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完敗に乾杯

先日SNSで「運動部に所属していた人のうち、プロの選手になれる人は一割以下であり、技術面においては学生時代の部活動に意味はない」という旨の投稿を見かけた。
これは決して運動部での活動が無意味であるという意味ではなく、
要は、技術よりも多くの人が見守る中で真剣勝負を行い、悔しくて眠れないくらいの挫折を味わうことが重要なのだという。

私はこれまでの人生で運動部に所属したことがない。
高校・大学と軽音学部に所属し、軽音学部がなかった中学では美術部に入った。
軽音学部も美術部も、かなり真剣に取り組んでいたものの、「個性」を表現する類の部活ということもあり、勝負というものはあまりない。
歌が上手いとか絵が上手いとか、そういうところで優劣はつくかもしれないけれど、必ず「好きか嫌いか」という判断基準が入ってくる。
例え自分より歌や絵が上手い人がいたとしても、歌声が好きだとか絵の題材が好きだとか、そういったことで有耶無耶にできてしまう。

ずっと怒りと悲しみを原動力にしてやってきた。
それは学生時代の部活も、人生のほとんどをかけたバンドマン時代も変わらない。
だから、愛や夢や友情なんかをありきたりな言葉で歌って、ライブではファン同士が肩を組んで一緒に歌うような、そういう音楽が嫌いだった。

それらはいつだってメインカルチャーだった。
だから、怒りや悲しみを糧にそれらに対抗するカウンターカルチャーであろうとした。
でも、なれなかった。なんたって全く売れなかったのだ。

小学校から作曲を始めてから、ずっと続けてきた音楽を辞めたのは27歳の頃。
辞めるまでの最後の一年はそれはそれは辛かった。
なぜなら、どこかでもう「自分は音楽では『特別な何者か』にはなれない」と気づいているのに、意地と執着でしがみついただけの一年だったから。
未来がない方向へ惰性で歩いていくというのはあまりに苦しい。

ちょうどその頃、仕事である音楽グループについて調べる機会があった。
歌詞の内容は愛と夢と友情と、青春について。
ライブではファン全員で合唱をしたり、タオルを回したり。
そう、紛れもない「メインカルチャー」だった。
なんせ自分が音楽で売れない現実を受け入れようと必死のタイミングだ。
聴けば聴くほどメインカルチャーへの反抗心が湧いてくる。
もちろん仕事に私情を挟むわけにもいかず、しっかり彼らについて調べていくうちに色々なことが分かった。
メンバー全員が一度本命の夢に敗れ、音楽に形を変えてもう一度、とある大舞台でライブをするという夢を実現しようとしていること。
親からは「そんな夢叶うわけない」と言われ続け、売れなかったら安定した職に就くことを約束し、背水の陣、期限付きで夢に挑んでいること。

そして彼らが夢に掲げてきた大舞台に立つ日、私も会場でライブを観させてもらえることになった。
チケットは即完売。
関係者席にも限りがあり、許可をもらって入口の端にスタンディングで入らせてもらうことに。
ファンの人たちの顔がよく見えた。
みんな、目がキラキラと輝いていて、この日がファンの人にとっても夢が叶う瞬間なのだということがひしひしと伝わってくる。

「みんな、そんな夢無理やって言った。それでも諦めなかった。
もう無理かもって思ったこと、何度もあった。
でも諦めなかった。だから今ここに立ててる。
夢、叶えたで!!!」

メンバーがそう言うと、代表曲のイントロが流れる。
「頑張れ、負けんな」そんな、ありふれた言葉で綴られた曲。
私は嗚咽が漏れそうになるのを必死で堪えながら、ひたすら頬を拭ってそれを聴いていた。
隣に立っていた警備員さんもドン引きの泣きっぷりである。
ありふれた言葉は、誰にでもわかる言葉だ。たくさんの人に届く言葉なのだ。
だから彼らの歌は多くの人の背中を押し、
ファンもまた彼らの背中を押して、この夢の舞台に辿り着いた。

私の音楽は、「わかる人にしかわからない」。
そう言って逃げてはいないか?
理解してほしいからわざわざステージに立って歌って伝えているのに、
「私の何がわかる」「わかってたまるか」と拒絶する。
私の音楽は、彼らの音楽には敵わない。絶対に。
完敗だった。
悔しくて悔しくて、帰ってしこたま泣いた。
ライブ終わり、深々とお辞儀をする彼らに向けて、手が真っ赤になるほど大きな拍手をした後で。

私は音楽を辞めた。
そして皿 割子になった。
一番伝えたかった

「怒りも悲しみもコンプレックスも全て抱えて、
今の自分が最高だと言える人生を送ってやるからな!」

という想いを、大好きなファッションを通して、
わかりやすい言葉とイラストで、
できるだけ多くの人に届くように発信していくことにしたのだ。

先日、彼らは更に大きなステージに立つ夢を叶えた。
「頑張れ、負けんな」
そんなありふれた言葉が、当時の何倍もの人に届いている。

私には35歳までに本を出すという夢がある。

その一歩として始めた週刊連載エッセイ。
書けなくて泣きそうになることもあるし、
才能がないと落ち込むこともある。

こんな夢、叶うわけないんじゃないか、
そんな声が自分の中から聞こえる。

だから今も「頑張れ、負けんな」と自分に言い聞かせながら、このエッセイを書いている。

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