第4章 04 都市計画とは(最終回)
限られたリソースを最大限に活かす
都市計画は都市経営課題を解決するための処方箋であるがゆえに、都市計画に使えるリソースをどうマネジメントするかが肝になります。そして、衰退傾向にある地域のリソースはどうしても限られている。
自治体の自主財源が少ないことはもちろんですが、地方の民間側のリソースも限られている。人材や資金、待った無しの状況(時間)、加えて情報に関してどうしても限りがあります。その限りあるリソースをどう分配し、多くの人のニーズを満たし、多くの人を幸せにするかがまさに経営であり、マネジメントなわけです。
そしてこの点においても、これからの時代を考えると、民間が採用する手法に軍配が挙がりそうです。その理由は大きく2つあると思います。
まずひとつ目に、そもそも行政機構は、リソースのマネジメントが難しい構造になっているように思えます。いわゆる縦割り行政と言われるように、それぞれの部局がそれぞれの判断基準を持ってリソースを活用していく。例えば衰退傾向にあるまちへの取り組みとして、複数の部局が取り組んでいる場合、同じ方向を向いて仕事をしているかといえば、そうでもないことが多い。
商業部局では商店街への補助金を出し大売り出しを応援し、観光部門では観光客向けの商品やメニューを作って観光客を誘致することにリソースが使われる。つまり、リソースを活用する判断基準が曖昧で各部局ごとに分かれ複数あるため、個別の取り組みに関する評価は出来ても、複数の取り組みが相乗効果を持って全体として地域の衰退傾向に歯止めをかけているのかは分からない。
もっと言うと、行政のスタッフの能力が高いがゆえに、それぞれの部局が一生懸命頑張ることが、お互いの足を引っ張っている可能性もあり得るのです(というか、相当数の自治体を見てきて良くあるというよりも必ずある位)。
例えると、ある部局が右側に向けて、めちゃくちゃ精一杯ボールを投げたとすると、もう1つの部局は左側に向けて思いっきり投げている。能力が高いがゆえに。もちろんだけど、ベクトルが180度違えば効果は相殺されてゼロになる。ゼロになることは無いとしても、リソースがマネジメントされてないとはこのような話。本来はそれぞれの施策が相乗効果を出す必要があるにも関わらずです。
リソースが潤沢にある場合、各部局が様々な方向性でいろんな施策を実行できるので、別々に行っていても、何かと何かが同じ方向を向くことで、たまたま相乗効果が生まれることもあったかもしれません。しかし、リソースが限られている状況下では上手く機能しない仕組みといえます。というか、リソースが限られているからこそ、どう相乗効果を狙うのかという判断基準を持った経営手腕が求められる時代だと思います。
次に、官は予算ありきで動く組織であり、対比すると民は利益ありき(実際には利益は顧客を幸せに導いた結果)で動く組織だからです。よく言われることですが、社会主義の計画経済が立ち行かなかったように、計画に基づいて決まった予算を分配し目標数値を達成していくという手法では、最終的に多くのみんなを幸せにすることが難しいわけです。
予算が潤沢にある時代は良かったけれど、もうそのような時代ではない。一方で民間は、限られた予算をどのように使うのか、スピード感を持って臨機応変に変化させながら、顧客の満足度や幸福感を高めることで、最終的な利益が最大化するように動きます。
この大きな違いが、限られたリソースをマネジメントする上で、とても重要なポイントになるわけです。日本はリソースが縮小し続け、これまで日本が経験したことの無い、答えのない状況、つまり不確実性の時代に突入しています。
つまり、21世紀の都市計画は、縦割り行政に横串を刺しリソースを投下するベクトルを合わせていく仕掛けとともに、民間側のスピード感を持って臨機応変にリソースの使い方を変化させる手法を参考にすることで、限られたリソースを最大限に活かすことができると考えています。
そこで次は、時間経過と共に臨機応変に対応する手法を説明し、その後でリソースを集中させるための「未来のお客さん」についてお話します。
時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
リソースが限られ、未来どのような状況になるか分からない不確実な時代においては、時と共に最適化していく臨機応変な手法が求められます。
これまでの都市計画では、例えば駅前での市街地再開発事業等を行う場合には、膨大な時間と予算をかけて調査分析をし計画づくりを行ってきました。地権者はもちろん、駅前ロータリーを利用する交通事業者との調整を行い、商店街があれば商業者の意向を聞き、駅利用者動向を把握し、税金を投入する事業であるから市民アンケートを実施、それぞれを分析して多くの人のニーズをどうにか満たすよう計画を作ります。
このように十分に時間を掛け、要求される質のレベルを満たした上で開発を進める手法をウォーターフォール開発と言います。この手法は、人口が増加し市場が拡大する局面においては、上手く機能したのだと思います。
しかし状況が逆転している現在においては、これまでのやり方を変えないと、木下斉が言うように、地方都市で墓標と揶揄されるような失敗を繰り返すことになりかねません。
一方で現在必要とされているのは、分かりやすく言うと、スマホの中にあるアプリの開発手法です。皆さんが日々使っているアプリは、ユーザーが実際に使うことで浮かび上がる複数の問題を解決するため、頻繁にアップデートを繰り返し、時間経過と共にどんどん進化していきます。
そのため、できるだけ早くプロトタイプを作って公開していくことが一つのポイントです。そのアプリを利用するユーザーのニーズを公開時においては全て満たすことが出来なくても、使ってもらってフィードバックを得ることで再び調査・分析・計画・実行を素早く行い、それを繰り返すことで少しずつニーズを満たしていく。
このような手法のことを「アジャイル開発」といいます。
この手法はトヨタのカンバン方式が流れに流れてプログラミングの世界に渡ったので実は日本初なのですが、この話はここではしません。
さてもとに戻って、この手法は、市場が縮小していく状況下でも小さく素早くスタートさせることで、リスクを最小限に抑えながら時と共に多くのニーズを満たしていく、つまり「みんな」の満足度を上げていくスグレモノで、エリック・ユースの『リーンスタートアップ』も同様に先が見えない世の中で生み出されたリソースマネジメント手法の1つです。
都市の価値が下がり続ける中においては、小さく始めて大きく育てるような方法論を採用することが大前提。なぜなら、アジャイル開発のような手法を先行させることで一定の都市の期待値が高まっていけば、市街地再開発事業のようなハード事業に取り組む段階に進むことができ、いずれ必要な都市の更新に繋げることができるからです。
逆にハード事業ありきで進めば、膨大な時間と予算を費やしても都市の価値を高めることに繋がらず、事業リスクも時と共に増大することになりかねない時代というわけです。
人にフォーカス 未来のお客さんを想定する
さて次は人にフォーカスする考え方を紹介します。マーケティングの世界では誰を幸せにするのか、誰の役に立つのか、というように「誰」にフォーカスするのが最も重要な要素です。
有名なドラッガーも「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」と著書『マネジメント』において述べています。
顧客=「誰」を知ることで、もちろん最終的に出来るだけ多くの顧客に広がっていくように仕掛けることで利益を最大化していく。
例えば、ペルソナを想定し、そのペルソナのクオリティ・オブ・ライフを高める商品やサービス、またその使い方等を提案し、彼らがそのファンになることで、彼らから多くの人に広がっていき、自然と売れるようになっていくわけです。
そこでペルソナ=「顧客」を知るために、一般的にはその人の属性に注目します。性別・年代・距離(どこに住んでいるか)・所得・居住形態等。それらを設定した上で、どのような志向を持っているのかも重要な要素になります。どんな事に興味があるのか、どんな暮らし方をしているのか、どんなことを幸せに感じるのか等。
顧客を理解し彼らを想定することでリソースをどのように集中投下するべきかを判断できるようになります。そのことで、成功失敗のいづれにせよ、その顧客からフィードバックを得て、成果を上げていくわけです。
このことは、限られたリソースを扱うビジネスの世界では至極当たり前のことなのに、なぜか都市計画やまちづくりという分野では、この一番大切な「誰」というものを設定することがかなり曖昧なまま(多くの市民のために等といった大雑把なまま)、もっというと無いままリソースの垂れ流しがまかり通っているのです。
人口激減時代、リソースは減り続けるというのに!。
つまり、リソースをどう分配するのかという判断基準が無いまま仕事をしていることになり、その意識が無いから予算消化のような仕事に陥ってしまう。
また、「誰」にが曖昧だから、終始アイディア勝負でどんな事業をするのかということになりがちで、人にフォーカスするのではなく、事業フォーカスとなり、その結果流行りの事業を追い求めることになるんだと思います。または、アイディア勝負な事業を持ってくるコンサルに騙される。
明確な「誰に」という設定が無いから、深く考える足がかりがなくて、オリジナルな何かを考えることが出来ないから、どこかで流行ってるものをコピーするだけになる。第二章で書いたように、血税を無駄遣いする劣化コピーが蔓延する所以です。そして成果は出ない。
このことは、平等・公平・公正絶対主義な人口激増時代の呪縛から脱し得てないことから起こる弊害だと思います。第三章で示したように、もう「みんな」というのは幻想なわけです。
「みんな」という存在を想定するから平等・公平・公正が成り立つわけで、「みんな」が存在しない現在、最初の一歩目では「みんな」ではなく、最終的に多くの「みんな」が幸せになる、共感する未来をどう作っていくのか、というプロセスを考えることが都市計画やまちづくりの分野で求められていることになります。
第二章で書いたように、少数派である「未来のお客さん」が大切なのはリソースをマネジメントする上での重要な判断基準となり得るからです。まちづくりは、色んな課題がある現在地から、ハッピーなゴールに向かうプロセスです。
みんながハッピーで幸せな未来というゴールに向けて、現在地から階段を1つ上がるために、限られたリソースを集中投下させる少数派である「未来のお客さん」を設定するという手法が役に立つわけです。
次の章では、この少数派についてもう少し詳しく説明していきます。
この本全体の目次
第1章 21世紀の都市計画家
・自己紹介
・枚方宿くらわんか五六市
・ダーコラボラトリLLP
・株式会社ご近所
・一般社団法人リイド
・株式会社サルッガラボ
・ビーローカルパートナーズ
・STAY local
・株式会社THE MARKET
・ポップベイパートナーズ
第2章 まちづくりとは
・そもそも、まちづくりって?
・まちづくりの誤解
・対処療法は熱しやすく冷めやすい
・まちが衰退する原因
・変遷するまちの役割
・まちには兆しがある
・未来は今ある真実から生まれる
・オススメの作法
・まちづくりとは何か
第3章 これまでとこれから
・未曾有の人口縮退
・みんなという幻想が成立した時代
・個性、能力、才能を活かす時代へ
・人口が減る時代を楽しく生きる法則
第4章 都市計画とは
・都市計画は時代に合わせた処方箋
・21世紀の都市の在り方
・都市の多様性
・しなやかで反脆い都市へ
・多様性を担保し生み出す
・都市経営課題とリソースの問題
・都市計画の主導権は民間へ
・限られたリソースを最大限活かす
・時と共に最適化する仕組み「アジャイル開発」
・人にフォーカス 未来のお客さんを想定する
第5章 少数派がまちを変える
・まちが衰退する原因の裏側で
・身銭を切ってまちを面白がる少数派
・少数派から多数派へ
・「絞って愛情深く」でファンを増やす
・ファンがファンを増やす時代
・ゴールはみんなのために
第6章 地域に新しいチャレンジを創出する
・定期マーケットでまちに革新を起こす
・まちの期待値を高める
・まちの新陳代謝昨日を活性化させる
・定期マーケット10か条
・定期マーケットはプラットフォーム
・【コラム:衰退プロセスと根源治療】
第7章 ご近所を素敵に変えよう
・ご近所のイメージ
・天王寺まで自転車で10分
・バイローカルとは?
・良き商いを守り育てる
・「どっぷり昭和町」
・バイローカルの日
・365日バイローカルマップ
・期待されるまち、選ばれるまちへ
・THE MARKETのおいしい革命
・ご近所の変化、現在進行形のTHE MARKET
第8章 新しい都市計画(序論)
・日常の自己肯定感の低い日本
・大阪の人は京都が嫌い、京都の人は大阪が嫌い
・試行錯誤する上での羅針盤
・建てないことが正義へ
・複合・混合・多様へ
・自分・少数派へ
・行動しながら変化へ
・しなやか・反脆さへ
・小さい(身銭を切る)へ
・内を意識へ
・目に見えないものへ
・未来ありき(playful Driven)へ
・新しい都市計画
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