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せんすい島とすうちゃん

「ゼェハァ…ハァ…苦しい…もう…走れない…」
右手を掴んでるうーちゃんを見上げると
「全く、これぐらいで…だらしねーな!あともうちょっだからがんばろーぜ?」
私は首を振り
「無理…ハァハァ…うぇ」
なんとか息を整えていると、ふとカメちゃんは大丈夫だろうかと見ると…そこにはカメちゃんの甲羅があった。
「え?何で甲羅…カメちゃんは?」
言うと甲羅からひょっこと顔を出して
「もう着いた?」
どういう事?…それに苦しそうでも無く平然としてる。
なにかおかしい…私はカメちゃんに
「…カメちゃん…何で甲羅の中に隠れてたの?」
カメちゃんは、しまったと顔をして
「…えっと…あのごめんなさい!」
頭を下げて謝った。
「…どういう事なの?もしかして…私だけが…うーちゃんと走らされたって事?」
いつから?もしかして走りだした時から?
でもどうやって?私がカメちゃんを見ると、カメちゃんは視線を反らしながら
「…私小さい頃からうーちゃんと一緒だから必然的にうーちゃんが走れば私も走しってたの…でも私走るのが苦手で…それで考えたの…甲羅に車輪つけて引っ張ってもらえば走らなくて良いって…」
「えっ?って事は…甲羅に車輪付いてるの?」
「うん、ここに」
カメちゃんが指指した所には確かに甲羅に車輪がついてる…気が付かなかった。
「だからうーちゃんが走る時は、うーちゃんに私の手を引っ張ってもらうの…それで私は甲羅の中に入ってるの…」
なんか…それは…ずるい。
私頑張って走ったのにカメちゃんは引っ張ってもらってたの?
「…カメちゃん…」
「ああ、本当にごめんなさい!いつもの癖で…私…ずるかったよね。」
カメちゃんが申し訳なさそうな顔だったから私は
「いいよいいよ!カメちゃん…そうだよね…何かあると直ぐに走ろうとするうーちゃんとずっと一緒だったら、そうなるのもしょうがなよ!」
付き合いが数日の私でも、うーちゃんに付いていくのが大変なのに…付き合いが長いカメちゃんはさぞかし大変だったであろう…だから甲羅に車輪まで付けたんだし…
そう思うとカメちゃんは凄い…
私だったら絶対うーちゃんに文句言ってた。でもカメちゃんは受け入れたんだ…
私はカメちゃんを尊敬の目で見るとカメちゃんが無言で首を横に振り
「たぶん…今すうちゃんが思っているのとは全然違うよ…」
「え?でも…」
「すうちゃん…私別にうーちゃんに寄り添ってとかじゃないからね?」
「え?違うの?」
「違うよ!私うーちゃんが走る度に止めて!って怒ったりしてたの!」
「そうなの?」
「いくら怒っても説得しても!うーちゃんは走ったわ!じゃあ行こうぜ!とか言って!」
うーちゃんのスピードを思うと…大変だっただろう…
「…だから私考えたの…どうやったらうーちゃんを説得できるのか?」
考えたのか…真面目なカメちゃんらしい…
「それで考えて出た答えは!」
「答えは?」
「無かったわ!」
「…。」
「だからもう私はあきらめたの…何度言っても聞いてくれないんだったら!もう付いて行くしかない!でも私にはそんな体力もない…だったら!引っ張って貰えばいいじゃない!って」
と考えて出来たのがこれだったのか…
私はそれを聞いて
「カメちゃんごめんなさい!私カメちゃんの事ずるいとか思っちゃったけど…カメちゃんは今まで大変だったんだね!」
言うとカメちゃんが顔を上げて
「許してくれるの?私ずるしたのに…」
「ううん、カメちゃんはずるくないよ!むしろ凄いよ!こんなに人の話を聞かないうーちゃんとずっと一緒に居るなんて!尊敬する!」
「あんまり嬉しくないけど…ありがとうすうちゃん!」
私達は手を握り頷きあってると
「なぁ、もういいか?」
仁王立ちした。
うーちゃんが私達をニコニコと見てた。
私達は愛想笑いをしながら
「えっと!うん…いいかな、ね?カメちゃん?」
「うんすうちゃん!私達はゆっくり行こうか?」
そう言うと何故かうーちゃんが私達の手を力強く掴んだ。
私達は焦りながらうーちゃんの手を振り払おうとしても手が離れない…
「あの…うーちゃん手を」
「ちょっと手を離してくれないかな?うーちゃん?」
「何いってるんだよなぁ?…カメん家はあともう少しなんだから…な?」
うーちゃんの笑顔に私達が嫌な汗をかいてると…うーちゃんは
「さぁ、ラストスパートだ二人共いいな?全力疾走するぞ?」
それが私達が聞いた絶望の言葉だった。
「いやー!」
「止めて!」
カメちゃんの家に着いた時には私もカメちゃんも虫の息だった。

「オーイ大丈夫か?」
うーちゃんの言葉に
「はっ…ゼェゼェ…ゴホッ!」
私の隣のカメちゃんも
「ハァハァハァ!くるし!」
苦しそうに息をしてる
そんな私達をうーちゃんが仁王立ちで
「体力が無いなーそんなんじゃ来週のかけっこ大会どうするんだ?」
「!」
なにそれ!そんなのがあるの?と顔を上げるとカメちゃんが首を振りながらデスチャーで無い無いと
え?と、うーちゃんを見ると胸を張り
「今俺が発案した!来週かけっこ大会を開催する!」
私とカメちゃんは必死に首を振り無理無理無理!言いたいのに息が苦しくて声に出せずに居ると
「えー!いいな!それって私も参加してもいい?」
びっくりして声の方を見ると見知らぬ馬の女性が居た。
この人誰だろうと思ってるとうーちゃんが嬉しそうに
「あ!ウマ美さんも参加なら俺も気合いいれないとな!」
2人で話がもりあがってるけど…誰?
それにかけっこ大会…参加しないとダメだろうか?
参加したくない…でもこのウマ美さん?の参加はきまったらしいし…うーちゃんは、もうやる気だし…あれ?ウマ美さんって…さっきうーちゃんが…
「ゼェゼェ…もう…お母さん!」
カメちゃんが苦しそうだけどようやく声をだした。
…お母さん!やっぱりカメちゃんのお母さんだ!
まずい私も早く挨拶しないと!
でもまだ息が苦しい!
カメちゃんも苦しそうだ。
するとウマ美さんが心配そうに
「あらあら!大変お水お水!」
物凄いスピードでカメちゃんと私を抱えて家の中に入ったと思ったらいつの間にかテーブルの椅子に座わらされていた。
そして目の前にお水が入った水が置かれ
「さあ、お水を飲んで?」
カメちゃんと私はコップをもって水を飲み干すとようやく落ち着いた。
「はぁ、お水美味しい…」
「…もう…本当に大変な目に合った…お母さんお水ありがとう」
カメちゃんの言葉に私はハッと立ち上がり
「…あっ、あの私カメちゃんと仲良くさせてもらってます。す、すう…みれです!」
あっ噛んだ…恥ずかしい…。
「まぁやっぱりあなたがすうちゃんなのね、うちのカメちゃんがいつもお世話になってます。」
そう言うとウマ美さんはペコリと頭を下げた。
私は慌てて
「え、お世話になってるのは私の方なんです!ねカメちゃん?」
言うとカメちゃんが首を振り
「私がお世話してるのはうーちゃんだけだよ、すうちゃんは大事な私のお友達だよ」
「え…ありがとうカメちゃん」
「ウフフ!本当に2人は仲良しなのね。お母さん嬉しいわ!あ、そうだ!美味しいお菓子をもらったんだわ!待ってて」
ウマ美さんが言うとうーちゃんが
「やったぜー!俺手伝う!」
席を立って勝手に台所に行ってしまった。
「あ、私も手伝います。カメちゃんのお母さん!」
席を立つとウマ美さんが
「大丈夫よ!うーちゃんが手伝ってくれるから2人は座ってて!それと私の事はウマ美でいいわよ?」
確かにうーちゃんはそう呼んでたけど…カメちゃんを見るとカメちゃんもニッコリと頷いてくれた。
「じゃあ…あの…ウマ美さん?」
「フフ!なあに?」
「あの私の事はすうと呼んでください」
「まぁ、いいの!嬉しいわ!これですうちゃんは私とも仲良しね!」
「なんか…嬉しい…すうちゃんとお母さんが仲良くしてくれて」
3人で喋っていると、ふとカメちゃんがハッと台所を見て
「うーちゃんが静かすぎる!」
私とウマ美さんも台所に目をやると、急に台所から声が…
「いやー!美味しそうなクッキーがあるなーこれはたぶん!すげー旨いクッキーのような気がするなー!まだ食べてないけど!」
物凄く怪しい…カメちゃんを見るとカメちゃんがため息をついて
「お母さん…美味しいお菓子ってクッキー?」
「フフ!そうなの!昨日凄く美味しいって頂いたのー!流石うーちゃんね!見た目で美味しさが分かるなんて!ちょっと待っててね直ぐにお茶の準備してくるわねー!」
そう言ってウマ美さんが行ってしまった。
「…カメちゃん」
「…いいの。大丈夫…いつもの事だから…」
何も言えずに黙ってると台所の方から
ガチャン!
「きゃー!」
「うわー!」
悲鳴が聞こえた。
私とカメちゃんが顔を見合わせて
「今凄い音と悲鳴が聞こえたけど…大丈夫かな?」
「はぁ…」
カメちゃんがため息を付きながら席を立つと図った様にお菓子を持ったうーちゃんとお茶を持ったウマ美さんがニコニコと急いで来た。
「お待たせーお茶よー!」
「クッキー旨いぞ!」
クッキーとお茶が私たちの前に置かれた。
私は恐る恐るお茶を貰い飲んでるとカメちゃんが椅子に座りなおし
「お母さん…さっきの悲鳴は?」
聞くと2人は焦った顔で呟いた。
「別に何でも無いわよ?ね?うーちゃん?」
「おう!何でも無いぞ!ウマ美さんが砂糖の瓶ひっくり返しただけで!いつもの事だ!」
えっ!て事は今台所は凄い事になってるんじゃあ…カメちゃんを見ると
「今日はそれだけ?」
「…うん。」
下を向いたウマ美さんが言うとカメちゃんが
「なんだー良かった!怪我とかしてないなら」
ホッとしたような顔だった。
…いつもはもっと凄いのか…さっきうーちゃんとカメちゃんの言葉を思いだした確かうーちゃんが言ってたのは…
おっちょこちょいでせっかちって言ってたような
私はウマ美さんを見ると
「大丈夫よー!もうカメちゃんは心配性なんだから!」
「そうだぞー?ちょっと足滑らしてお茶の中身火にかけたぐらい、いつもの事だろう?」
「きゃー!うーちゃんそれ言っちゃダメじゃない!折角お菓子で黙っててって言ったのに!」
「あ!そうだった…」
急に部屋の温度が下がった気がした。
怖くてカメちゃんの方を見れずにウマ美さんを見ると、ウマ美さんも下を見てガタガタと震えてる…うーちゃんだけは必死に貰ったお菓子をランドセルに詰め込んでる…
カタリと音がして横を見るとカメちゃんが立ち上がり
「すうちゃん?ちょっとお母さんとお話があるから少し待ってて?」
「う、はい!私ここで待ってます!」
「ごめんね?直ぐにすむから…お母さんちょっといい?」
「…う、うーちゃん…たすけ…」
ウマ美さんはカメちゃんに引っ張られてしまった。
「……。」
可哀相だけど…こればかりは仕方無いんだろうなとうーちゃんを見るとうーちゃんは美味しそうにクッキーを食べていた。
私の視線に気がついたのか
「うん?旨いぞこのクッキー?食わないのか?」
この中でクッキーを食べられるメンタルは凄いと感心した。
私は首を振り
「何でもない、このクッキー美味しいねー」
「いくらでもいけるよな!」
話してると、カメちゃんが申し訳なさそうに
「待たせしてごめんね?」
いつものカメちゃんだと安心してるとウマ美さんがプリプリと怒りながら
「うーちゃん!よくも私の事裏切ったわね!」
「モグモグ俺裏切ってない、ただ口が滑っただけだ!それに黙ってたって直ぐにバレるだろ台所の惨状を見れば」
「えー!でも…すうちゃんには…私、いいカメちゃんのお母さんに見られたかったのにー!」
「そんなのは直ぐにバレるに決まってるでしょ?本当にお母さんは…」
「えー?だってー」
「ふふふ」
思わず笑ってしまった。
「あ、笑ったりしてごめんなさい。カメちゃんとウマ美さん本当に仲が良いんだね羨ましいなって思って…」
そう言うとカメちゃんとウマ美さんは嬉しそうに
「そうなの!私お母さんの事大好きだから!」
「まぁ!私の方がカメちゃんの事愛してるんだから!」
一転して2人はニコニコと話してると、またしてもうーちゃんが
「うんうん、良かったなウマ美さん?カメが機嫌が良い内に勝手口のドア壊した事言っちゃえば?」
爆弾が落とされた。
また部屋の温度が下がった気がした。
部屋の温度を下げたカメちゃんは黙ったまま下を見てる…そうしてポツリと
「…すうちゃん…」
ビクリと立ち上がり
「はい!」
「私お母さんと…またお話する事があって…少し待ってて?」
「うん、そうだよね…私まってます。」
「う、、う!すうちゃん!」
ウマ美さんが私に助けを求めて来たが、目を合わせたらダメだと必死にクッキーに手を伸ばした。
「ほら…お母さん行こう?」
「いやー!」
ウマ美さんはカメちゃんに引きずられるように奥の部屋に行ってしまった。
私はひたすら目の前のクッキーを一口食べた。
「あ、これ本当に美味しい。」
「だろ?もっと食え」
「モグモグ…ってうーちゃんは慣れてるね」
「うん?このクッキーの事か?」
「違うよ!カメちゃんとウマ美さんの事だよ」
「ああ、カメとウマ美さんはいつもこんな感じだぞー。2人とも凄く仲良いからなー」
「…まぁ仲はいいんだろうけど…なんでカメちゃんがあんなに心配性なのかが分かった気がするよ…」
「すうちゃんなら分かってくれると思ってた!もうお母さんを一人にすると…何をするのか気が気じゃないの」
「うわ!カメちゃん居たの!もう良いの?」
びっくりしながら言うと
「うん」
カメちゃんの後ろにウマ美さんが居ない
「あれウマ美さんは?」
「…壊したドア直してる」
「…そっか」
「ゴックン!さてお菓子も食ったし、そろそろ時間だし帰ろうぜ?」
テーブルの上のお菓子をたいらげたうーちゃんが窓から外を見ると、だいぶ日が傾きかけていた。
「え、もうそんな時間!なんだか騒がしくてゆっくり出来なかったでしょ?ごめんね」
私は首を振り
「イヤイヤ凄く楽しかったよ!カメちゃんのお母さんに会えたし」
「えー!本当!嬉しいわ!」
いつの間にかウマ美さんが私の手を握ってる
「うわ!びっくりした!」
びっくりしてるとカメちゃんが
「お母さんすうちゃんをびっくりさせないで!ドアは直ったの?」
「あとちょっとだけど帰るって聞こえてきたから…」
モゴモゴと言い訳をしているウマ美さんにカメちゃんがため息をついてると、うーちゃんが
「やるな流石ウマ美さんだ。聞こえてから此処まで来るスピードが早い…」
「でしょ?でしょ?このスピードに気づくなんて…やるわねうーちゃん!」
「まぁでも俺の方が速いけどな!」
「!何言ってるのうーちゃん!気付けただけじゃこのウマ美様の足に叶う訳が無いでしょ?」
「ウマ美さんこそ何言ってるんだよ!ここら辺じゃ俺の足に付いてこれる奴は居ないってな!すう!」
「私は付いて行ける!ね?カメちゃん!」
え?何この空気凄く困るんですけど…焦ってカメちゃんを見ると
「もう、2人共いい加減にしないと…私怒るよ?いつもいつも同じ事で張り合って!すうちゃんもこまってるでしょ!」
カメちゃんに怒られた2人はショボンと
「怒んなよ!悪かったって、なウマ美さん?」
「う!だって…私…カメちゃん顔が怖いわ!すうちゃんごめんなさいね?また遊びに来てくれる?」
私はウマ美さんに
「はい!またお邪魔させてください」
「よかったー!私嫌われて無い!」
やったーとバンザイしてるウマ美さんに
「あのウマ美さん、これからも宜しくお願いします。」
言うとガバッと抱きつかれ
「私の方こそ仲良くしてね!」
「うぐ!」
苦しい!息が!
「お母さん!すうちゃんが苦しそうだから離してあげて!」
「きゃー!ごめんなさいね?大丈夫!」
「ハァハァ!大丈夫です。」
「もうー本当にごめんねすうちゃん…でも今日は来てくれ本当にありがとう嬉しかった。今度はゆっくりお話しようね?」
「うん!」
私とうーちゃんは2人に見送られて帰った。