪神キラー・大田泰示選手を充てるべきだと考えての言葉だったのだろう。

藤田選手が良かったのか、大田選手が良かったのか、結果を知っている今では何を言っても結果論でしかない。

湯浅投手の直球ど真ん中ストレートは連日の疲れもあってか、普段の速さはなかった。しかし、その一球に込めた力は強かった。
藤田選手の叩きつけた球はセカンド小幡選手の正面に飛び、梅野捕手を経由してファースト大山選手へと渡った。

あまりにスムーズな投球リレーで、私はポカンとしてしまった。

当然、阪神タイガースの選手たちは喜んでいた。しかし、私が観ていたのがtvkだったので、しばらくはヘッドスライディングをして悔しさで起き上がれない藤田選手が映っていた。藤田選手は両脇をチームメンバーに抱えられてようやく立ち上がった。

それを観ながら、私は矢野監督が事ある毎に言い続けていた「俺たちの野球」の意味をようやく理解した。

「俺たちの野球」とは、ただ「選手全員で勝つ野球」という意味だけではないのではないだろうか。

選手はもちろん、選手を支えるスタッフ、ファン、そして敵チーム全員を巻き込んでみんなが野球グラウンドに釘付けになる瞬間、それが「俺たちの野球」なのではないだろうか。

私は正直、「俺たちってなんだよ…ぼんやりしたこと言って…全員野球って言えよ」と心の底ではずっと思っていた。

けれど、「俺たち」がもっと広い意味での主語であるならば、「俺たち」はその試合の時間を共有している一人ひとりの集まりのことを指すのではないかと思った。
矢野監督はずっと“夢と理想”を語ってきた監督だ。だからチームの勝利だけではない、この先も野球というコンテンツが人々に愛される未来を願っているのだろう。

最後の監督人生になるかもしれないのに見せた最高の笑顔に、矢野監督の人柄の良さと「俺たちの野球」を感じ取った瞬間だった。

※推敲せずばっと書いてしまったので、誤字脱字あるかも…すみません汗

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