かっちんおじさんの日常・2話~片山家の出来事~
開店してまだ1時間ほどしか経ってない。9時開店だからまだ10時をまわったとこだ。
斜め向かいに住む高校時代の同級生の片山隆史(かたやまたかし)愛称は「タカちゃん」隆史が血相を変えてお店に入ってきた。
「うちの奥さんがさ……聞いてくれよ!」
「どうしたんだよ! そんな血相を変えて」
「いつものコーヒー入れてくれるか!」
一先ずカウンター席に座ると、いつものコーヒーを頼んだ隆史は、僕に昨夜の家での出来事を話し始めた。
「昨夜さ、廉のことで奥さんと喧嘩になっちゃってさ、廉が大学卒業したら彼女と同棲したいって言うんだけど、俺は別に就職先も決まってるし親に頼らず自立した生活をするならいいんじゃないかって言ったんだよ」
「今時、同棲するやつなんて普通にいるだろう! なぁ」
「うちの奥さんは、就職してある程度安定してからの方がいいんじゃないか!って言うんだ。でも、結婚を視野に入れての同棲らしいんだよ」
そうこうしてると息子の廉もお店にやって来た。
「親父、ここに居たのかよ」
「おー……お前も母さんから逃げてきたのか!」
「俺の気持ちは、かわんねぇから。親父は俺の味方でずっといてくれよな」
「俺は、紗子(さこ)ちゃんのこと好きだし、良い子じゃないか! 今時の若い子にしては」
「だろ! ちゃんと将来のことは考えてるし、いい加減な気持ちで同棲するわけじゃない。1、2年仕事しての様子で落ち着いてきたらしっかり籍を入れるつもりでいる。それまで待っててくれるって紗子も了解してくれての同棲だから」
「廉がちゃんと彼女のこと真剣に考えてるなら、僕も応援するよ」
「ありがとうかっちんおじさん。じゃ、俺、今から駿兄ちゃんと誕生日パーティーのフライヤーの原稿の打ち合わせしてくるから」
そう言うと廉はお店を出て行った。
「タカちゃん、お前を観てると、つくづく独り身で良かったって思うよ」
「かっちんは、このカフェ経営しながら好きな歌うたって自由気ままな人生送ってるもんな」
「でも、時々思うんだ。この年だから今更、結婚とかまでは良いかなって思うけど、一応まだまだ男でいたいから、好きな女の一人や二人いたらな~って思う時はある」
「かっちんにその気があるなら、女、紹介するぞ! バツイチなんだけど前の旦那との間に子供は居なかったらしいんだけど、結婚まで考えてるわけじゃなさそうで、茶飲み友達みたいなのが欲しいって言ってる女が俺の会社に居るんだよ。今度ここに連れてこようか? 年は俺たちと同じで誕生日前だから56歳だけど実年齢より若く見える女なんだよ」
「そうだな……茶飲み友達くらいなら会ってみても良いかな」
「もう前の女のことはいい加減忘れてさ、そろそろ新しい女に目を向けてもいいんじゃないか! 」
僕はコーヒーを一口飲むと、ぼそっと心の声を隆史の前で呟いてる自分が居た。
「いくつになっても酒と女とタバコは止められないんだよな。あははっ」
「じゃ、そろそろ家に帰るな。 奥さんの機嫌取りじゃないけど、角にあるたい焼きでも買って帰るかな。うちの奥さん、あそこのたい焼きが好きだからな」
「タカちゃんの奥さんはたい焼きに目が無いからな」
「かっちん愚痴聞いてくれて少しは落ち着いたよ! じゃぁな」
僕の店にはいろんな客が来る。
殆どが近所や、この街の知り合いの常連さんなんだが皆、僕に日頃の愚痴や時には嬉しかったことなどを話に来る。僕はその話を聞いてあげる聞き役に回ることが多いかもしれない。
そんな……この町が好きだ。
まだ今日1日は始まったばかりなのだが、一つの出来事が終わったと思ったら、また次の出来事が……
その話はまた次回ってことで今日はここまで。
次の更新まで暫しお待ちください。
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