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高校3年生(終)

学校の屋上に居場所を作った。屋上に行ける鍵を壊して開けた。ここでご飯を食べていた。雨の日はトイレで食べていた。便所飯ってやつだ。人と話すのは得意だ、それなのに人と話せない。皆が幸せそうで、にこやかにしていて輪に入れなかった。皆には当たり前におかえりを言ってくれる優しい両親がいたり、自由に自分の進路を決めれたり、皆好きな物や流行りものが好きで、僕はこの孤独感に耐えれなかった。皆と居るのに1人で苦しかった。誘ってくれたのにごめんね。いつもそんな罪悪感に心を蝕まれていた。いつしかご飯の味がしなくなった。居場所が欲しかった。うちの高校には使われていない天文台があった、そこのドアも壊して開けた。放課後はたまに天文台に行って、そこから見れる夕暮れが好きだった。暗くなるのが早い冬には星が見れた。でも、望遠鏡は壊れて使えなかった。結局肉眼だけど、本当に好きだった。こんなに美しくて胸が溢れそうな思いがあるのに、共有できる人が誰一人いなかった。誰とも話せなかった。今日も一人で帰る。

朝早く学校に着いたら受験勉強をする。朝は空気が美味しい気がする。同じクラスの生徒会長はいつも朝早く学校に来ていた。本を読んでいた。俺も本読みたいなとか思ってたら声をかけてくれた。「いつも1人で偉いね」とか言ってくれた。笑顔で返したかったのに口角が上がらなくて、無愛想に「ありがとう」とだけ返してしまった。あの子はなんで声をかけてくれたんだろ。僕の話を聞いてくれよ。話す勇気なんて無いけどね。この問題昨日もやったな。今日の授業退屈だったな。外で食べてもトイレで食べても味がしないや。ゴムを食ってるみたいだな。皆笑ってるな。卒業までもう少しだな。思い出作りに没頭している皆を見ると羨ましいって思うよ。僕ってあそこにいつから入れなくなったんだろう。

受験は手応えがあった。疲れたな。卒業式までもうすぐ。明日は学校を休もうかな。今日も鏡で笑顔の練習?全然笑えないよ。どうしよう。お父さんお母さんは僕に勉強をしろとか、頭叩いたり、おめでとうとか頑張ったねとか、なんで産んだんだろう。幸せから遠い場所だ。ここは地獄だ。学校の皆は結婚したいとか、子供が何人いたら楽しいだとか、僕はもうどうしたらいいんだろう。片親のあの子は僕に「両親がいるとやっぱ楽しい?」とか聞いてきたんだ。だから「楽しいよ」って言ったんだ。偉いでしょ?あの時の声は多分震えてたと思う。幸せってなんだと思う?自分勝手に生きること?産まれたら不幸だと思うようになっちゃった。みんなの幸せを否定したいよ。そうじゃないと僕が不幸みたくなるじゃんか。

卒業式。卒アルを貰った。卒アルのスペースに皆はありがとうや好きとか、ふざけたことを書きあっていた。皆はきっと、大人になって卒業アルバムを開いて「これ楽しかったよな」「戻りたいね」とか笑いながら話してるんだろうな。クラス写真には映らないで帰った。LINEグループも抜けた。インスタも消した。卒業証書は近くの川に投げた。今どこにあるかも分からない。卒業アルバムはいつか燃やそうと思ってる。大学には受かっていた。嬉しくなかった。桜が咲き始めた。鬱陶しいと思った。僕は鏡で笑顔の練習をするのを辞めた。ご飯も食べなくなった。僕はいつ笑えるようになれますか。

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