エアコンが突如、よだれを垂らしたら。
我が家のエアコンはだらしない。
突如、よだれを垂らすのだ。
それはもう、ダラダラと。
そしてそれは、突然に。
ある夕暮れ、息子たちがリビングでゲームをしていた。
普段は個々にゲームをする我が家の男子。
マイケルが車を盗んだり、クライヴがベアラーを助けたり、炭治郎が走ったり、ホリーポツターが魔法の杖で空を飛んだりしているようだ。
それ以外にも、よくわからないダンスを踊るオシャレなキャラクターが壁を作ったりしている。
私はテトリスかドクターマリオぐらいしかできないので、それを横目で見ているだけだ。
しかしその日は個々でゲームをするわけではなかった。
昨年の年末に抽選に当たりやっと手に入れて、手に入れた途端に世間に流通し始めてがっかりすることとなったプレイステーション5で一緒に遊ぶらしい。
テレビの横に白色のプレイステーション5が立っており、その近くには大量のゲームソフトが山積みにしてある。
彼らはそれをガサゴソと漁る。
その瞬間、ついていたはずのテレビの画面が一瞬真っ暗になった。
それはあまりに一瞬すぎて誰も気に留めていないようだ。
再び彼らがゲームソフトを漁ると、再びテレビ画面が一瞬真っ暗になった。
「おい!!」
沸点の低い夫が、一瞬テレビ画面が暗くなったことに気づいた。
おそらくゲームソフトを探す際に配線に触れたのであろう。
そんなことは私にも容易にわかるが、私はあえてそこには触れない。
なぜなら面倒臭いからだ。
テレビの方へズカズカと向かう夫を横目にすでに飲酒中の私。
触らぬ夫に祟りなし。
知らぬ顔をして焼酎を飲む。
夫は配線を整え、ゲームソフトを取り出しやすい場所へと移動させた。
これでひと安心、と私は再び知らんぷりをして焼酎を飲んだ。
すると夫の「なんだこれ!!」との大声。
さすがに知らんぷりもできず、ぐぎぎぎぎぎとテレビの方へ首を回転させた。
「エアコンから水が垂れている!!」
どうもエアコンの送風口から水がこぼれているらしい。ぼたぼたと。
「どういうことだ!!」と大声を出す夫。
私は知っている。
エアコンがどういう時によだれをたらすのかということを。
それは激ハラヘリの際に目の前に肉汁滴るステーキが置いてある時でもなく、ナイスバディのお姉さんが目の前で水着で横たわっている時でもなく、上腕二頭筋がキレまくっているイケメンがハグの受け入れ態勢で待っている時でもなく、札束が山積みで置かれている時でもなく。
そう、事件は家の中で起きてはいない。
事件は外で起きている。
過去にも私はこれを経験したことがあった。
和室で寝ていた時のこと。
ボトボトとエアコンから大量の水がこぼれてきたのだ。頭のほんのすぐそばに。
大惨事である。
私はすぐさま、ネットに頼った。
説明書なんか役に立たない。役に立たないというよりかは、どこにあるかがわからない。
こういう時は、ぐうぐる先生に聞くのが一番だ。
ぐうぐる先生は、優しく教えてくれる。
私はすぐさま庭に出た。
すると、ホースの先が雨で流れてきた土で埋まっていたのだ。
土を落とし、排水ができるよう整えると、ドボドボと水が流れ落ち、エアコンのよだれはすぐに止まった。
ということはだ、今回も原因はそれであろう。
経験というのは素晴らしい。
こんな時でも焦らずにいることができる。
ぐうぐる先生に頼ることなく、自身の経験で対応できるのだ。
「原因はわかっている」
そう夫に告げると、私はすぐに庭に出た。
室外機のあたりは雑草で大変なことになっている。
下を向いているはずのホースが雑草に押し上げられているではないか。
生い茂る雑草をかき分け、私はホースを手繰り寄せる。
私の顔や手、至る所に雑草たちが絡みつく。
しかし、負けない。
雑草魂は雑草なんかに負けないのだ。
手繰り寄せたホースを解放すると、ホースから水がちょろちょろと流れてきた。これで大丈夫だ。
私は雑草が邪魔しないところへホースを配置し、部屋に戻ろうとした。
すると、夫がのっそりと庭に出てきた。
私は夫に
「もう、大丈夫。早く部屋に戻ろう。蚊に刺される」
と伝え、早く部屋に戻るよう促した。
我が家の庭は蚊の無法地帯である。
部屋に戻りエアコンを確認すると、エアコンはすまし顔で、口から冷気を漂わせていた。
クールビューティ、マイエアコン。
そう、だらしないのはエアコンではなかったのだ。
だらしないのは庭の雑草を放置した家主である。
我が家の所有権は夫と私のそれぞれ二分の一であるが、世帯主は夫である。
決して私がだらしないのではない。
声を大にして言う。
決して私がだらしないのでは、ないんだもん。
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