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ハピバオレ!

吾輩は犬である。名前はポッキー。

むしの日に生まれた犬。それはまさしく吾輩のことである。6月4日で齢一歳となった。人間年齢にすると17歳。世が世なら、吾輩は成人である。そう、もうオレ、大人。

誕生日の朝、吾輩は散歩中、橙色のいい匂いのする丸いものを見つけた。こっそりと口に咥え持って帰ろうとしたところ、例の如くおかんに見つかった。いつもはのっそりと歩いているおかんだが、吾輩の盗み食いを見ると、途端に俊敏になる。ぶるんと尻が揺れ、たるんと二の腕が揺れる。シュッシュっと風を切りながらおかんは吾輩の元に近寄り、口の中に手を突っ込むと、せっかく拾った橙色の丸いものを取りあげた。

「あら、びわやないね」
おかんはなんだか嬉しそうに、橙色の丸いものを見つめている。ヨダレのようなものがおかんの口から見えた気がした。これはさぞかしうまい食べ物だったのだろうと、吾輩は悔しくなった。

おかんが後から調べたところによれば、びわの実は吾輩も食べていいらしい。あの場で食っておけばよかったと、今更ながらに後悔する。しかし種は食べてはいけないとのこと。正直なところ、どれが実で、どれが種かは吾輩にはわからない。吾輩にとっては、全てが可食部である。

家に帰ると、家族の皆から「お誕生日おめでとう!」と声をかけられた。みんななんだか嬉しそうだ。よかったな、お前たち。吾輩がこの世に生まれ落ちたことを感謝せよ、と吾輩は思う。

しかし、この家の朝は相変わらず騒がしい。
小さい方の兄が、机の上でどったんバッタンと何かをしている。その横でおかんが早くしなさいだのなんだの、奇声を発している。規制すべきはおかんの奇声である。おかんがこの家で奇声を規制しなかったのは、誰かが奇声を発した際、実家に帰省し寄生について既成事実を作るつもりなのではないかと吾輩は考える。これはキセイで韻を踏みたい犬一期生の吾輩の遊びなので特に意味のない文章であることを申し添えておく。

「何これ!」
というおかんの奇声がしたかと思うと、おかんは早速スマホを取り出した。その様子を見た小さい方の兄が、嬉しそうに言った。
「記念に写真撮ると? どうぞ」

「てか、これひどすぎ!何これ!」
おかんが呆れたように記念撮影をしたものはこちら↓

悲惨な状態の筆箱であった。
どうやったらこうなるのかがわからないとおかんは嘆いていた。机の上には、芯の折れた鉛筆やら、累計購入100個は超えていると思われる消しゴムのうち、108個目の消しゴムなどが転がっていたようだ。おかんはうろたえていたが。、芯のある男である小さな兄は、これしきのことでは動じないらしい。まだ彼は、齢11であるが、その心意気を吾輩も見習いたいものである。

その後、皆の外出を察した吾輩は、ケージに入りたくないので逃げ回った。しかしおかんのエサ攻撃に負け、あえなく捕まってしまった。ここから数時間は暇なので、檻の中でゴロゴロしていた。

夕方になりおとんが帰宅したが、なんだかいつもと様子が違う。何かに憤っている匂いがする。吾輩にはとんと理由はわからぬが、ひとつだけ明らかにいつもと様子が違うことがわかった。なんの違いかと言えば、それはおとんの違いではなく、遠方へ出かける時に吾輩を運んでくれる大きな車についてである。いつもは黒い車なのだが、今日は白い車になっていた。

おとんと連れ立って散歩に行こうとしていた矢先に、おかんが帰宅した。おとんは何やら車が白くなった経緯をおかんに話している。車をぶつけられたとか、修理がどうだとか、鼻くそだとか、パーツがないだとか、何バーツだとか、よくわからないことばかりを言い始めた。吾輩はうんこをした。すっきりした。

散歩中、おとんは何やら小さい店で紙の束を買い、大きな店で小さな箱を買った。ほくほくと何やら楽しそうに会話をして帰っていると、おとんが大きな声を出した。

「今、うんこ踏んだろ? 小さいうんこ」

おとんはゲラゲラと笑っている。
「あ、マジか!」
おかんは自身の靴の裏を見た。確かにおかんからうんこの匂いが漂ってくる。幸いにもうんこは小さなかけらほどのものだったらしく、おかんは公共の道路にその責任をなすりつけ、ゲラゲラと「うんがついた」と楽しそうに歩いていた。

吾輩のうんこはビニール越しにしか触らないのに、よその子のうんこを踏んでも楽しそうなのは、合点がいかない。今度は、おかんの目の前にうんこをしてやろうぞ。

そんなこんなで家に帰り、夕飯を済ませると、何やら部屋が暗くなった。

何やら今日はむしの日ではなく、ハピバの日らしい。イエーイ!!

初めて食べる美味しそうな匂いがした。吾輩がそれを食べていいらしい。吾輩は一気にそれに食らいついた。

なんとも美味。


これ、明日も食べたいな。




この日の猿荻家は、サザエさん3話分くらいに賑やかでした。夫は仕事で駐車していた場所で、車をぶつけられ、修理には一ヶ月から二ヶ月はかかるとのこと。修理代や代車はもちろん相手負担ですが、ぶつけられた車は事故車扱いになる可能性があり、車の買い替えの時の査定が0円になるかもしれないと。完全な損失です。夫が車に乗ってない時でよかったなとは思いますが、残念で仕方ないです。車を当てられた記念に宝くじを買いに行こうということになり、早々に買ってみましたが惨敗でした。なんとかジャンボも買ったので、その結果が楽しみです。うんこがついたサンダルはちゃんとうんこを綺麗にしたので、綺麗です。うんこは綺麗にならないかもしれません。うんこのついたサンダルの足裏部分を綺麗にした、が正確な表現だと思います。いちいち正確さにこだわるこの神経質さは、さながらうんこです。





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