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6. 入院のはじめの頃

 これを書いているのは、退院して自宅療養、月一の化学療法中である。今後、また、入院するかもしれないし、書けなくなるかもしれないが、4カ月間に及んだ入院の状況を書いておこうと思っている。突然筆が止まったら、まあ、ご理解頂きたい。

 入院し、カーテンに囲まれた狭い空間にベッドを与えられ、痛み止めの調整を点滴で行いながら、各種検査をおこなっていった。職場が気になったものの、連絡を密に取ったところで対応が突然中断する恐れもあり同僚、上司におまかせするしかなかった。無責任な気がして非常に辛かった。
 食事は流動食から始まった。さて、食べようと箸を持ったものの、箸でつまめるものがなかった。主食の重湯は、取っ手のついたカップに入っており、他のものも皆飲めるものだった。魚すり流し汁は、少し臭みも感じられ美味しくなかった。でもデザートにアイスがついていたのがありがたかった。

流動食から始まった


 狭窄した十二指腸とその周辺の様子を見ながら外科のDr.の意見をお聴きする。素人目に想像する十二指腸は、消化器の図の中で示されるシンプルな絵なので誤解を生みやすいのだが、実に色々な臓器が密集し間膜もあり、重なり合っているところに重要な動脈の分かれ目のある所であり、患部は体の奥の方になる。前から行くとたどり着くのが大変な場所のようだ。腫瘍が大きくなっている状態からみて、手術不適応とのこと。膵臓の半分や胆嚢や十二指腸も全部とって胃と小腸をつなぐにしても多くの動脈を処置し、また、転移部分をすべて取り切れるとは限らず、その後のことも考えるとリスクの方が大きく上回る様子だった。
 最近の医療では、抗がん剤治療が進歩しており、本当に癌を縮小させることができるため、先に抗がん剤の治療(化学療法という)を行い、縮小したところで外科手術を考慮しましょうということになった。
 既に検査でも痛み止めでも点滴で何度も針を刺されていたが、CVポートという鎖骨のちょっと下あたりに消しゴム大のものを埋め込んで太い血管に繋ぎ、点滴ルート確保を容易にする方法を行うことになった。入院一週間目くらいで行うことになり、30分位で済む簡単な手術ですからと言われ了解したが、僕は、小心者で手術は怖いのだ。
 手術室に移動してわかったのだが、局所麻酔するものの、意識ははっきりしているのだ。痛みは殆どないものの、切られたり肉を引っ張ったりするのは感触がある。こわ~いこわ~い体験だった。どうせなら内視鏡のように眠らせて欲しかった。医師や看護師は優しく声をかけてくれていたが、早くも僕は、とんでもないことになっている!と感じた。
 順調に終わったものの、ポートを埋め込まれた僕は、ショッカーから改造された仮面ライダーのようになんだか怖かった。痛くないがポートに針を刺されるのも怖かった。
 隣のベッドが空いたのか、窓の見える方に変えてくださった。小さな空だが、光が心地よかった。


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