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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』【スタッフブログ】

待望のウェス・アンダーソン監督最新作。

「フレンチ・ディスパッチ」はカンサス出身の編集長アーサー・ハウイッツァー・Jr(ビル・マーレイ)が旅の情報誌を政治・文化・芸術・美食などの総合誌に改変し、フランスの架空の町アンニュイ・シュール・ブラーゼ(Ennui-sur-Blasé)で英字紙として発行している。アーサーの突然の死で遺言により「フレンチ・ディスパッチ」は廃刊となる。映画は編集者たちがその最終号の記事を語る。


主に三話の小品によるオムニバスですが、映画全体が最終号の目次という体でページ順に記事を映像化していくスタイル。

冒頭で「フレンチ・ディスパッチ」創刊の経緯を簡単に描写し(ナレーションはアンジェリカ・ヒューストン)、第一話の前には自転車レポーター(The Cycling Reporter)とのタイトルで編集部の面々と記者のサゼラック(オーウェン・ウィルソン)がアンニュイの町を紹介するパートが挿入されます。

クセ者ぞろいの記者たちの部屋のさまざまなバリエーションや、画面を左右に割り、アンニュイの町の過去と現在の様子を比較する場面では変わったところと変わらぬところの使い分けが絶妙に描かれます。

ここだけでもう完全にウェス・アンダーソンの世界。

全ての場面が絵本のような、思わずニヤッとしてしまったり、うっとりするような時間がとめどなく続く至福の映画体験。


第1話「確固たる名作(The Concrete Masterpiece)」

収監中の凶悪犯モーゼス・ローゼンターラー(ベニチオ・デル・トロ)の描く絵画を巡り、その看守シモーヌ(レア・セドゥ)画商のカダージオ(エイドリアン・ブロディ)の関わりを記者のベレンセン(ティルダ・スウィントン)が講演で解説する物語。

原題は物語のオチに関わるヒントが込められたダブル・ミーニングとなっており、それが劇中で明らかになると、なるほど!となる。

第2話「宣言書の改訂(Revisions to a Manifesto)」

学生運動の活動家ゼフィレッリ(ティモシー・シャラメ)とジュリエット(リナ・クードリ)は市中で行われている「チェス盤革命」を主導しており、それを取材しているルシンダ・クレメンツ(フランシス・マクドーマンド)は彼女の個人的な意思と記者としての規範の境界で揺れる模様が描かれます。

「チェス盤革命」の具体的な闘争目的は物語を注意深く観察していても概要を掴むのはなかなか難しいのですが、これは完全に1968年の「五月革命」をモデルにしているのは間違いありません。

多層な物語のつくりと時間経過のマジック、人の心の内に起こる変化の模様を描いた物語ですが、一方で総合誌のメイン看板としての政治記事に対するスタンスを明らかにする物語ともいえます。

第3話「警察署長の食事室(The Private Dining Room of the Police Commissioner)」

警察署長(マチュー・アルマリック)のプライベートなディナーに招待された記者のローバック・ライト(ジェフリー・ライト)がその際に遭遇した誘拐事件についての顛末をテレビに出演して語る。

3話の中で掉尾を飾る動きの多い物語だと思いますが、さまざまな要素が取り込まれているなかで、伝説的な“警察料理”のシェフ・ネスカフィエ(スティーブン・パーク)の語る、ある食材についての感想がキモ。

エピローグ「訃報(Obituary)」

最終号の最後のページは編集長の死亡の告知記事について記者たちが集まる場面。

湿っぽくならず、比較的小ぢんまりしたエピローグにはそれまでに詰め込んだものを反芻するには相応しいエンディングと感じます。


メインの3つのエピソードはあっという間に終わってしまって、目も眩むような主役級俳優をこれでもかと登場させても、それぞれの登場場面は短く、なんだか物足りなく感じるという贅沢な悩みが起きる可能性がありますが、このあたりはオムニバスという形式とのトレードオフだと思います。

メリーゴーランドのような、豪華な俳優陣のバリエーションと、それぞれに味付けの異なる料理のアラカルトを楽しむのが本作を美味しく戴くお作法といえるでしょう。

ウィットに富んだセリフ、ミニチュアのようなセット、アレクサンドル・デスプラの音楽等々・・・微に入り細に入り、見れば見る程新たな見どころの詰まった監督のスタイルは健在、というか、更にパワーアップした感じ。

これまでの作品同様、あまりに多くの情報が洪水のように押し寄せ、全体を把握するのはなかなか困難ですが、一度にすべてを吸収しようとするよりも、そこは肩の力を抜いて、まず作品を堪能するのがいいのかな、と思います。

また見返すときに更に楽しめるであろうことは間違いありません。


既に次回作も原題が”Asteroid City”と決まったようなので、また楽しみに待ちたいと思います。(ラウペ)

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』上映情報

2022/1/28(金)~2/17(木)まで上映予定

1/28(金)~2/3(木)まで

①10:00~11:50

②13:50~15:40

③15:50~17:40

④19:40~21:30

2/4(金)~2/10(木)まで

時間未定

2/11(金)~2/17(木)まで

時間未定

下記静岡シネ・ギャラリー公式HPに、上映時間等決定次第掲載いたします。