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夢を追ったら、呪いにかかった


僕は今、呪いにかかっている。

この文章は、儀式だ。呪いを祓う儀式だ。
呪いを解くために、今僕は書いている。

この文章を書き終えた時、呪いは解けるはずだ。
そして同じような呪いにかかっている、誰かの背中を押せていたら嬉しい。


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2ヶ月前から、悩みを抱えている。
小説が、書けないのだ。

あなたも、頭の中で物語を描いたことはないだろうか。
そしてそれを完成させることなく、頭の奥底に眠らせて、気がつけば忘れてはいないだろうか。

かくいう僕もその一人。
幼少期からファンタジー小説の設定を温め続けている。

「機械仕掛けの街に少女が迷い込む。空を見上げれば言葉を話す太陽と月。様々な出会いと冒険を通して、少女は自らの正義を見つける」話だ。

段々と大人になって、現実を知って、この世界を思い出すことも減っていく。

この物語が、いつかどこかへ消え去ってしまう。
それはすごく恐ろしいことだと、ある日気がついた。

この物語は自分の中にしか無い。
それが消えてしまったら、もう誰にも表現できない。
自分の生きた証になったかもしれないのに。
なんなら、世界一のベストセラーになったかもしれないのに。

だから、小説を書くことにした。

子どものころに小説沼にどっぷりはまり、日常生活にゴリゴリに支障をきたした。
そんな自分が表現の手段として小説を選ぶのは、自然な話だ。

とは言え小説なんぞ書いたことがない。

文章を書くことは嫌いではないし、我ながらなかなか良い文章を書くとは思う。
が、想いを言葉にするのが絶望的に遅い。
2000字の文章を1本書こうと思ったら10時間は最低かかっていた。

僕にとっての言葉は飛び回る蚊のようなものだ。
ふわりふわりと頭の中で飛び回る。
捕まえられる! と思ったらすぐにいなくなる。
イライラするったらありゃしない。

まずは書きたいことを、言葉にできるようになろう。

そう思ってライティング教室に申し込み、書き続けた。
少しずつ、言葉を素早くパチリと捕まえられるようになった。

いざ、時は満ちた。
小説を書こう。

細かいところは何も決まっていないが断片的な情景はいつも浮かぶ。
ワクワクする場面。魅力的なキャラクター。
最近は「『近づいてはいけない人』扱いされながら人生をかけて夢へ進み続ける老人」が加わった。

根拠はない。根拠はないが、めちゃくちゃ面白いものが書ける気がするのだ。

書き出す前に作法を知ろう。
本を買い込みWebを漁り、いわゆる創作論を調べた。

物語の作り方には多少流派があるが、一番大事なメッセージはどれも同じ。
「まず書いてみる」だ。

いい言葉だ。自分自身「まずやってみよう」は根っこの価値観だ。
やってみて、うまくいかなかったらまた考えればいい。

いざ書き出そうとしたとき、最後にもう1冊本を見つけた。
いや、見つけてしまった。

現役バリバリのベストセラー作家が出版した創作論だ。
小中学生の頃、夢中になって読み漁った著者だった。

独創的な創作論を語っているが、一際目を引くのが「設定を考えた後は、脳内で物語が完成するまで1文字も書いてはいけない」である。

「途中で書いてしまうと無意識に物語が固定化され、陳腐な物語になってしまう」という。
なるほど。こっちのほうが正しい気がする。

そう思った瞬間、僕は呪いにかかった。

「まず書いてみればいいじゃん」という好奇心と
「中途半端に書いたら、不完全な物を生み出すのでは?」という不安。

相反する2つの感情の合間で、動けなくなってしまった。

失敗するのが、怖い。

あの世界を形にすることは、自分が思っていたよりも大切な夢のようだ。
夢だからこそ、怖い。

好きなものほど、大事なものほど、壊してしまうのが怖い。
だから、動けない。

……そして、この文章を書きながら、とっくに気がついていることがある。
だったら、まず後者の方法で物語を考え抜いてみればいい。
なぜそれをやっていないか。

本当は知っている。

気がついてしまうのが怖いだけだ。

生み出したものが、全く面白くないことに。
自分に才能がないことに。
そもそも最後まで物語を生み出す能力がないことに。

本当の呪いは、こっちだ。

その呪いの解き方も、本当は知っている。

やるしか無いのだ。
1歩進んで50歩後ろに下がりながら。
面白くないものを生み出す恐怖と戦いながら。
自分の表現力の無さや哲学の浅さに絶望しながら。
恐怖は、消えないから。

本当は知っている。
どんな書き方をしようが、面白い小説は面白い。
そもそも、書き方に正解なんて無い。

まだまだ知っていることがある。

「この物語が好きだからこそ、絶対に失敗したくない」という気持ちが本当であること。
「もし全てを書き切れたら、めちゃくちゃ面白いものができる」と実は信じていること。
最後に、この物語は絶対に僕にしか作れないこと。

以下2文は自分に言い聞かせるために書く。

怖いからこそ、うまくいったときの未来に目を向けるべきだ。
大丈夫。お前には絶対、才能がある。

さて、目標を達成するには、周囲に宣言するのがいいという。
だからこのnoteを公開して、強制的に自分にエンジンをかけることにした。

投稿ボタンを押したら、僕は物語を作り始める。
逃げ続ける自分に、けじめを付けることにする。

まず書くのか、頭の中で考え抜くのか。
それは今2秒で決めた。後者でいく。

どっちだっていい。
だいたい僕はただの素人だ。
けれど、可能性は無限大の。

これを読んだあなたに、お願いがある。

いつか「機械仕掛けの街に少女が迷い込んで、喋る太陽と月が出てくる話」を目にすることが、あるかもしれない。

登場人物たちは自分の弱さに震えながら、それでも一歩ずつ前に進んでいる、かもしれない。

その時は「あいつ呪いが解けたんだな」と笑ってほしい。


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