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吃音研究紹介~The Effect of Cognitive Behavioral Therapy in Reducing Social Anxiety Among Adult Stutters~

本記事では、認知行動療法の効果を検証したThe Effect of Cognitive Behavioral Therapy in Reducing Social Anxiety Among Adult Stutters.を紹介します。

はじめに

吃音は、発話の流暢さに影響を与える慢性的な障害であり、これにより多くの人が社交不安障害(SAD)を経験します。社交不安障害は、個人の社会的、教育的、職業的機能に大きな影響を与えます。本研究は、成人吃音者に対する認知行動療法(CBT)が社交不安を軽減する効果を検証しました。

社交不安の影響

社交不安障害は、他者からの否定的な評価を恐れることなどにより、日常生活において極度の不安を引き起こします。これにより、対人関係の回避、教育や職業の機会の減少、さらに抑うつなどの二次的な心理障害のリスクが高まります。Kesslerら(2005)の研究によると、社交不安障害は8~13%の人々が経験し、特に思春期に発症率が高くなります。

吃音と社交不安の関係

吃音は、発話の流暢さに障害をもたらし、言葉の繰り返しや中断を伴います。このため、吃音者はしばしば他者とのコミュニケーションに不安を感じ、社交不安障害を発症するリスクが高まります。吃音者の約50%が社交不安障害を併発しており、幼少期の否定的な経験やいじめ、からかいが原因で社交不安が進行することがあります(Scheurich, Beidel & Vanryckeghem, 2019)。

認知行動療法(CBT)とは

認知行動療法は、思考、行動、感情、身体反応が互いに関連しているという考えに基づく心理療法です。CBTの主な目的は、否定的な思考パターンを認識し、それを修正することで不安を軽減することです。CBTは、社交不安障害を抱える人々に対して非常に効果的であるとされています(Beck, 2019)。吃音者は、自己評価の低さや話すことへの恐怖から不安を感じることが多く、CBTはこれらの感情を管理するための有効な手段となります。

研究方法

本研究では、Soran大学およびSoran技術研究所から16名の参加者(男性12名、女性4名)が募集されました。参加者の年齢は18~22歳であり、全員がクルド語を母語とする成人吃音者でした。

研究の前後で参加者の社交不安レベルを評価するために、Liebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)が使用されました。LSASは、24項目からなる評価尺度であり、各項目は0(全くない)から3(非常に多い)の4段階で評価されます。スコアは、下記のように分類されました

0~29:社交不安なし
30~49:軽度の社交不安
50~64:中等度の社交不安
65~79:著しい社交不安
80~94:重度の社交不安
95以上:非常に重度の社交不安

CBTプログラムは、12週間にわたる8回のセッションで構成され、各セッションは1.5時間行われました。セッションでは、以下のような技法が使用されました。

・認知再構成:否定的な思考パターンを特定し、修正する方法を学ぶ。
・暴露療法:不安を引き起こす状況に段階的に直面することで、恐怖を軽減する。
・行動実験:実際の状況で新しい行動を試みることで、否定的な思考の現実性を検証する。
・自己対話の管理:自己批判的な思考をポジティブな自己対話に置き換える。

結果

社交不安の変化

CBTプログラムの前後で参加者のLSASスコアに有意な変化が見られました。前評価の平均スコアは76.18(標準偏差9.02)、後評価の平均スコアは61.87(標準偏差4.68)であり、統計的に有意な差が確認されました。

7名の参加者は、重度の社交不安から中等度の社会不安に改善。7名の参加者は、著しい社交不安から中等度の社交不安に改善。 2名の参加者は、CBT介入中に社交不安の顕著な改善が見られませんでした。

吃音の変化

吃音の発生率には一貫した変化が見られませんでした。CBTプログラムは社交不安を軽減する効果が確認されましたが、本研究では吃音には直接的な影響は見られませんでした。

考察

本研究は、成人吃音者に対するCBTの有効性を検証し、社交不安の軽減に効果があることを確認されました。CBTは、社交不安の認識と管理に役立ち、吃音者の心理的および感情的な側面を改善するために非常に有効な手段です。

しかし、吃音の発生率には一貫した改善が見られず、これには別のアプローチが必要であることが示されました。言語療法と組み合わせることで、吃音者の全体的な治療効果を高めることが期待されます。

本研究の限界と注意点

サンプルサイズの制約

本研究は、16名の参加者を対象としており、そのうち12名が男性、4名が女性でした。サンプルサイズが小さいため、結果の一般化には限界があります。

参加者の選定バイアス

本研究の参加者は、Soran大学およびSoran技術研究所から募集されました。これにより、教育水準や社会経済的背景が類似したグループが対象となっています。

自己報告の信頼性

社会不安の評価にはLiebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)が使用されましたが、これは自己報告による評価です。自己報告は、参加者の認識や回答のバイアスに影響される可能性があります。

短期間の介入

本研究では、12週間のCBTプログラムが実施されましたが、長期間にわたるフォローアップが行われていません。社交不安の軽減が長期的に持続するかどうかを確認するためには、介入後の長期的な追跡調査が必要です。

参考文献

1)Kakamad, K. K. (2022). The Effect of Cognitive Behavioral Therapy in Reducing Social Anxiety Among Adult Stutters. Technium Social Sciences Journal, 20, 540-545.
2)Kessler, R. C., Berglund, P., Demler, O., Jin, R., Merikangas, K. R., & Walters, E. E. (2005). Lifetime prevalence and age-of-onset distributions of DSM-IV disorders in the National Comorbidity Survey Replication. Archives of General Psychiatry, 62(6), 593-602.
3)Scheurich, J. A., Beidel, D. C., & Vanryckeghem, M. (2019). Exposure therapy for social anxiety disorder in people who stutter: An exploratory multiple baseline design. Journal of Fluency Disorders, 59, 21-32.
4)Beck, A. T. (2019). A 60-year evolution of cognitive theory and therapy. Perspectives on Psychological Science, 14(1), 16-20.

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