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ミステリーと必然性

ポアロシリーズ8作目『オリエント急行の殺人』。

7作目を読んだ後すぐに読み始めたので、年末までには読み終わっていたが感想をずっと寝かせてしまっていた。なんでも溜めてしまうよくない癖がでている。細かいところはすでに忘れてしまっているので思い出しながら書いてみようと思う。

※ネタバレはしていませんので、未読の方も安心して読んでいただければと思います。

ポアロシリーズの中でもダントツで有名なだけあってとにかく読みやすかった。それとまだポアロをよく知らないころにこの作品の映像をみたことがあったので、オチを知っている状態で読んだが、それでも面白いと感じさせるのがこの作品のすごいところだ。ミステリーというだけでなく人間ドラマとしても完成度が高い。かといって心情描写はほとんどなく、読者の想像に委ねられている部分も大きい。だからこそ登場人物に感情移入しつつ、殺人とは、罪とはと考えさせられる。ミステリーという枠組みの中で殺人を娯楽として消費していることになんとなく後ろめたさも感じてしまうが、そこまで感傷的でもないのが救いだなと思う。個人的には真相にたどり着いてめでたしめでたしとならないのがすごく好みだ。善と悪がきっちり線引きされすぎている世界の話はいまいち入り込めない。

内容に少しだけ触れると、この作品は私の大好きなヘイスティングズが出てこない。過去にもそういう作品はいくつかあったが、今回もまたポアロは1人なのだ。寂しさを感じつつ、あることに気がついた。それはヘイスティングズが出てこない作品には彼を登場させられない必然性が生じているということ。今回も仮にヘイスティングズと行動していたらこの事件は起こっていなかったかもしれない。つまり、メタな視点で読めば彼が出てこないことで成り立つ要素に鍵があると示していることになる。クリスティーは決して気まぐれで彼を登場させたり追いやったりしているわけではないのだ。けれど、探偵ものの基本系である探偵とバディを組むという構造は必ず出てくるので、ヘイスティングズじゃなくても置き換え可能であるという事実は、ほんの少し寂しくはあるのだけど…。

構造としては至ってシンプルで、ほとんどのページは登場人物の証言によって構成されている。オチを知っていたのでふむふむと特に推理もせず読み進めたが、自分なりにノートにうつして考えるのも面白そうだなと感じた。どこで矛盾が生じるのか、どう検討してもおかしい場合にはそのものを疑ってみるのかなど、ちょっとした探偵気分を味わえそうだ。従来のヘイスティングズの手記スタイルであれば、その作業は彼に取られてしまうので難しい。大体は彼の頭の中で繰り広げられる推理やポアロへの不平不満など(そこがたまらない)が至る所に散りばめられているので、彼と一緒に事件とポアロに翻弄されながら解決に進んでいくのだが、そういう意味でも今作品は新鮮な印象を与える。それまでの2作が王道の構成だったからか、変わり種がきたなという感じ。ちなみに今は次の作品を読んでいるが、さらに異色だったので、彼女は一体いくつ引き出しを持っているんだろうと驚かされる。これは全て見届けなければ。

次の作品である『三幕の殺人』ももう少しで山場を迎える。感想が溜まりすぎてもと思って読むスピードを緩めていたが、これで安心して読み進められそうだ。ミステリーはできるだけ時間を空けずに読まないと大事な鍵を忘れてしまっていたりするので、あまり細切れに読みたくないというこだわりもある。今年はもう少しスピードを上げて、ポアロシリーズを全て読んでしまいたい。

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