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誰にもいえない(BL 雨があがる頃には番外)
※画像はイメージです。本編とは関係ありません。
最初に電子書籍にした小説(BL)は主人公を一人称にして書きました。
その間も、相手(慶介)の心情が書き足りなかった気がして、番外編として相手方目線で書いてみました。
DLもできますので、お時間のある方はぜひお手に取ってみてください♪
【あらすじ】
ユウタは大学3年。ガールフレンドのカナはかなり機嫌が悪い。彼女の心情を推し量ることもないユウタはひょんなことから大学院を目指したいと発言したことで。彼女の怒りは頂点へ。連絡を切られてしまう。
そんな時。高校卒業から音信普通だった親友・慶介からメールが届く。カリフォルニアの進学校に通う慶介はどんな生活をしているのだろう。好奇心と逢いたい気持ちが抑えきれず、ユウタは突如カリフォルニアに。慶介に会いに行こうと決意する。
【登場人物】
・ユウタ・・・東京の大学に通う3年生。ちょっと優柔不断。お調子者、サッカー、身体を動かすことが得意。
・慶介・・・ユウタの高校時代の同級生。高校時代あまりにもモテていたにもかかわらず女の噂はまったくなし。ちょっとミステリアスな部分がかえって興味を掻き立てる存在。
【番外編はここから】=================
「慶介」
週末の六本木は夕暮れて、雨が降りだした。俺を見つけた父が手をあげてこっちにやってくる。身体よりも小さな折りたたみ傘から水しぶきがはね、父の肩に落ちる。
「早かったな、ちょうどいい。もう始まるから行こう」
そう言って父は背を向けると青になったばかりの信号を渡りだす。相変わらずせっかちだ。大手商社の重役ともなれば、日々分刻みなのはわかる。だがもう少し息子とゆっくり話せばいいのに。
父の働く商社の祝賀パーティーに呼ばれたのは、俺の大学が決まってからだった。日ごろ顔を合わせる事も少ない父が急に話をふってくること自体、珍しい。米国でも指折りの名門校に入学した息子を紹介したい、そんな感じなのだろうが、正直気が進まない。
「行ってあげなさいよ。たまには、親孝行ってやつね」母親にも懇願されるようにいわれ、しかたなくうなずく。
「スーツを買いにいきましょう。後から役に立つかもしれないから。父さんがいつもお世話になってる人たちだからね。お願い」
最後の「お願い」にはいろんな意味がある。入学金のこと、渡米中の費用の事。すべて父に頼らざるを得ない弱い立場。従うしかないのよ、いいわね。といった含み。すぐに母と一緒に行きつけのブティックに行った。ここは銀座の老舗で、父と母がよく使っている。初めてオーダーメイドを注文し、母と店員の前に立つと周りの表情が変わった。
「素敵ですね。お若いのにこんなにキチンとスーツを着こなせるのって。いや、驚きます」
母はまんざらでもない表情で店員に笑いかける。いつもの営業スマイルだ。
「いいわ。慶介、これで六本木に行きなさい」
「行きなさいって。もう命令だね」
皮肉にならないように言ってみる。が、母にとってはどうでもいいことだ。父の意向に従う事で生きている人だったし、それをただ忠実に遂行しているだけにすぎない。
ブティックの前で母と別れ、日比谷に向かう。スーツの入った手さげ袋がおっくうだった。目の前にタクシーがあり、日比谷公園まで乗ってみた。到着して金を払い、出ようとすると「お客さん、忘れ物」と声をかけられる。
「ありがとうございます」
そういって渋々手さげ袋を受け取った。
「もう逃げられない、か」
スーツの入った袋を眺め、秋空の公園をあてもなく歩いた。
オーケー、スーツを着よう。そしてずっと笑っているよ。でも終わったらこのスーツは墓場行きだ。大学を出て自分が稼いだ金は、すぐに服につぎこもう。オートクチュール、破けたジーンズとジャケットだ。そう、決まりだ。
***
商社の祝賀会は創業110年を記念して開かれた。
母と買ったスーツを着て、父と一緒に会場をまわった。賑やかといえば聞こえがいいが、どことなく鄙びて古臭い感じの会場だった。
父は知り合いに会うたび「息子です、今度アメリカの大学に行くんですよ」といって大声で笑った。父がこんなに笑顔がつくれることに、いまさら気づいた。二時間くらいはそうやって挨拶をしていたが、さすがに疲れてきた。察したように、父が「何か食べるか」といってビッフェコーナーへ向かう。空いている席があったので二人で座った。
「どうだ慶介、こんなパーティーは。大企業ってのはときおりこうやって交際費を放出するんだ」
「なんだか、別世界ですね」
「そうだろ、父さんはこういった場所で延々と頭を下げて生きてきた。だがお前は、こういうのを見てさ。違う世界で生きてみる事も考えてみろ」
驚いた。珍しく本音で語ってる。あらためて父を見るとニヤッとして、まるでいたずらをする前の子どものように俺を見つめた。
「いい男だな。モテるだろう」
いきなり息子に言うセリフとも思えず、うろたえる。
「こんな時に。なにを言うの」
「しらばっくれるなよ。この会場に来てから、お前の事を見ている奴らがいっぱいいるぞ」そう言って父はハイボールを一口飲む。
ポカンとして、初めて父がどんな思考をしているのかを知りたくなった。
「いい気分か?」
「いや、よくわかりません」
「そうか、お前は人前に出るのが好きなタイプには見えなかったが、容姿が邪魔し始めた気がするな。可哀そうに」
いっていることが逐一当たっていて、ぐうの音も出ない。仕方なくそばのウーロン茶を手にした。
「いまは17か?」
「いや、もう18だよ」
「そうか、社会に出ればもっと磨きがかかるだろう。いっとくが美貌に頼るなよ。容姿なんぞ、歳をとればすぐ終わりだ」
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