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終火第6話「3度目の夏そして花火大会」

 8月17日土曜日、今日も二年前の初めて涼太と行った花火大会の日と同様に晴れわたる空で、花火日和だった。


 涼太との待ち合わせの時間は5時。横浜から帰ってくるのがお昼過ぎだと言うので、夕飯は軽く先に済ませることにした。
 5時に公園の階段下で待ち合わせすることに。



「加奈子お待たせ~」

 涼太は相変わらずの笑顔で私の方に歩いてきた。
 
 「もうさ、新幹線乗り遅れそうになったけどなんとか滑り込みセーフで乗れたよ! こだましか停まらないからさ、やんなっちゃうよな」
  
「それは、それは大変だったね涼ちゃん」

 付き合い始めの頃は涼太ではなく涼ちゃんと呼んでいた。でもいつの間にかお互いにちゃん付けから名前で呼捨てにする仲になっていた。

 が……

 今日は何故だろう?

 自然と涼ちゃんと言う言葉が出てきてしまった。

 無意識に!

 実は昨夜の涼太からのLINEで、明日話したいことがあると言われていた。
 ずっと、その言葉が頭から離れずにいたが、とにかく今は、今を涼太との時間を楽しもうと必死で平然を装い笑顔で振舞う。

 少し公園内をぶらつき、自動販売機で飲み物を購入し、ベンチで一休みすると、涼太が私に言いにくそうに話を始める。

 「加奈子……」
 
 「ん?」



「あのさ……あのな……」

「うん……」

「僕達、今日で別れよう!」

「そろそろ言われるんじゃないかな~って思ってた」

「………」

「涼ちゃん、涼太は香織さんのことが好きなんだよね?」

「ゴメン!、本当にゴメン!」

「私……ずっと前からわかってたよ! わかってたけど……」

 意外と淡々と涼太に話している自分に自分でも驚く。

 もっと泣きじゃくって泣き叫ぶかと思っていたけど、ガン宣告ではないけど、何となくそろそろ言われるんだろうな~そんな予感がしてたから。

「涼ちゃん、最後の花火ちゃんと最後まで一緒に観よう!ちゃんと観終わってから別れたいから」

 そして夜7時過ぎになり人もかなり増えてきた。
 カップルも多い中、家族連れの親子の姿もあり、賑わう公園内。

 涼太と付き合い始めの時に見た同じ場所で、涼太との最後の花火を一緒に観た。



 花火を観ている最中に、ふと隣の涼太を見たら、ゴメン!て口が動いた気がした。気のせいかもしれないけど、私には、そう動いたように見えた。

 本当は心の中で、やっぱ一緒に居よう! これからも! ずっと!
 そう言ってくれるのを何処かで少しだけ期待してたけど、何もないままに花火を観終える。

 いつの間にか涼太の前では見て見ぬふりをするようになり、嫌われたくなくて、平然を装い演技が上手くなっていったの。あなたの涼太のせいで。

 でも……

 涼太と出会って沢山の幸せな時間と思い出も残ってるから、「ありがとう!」の感謝の言葉しかないよ!

 そして、私は、涼太と出会ってからのことを思い出しながら、今独り自分の部屋のベッドの上で横になっている。昨日涼太の前では泣かなかったのに、今頃になって涙が溢れて止まらない。

 ティッシュを隣に置きながら、何度も零れ落ちる涙をふく。

 目が真っ赤になる程、泣いた。

 それから、暫く枯れる程泣き尽くす。

 バケツ一杯は大げさかもしれないけど、普段強気な私は人前では泣かない!
 ましてや涼太の前では、何度となく泣きたくなる瞬間もあったが、涙で目をはらした顔を見られたくなかったから。

 好きな人の前では、いつでも良く見せたいと思うのが女心ってもんだ。

 それから、私は暫くこの公園に足を運ぶことはなかった。

 流石に涼太との思い出がたくさん詰まったこの公園に足を踏み入れる気にはなれずにいた。

涼太と別れてから、一年以上経った頃の秋に私は、やっとこの公園に足を運ぶことができた。

 やっと心の整理もでき、この公園に来る気持ちにもなれた。




さぁいよいよ次回は最終話の予定です。

書けそうだったら今日中に最終話も書き上げて完結させたいと
思います。

 



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