【UWC体験記④】IB教科についてーあえて難しい道を
オリエンテーションウィークのもう1つの大きなタスクは自分の教科を決めることです。
数学と英語の簡単な試験があり、その結果に基づいてこの2科目についてはどの科目を取るべきかアドバイスがありますが、他は自分で取りたい科目を選びます。
UWCが採用しているのはInternational Baccalaureate (IB)、国際バカロレアと呼ばれるカリキュラムです。世界での高校卒業資格として認められていることが特徴です。
全部で6つの教科を
第一言語
第二言語
社会
理科
数学
芸術
の6つのグループから選びます。芸術グループの代わりに他のグループからもう1つ取ることも可能なので、私は社会から2つ取っていました。
6つのうち3つをHL(higher level)、3つをSL(standard level)で履修します。成績は7段階評価で付き、6教科合計42点に加えTOK(知の理論)とEE(卒論)で3段階評価の合わせて45点満点でIBの成績は付けられます。
EEについては以下に書きました↓
私が履修したそれぞれの科目について簡単に説明します。
第一言語ーEnglish Language and Literature SL(文学と言語)
渡航前から英語を第一言語で取ろう!と意気込んでいました。ネイティブの英語力にすでにそこそこ近いはずだから第一言語として取ることで水準を引き上げることができるだろう、と。
この考えは在学中もずっと持っていてこの選択に一切後悔は無いのですが、Englishは最も苦戦する科目となりました。
実は第一言語として日本語を取ることが可能です。第一言語ではself-taughtというシステムがあり、自分で母国語の本を読み試験に向けて勉強して、最終試験は自分の言語用に作られた共通のものを受ける、といった仕組みです。実際、英語が第一言語でない人の大半は第一言語で母国語を取り、第二言語としてEnglish Bを取っていました。
ただ、私の予想外だったことは他の英語が母国語でない生徒もほとんどが全て英語のカリキュラムだったか、英語が日常的に使われる国にいたということ。日本からの派遣生のように学校で(文法重視の)英語を学んでいただけという国はほぼありません。
なので小学生の時に2年間英語圏にいた私とは比べ物にならないほど流暢ですし、何よりアカデミックな英語を知っている。そういったもう本当にネイティブとの違いを感じられない生徒でも第一言語ではなく第二言語として英語を取り、非常に簡単に7を取っていくのです(笑)。
最終試験の内容
最終試験では2つのpaper(試験)があり、1つは実際に公開されている記事、コミック、ブログ等なんでもありの文章が出題されます。そして1時間15分かけて1つのエッセイを書きます。
「著者が使用する文体や写真がどのようにその目的を達成しているか分析せよ」
最初は「英語で分析???」といった感じだったのですが何回も授業で練習するうちにmetaphor, simile, irony, rhetorical question, epizeuxis, anaphora, imagery, personification…といった非常に多くのテクニックが使われていることに気付きます。そしてそのテクニックがどのような役割を果たしているか、文章全体にどのように貢献しているかを説明し全体として何が伝えたいのかを分析する、といった感じです。
1つここで大切なのは、「批判」をすることです。実際に有名な雑誌に掲載されていたり企業のホームページだったりするので批判なんてあるのか??と思うのですが、これが実はなかなか楽しいところです。
例えば、全米ライフル協会のホームページに銃保持でどれほど実は安全なのかがきちんとしたデータの提示無しに書かれていたら「信頼性にかける」。「どうやって一流の男になるか」という記事の中に車の横に女性が立つ写真が載っていたら「女性を軽視し、ものとして扱っている」。新しいガソリン車の広告で環境への配慮が付け加えたように書いてあったら「グリーンウォッシングをしている」。
そして2つ目のpaperは授業で取り扱う小説を比較して1つの問いに答えたエッセイを1時間45分かけて書くこと。こちらは比較的分かりやすいので授業でも最後の1か月ぐらいになるまでは本を読み込むだけでこのpaperの対策は特にしませんでした。
Oral exam
IBの最終成績はそれぞれの科目によって最終試験だけではなくその前に実施するレポート(IA)やoral examの評価が一定割合入ってくる科目もあります。
English SLでは成績の30%がoral examという15分間の口頭試験の評価になります。この試験は1年目の最後の実施されたので、1年目は書く試験よりも口頭に重点が置かれていました。
授業開始後約2か月、初めてのpractice oralをやってみることに。授業で見た飲酒運転啓発広告の動画を分析し、5分間で発表するというものです。
当日、なぜか私が一番に指名されやることに。すると、始めから全然英語が口から出てこない…!そして単語も頭に浮かばず何度も頭が真っ白になり一回言ったことを繰り返す。スライドを作っていたのに自分が載せた内容を思い出せず、切り替えてから自分が書いた文字を読み上げるといったなんとも悲惨な発表に。
その後クラスメートの発表を見ていると、まずスライドのクオリティに雲泥の差が。そしてみんなきちんと落ち着いて5分間が組み立てられている。
最初の発表後、先生からは「そんなに悪くはなかったよ」と完全に慰めの言葉をもらい、評価は「4マイナス(4の3寄り)」と。正直結構落ち込みましたが、もうここからは上がるしかない!と毎回改善点をきちんと積み重ね、本番では6まで上げることができました。
本番のoral examもいつもの教科担当の先生とやるのですが、その時に先生から「よくやった!」と親指を立ててもらった時は本当にうれしかったです。
英語に関しては一学期中は話しても書いても毎回4以外の成績がもらえず、一学期の成績では全員が5以上の中1人だけ4でした。ただ繰り返し練習をすることで2年の終わりには常時6を取ることができるようになりました。
この科目では一般的に7を取るのは難しいとされているため、自分の成長と積み重ねには非常に満足しています。
第二言語ーFrench Ab initio SL(フランス語初級)
新しい言語を学びたかったのも英語を第二言語で取らなかった理由の一つです。フランス人の先生のもと、一切フランス語に触れたことのない生徒対象の科目でした(とはいっても1,2年学んだことのある人はいました…)。
最終試験の内容
リーディング、リスニング、ライティングの3つの試験でした。リーディングとリスニングは特に変わったところはなく、ライティングは初級で書かせるんだと驚きはありましたが授業内の練習で特に困難はなく慣れました。
Oral Exam
Ab initioの科目でもoral examはあります。ただ第一言語とは大きく異なり、提示された写真を見て15分間の準備したあとひたすらその写真をフランス語で説明するというものでした。その後いろんな質問を先生からされ答えます。
本番の前日、フランス人の友達に頻出質問を聞いてもらっていると、あれ?聞き取れない?と、まさかのこの段階でプチパニック(笑)。その友達に何回も練習してもらった後は自分でひたすら質問をGoogle翻訳に入れて読んでもらうというのを繰り返しました。
なぜかこれでもなんとかなり、こちらも先生から「すごい良かったよ!」と言っていただけました。
社会ーGlobal Politics HL(国際政治)
これはザ・UWCといった感じの渡航前から一番楽しみにしていた科目です。国際政治というより国際情勢といった感じで、授業の半分ぐらいの時間を最近のケーススタディ(政治問題の実例)のディスカッションに費やします。残りの半分ぐらいが政治理論や途上国の発展を測定するための指標等のインプットになります。
この科目の本当に面白いところは、授業で取り扱うケーススタディの規模が大きければ大きいほど、関与している国出身の生徒が多く、それぞれの視点を直に聞くことができるところです。
クラスメートは、ノルウェー、ペルー、香港、台湾、イギリス、アメリカ、シリア、ドイツ、スイス、パキスタン、ジョージア、レバノン、ルーマニア、フィンランド出身といったメンバーで、世界のかなりの地域がカバーされていました。
UWCに行くならGlobal Politicsは取るべき科目だと思います。ただ、このような政治問題に関するディスカッションは授業外でも頻繁に行われることは事実です。
例えば、私のクラスにはいないのですが、ロシア人の友達とウクライナとの戦争について話した時のこと。「正直、ほとんどの国民はみな直ちにロシアが撤退することを願ってるんだよね」と悔しそうに話してくれ、ハッとさせられた覚えがあります。
メディアではいかにもロシアという「国」が戦っているように見えているけど、本当はあくまで「政府」が始めた戦争にすぎないんだ。その国にいる国民は戦争の目的や意図とは無関係なんだ。という気付きでした。
最終試験の内容
Paper 1はソースベースと言って、風刺画、写真、政治記事等を提示され、分析や比較などの問いにいくつか答えます。こちらは形式が分かりやすく高得点の取り場なのですが、私が本当に憂鬱で仕方なかったのはpaper 2。
2時間45分という長時間の試験にも関わらず、与えられるのは1枚の紙に8つの問が書かれたものだけ。そのうち3つを選んでエッセイを書く、という試験です。
問の例:
国家および非国家からの脅威に対応する際の集団安全保障の有効性を評価せよ。
IGO(国際政府機関)に加盟すると主権国家の力が弱まるのかどうかを論じよ。
「世界人権宣言は、人権に関して欧米の視点をそれ以外の社会に押し付けようとしている。」この批判にどの程度同意するか。
大体長さとしてはそれぞれのエッセイで罫線用紙に3~4枚書く感じだったので合計10枚以上を約3時間書き続けなければいけません。練習を重ねるとアイデアは浮かんでくるようにはなるのですが、それよりも私は手の疲れと集中力の維持が不安ポイントでした。
HL Presentation
言語科目のoral examと似てHLの人のみが実施するPresentationを3回行いました。それぞれが最終成績の10%を占め、3回やって上手くいった2回を提出するといった方式でした。
Presentationとは言いながらもスライドは無し、10分間1人でひたすら話すものです。手元に多少のメモを持っていてもいいもの、ビデオ録画されてIB本部に送られ、あまりにも見すぎていると判断されると大きく減点になるそうなので基本は10分間覚える気で行かなくてはいけません。
このPresentationは実は私の全てのIB経験の中で一番きつかったものです。1つ興味のある政治問題を選び、それをひたすら分析するのですが、こちらでもまず「分析??」となる訳です。
2週間前から始め、20~30時間はスクリプト作りに費やすのですが毎回当日の早朝まで完成せず、その日の自分の時間枠までの朝の時間で頭に詰め込む、といった超ハラハラドキドキの体験でした。
3回目のpresentationで福島原発事故についてやった時。毎回一回だけスクリプトに先生からフィードバックをもらうことができるのですが、もらったのが本番2日前。
大量の細かいコメントがついていてありがたいと思ったのもつかの間、一番最後のコメントがなんと「トピックがあまりに広すぎるから、福島県の安全保障へのインパクトだけにしぼりなさい」と。日本全体の経済影響や他県での被爆者への風評被害などを入れ込み、福島県の安全保障についてはたったの数文。これを10分間に広げる??と途方に暮れましたが先生にもらったアドバイスなので従わない訳にもいかずほとんどすべてを書き直しました。
3日間最低限の睡眠で授業以外のほぼ全ての時間をスクリプト作りに費やし、結果的には今まで取ったことの無いほぼ満点をもらい、終わって涙が出そうになりました。
社会ーSocial and Cultural Anthropology HL(文化人類学)
こちらは多くの学校には設置されていない科目です。その名の通り授業では世界の様々な文化を持つ人々について学習します。ブラジルの整形、刑務所内のタトゥー、黒人LGBTQの人のボールーム文化、等々、とても面白かったです。
最終試験の内容
国際政治と似たような形式でpaper 1は人類学の研究をまとめた文章が出題され、そこから問題に短めのエッセイ形式で答えます。そしてpaper 2はまたもや多くのエッセイの問題文から選んで合計3つのエッセイを書きます。
教科の特性として「社会」「文化」「慣習」といったなかなかふんわりとした言葉ばかりを使い、分析をしようにも非常に解釈の幅が広いことが特徴です。なのでエッセイを書いていると途中から自分が何を言っているのかがよく分かんなくなったり、何もちゃんとしたアイデアが浮かんでいなくてもそれっぽい文章が書けちゃったりします。
よって、今までに英語でのエッセイ経験が多い同級生はとても簡単に感じる試験な一方、私のような簡単で短いエッセイの練習しかしたことの無かった人にとっては大苦戦でした。
IA(レポート課題)
言語科目以外は全ての科目でIAというレポート課題も最終成績を構成する一部となります。文化人類学は少し特徴的なIAで、実際にそれぞれの生徒が夏休みに人類学者としてフィールドワークを行い、その結果をまとめて分析するといったものです。
私は「アメリカ在住日本人の交友関係は対日本人と対外国人でどれぐらい違うのか」のテーマで夏休みに滞在したアメリカの近所で日本人にインタビュー・アンケートを実施しました。結果、やはり日本人とアメリカ人の大きな国民性の違いから日本人はどこにいても他の日本人を探す、ということをデータで取ることができました。
理科ーPhysics SL(物理)
私は日本の高2からは理系に進んでいたので、1年目はほとんど過去にやった内容の復習で簡単に感じました。物理はSLで取ったため、周りの人が数学をSLで取っていてあまり得意でない人が多く、その点でも周りと比べて有利に感じました。
試験は全て記述式ということ以外は問題の内容は日本でやっていたようなものとあまり違いはありませんでした。さすがに2年目の内容は初めてやるものだったのできちんと勉強は必要でしたが常に得意科目ではありました。
IAもとてもシンプルで2つのデータの相関性を調べる、といっただけのもので一番時間をかけなかった科目だと思います。
数学ーMath Analysis and Approaches HL
数学は2種類あり、私の取った通称AAとApplications and Interpretation、通称AIの2種類があります。AAの方が日本の数学に近いもので、AIはどちらかというと実世界の中での数学の応用に重点を置いています。
そして他の科目と同じくSLとHLで選ぶのですが、数学はSLとHLの違いが最も大きい科目と言われており、HLの数学、特にAAのHLは生徒の中では最も難しいIB科目という認識でした。私は日本で数学が比較的得意だったのでこのAAのHLを取ることにしました。
日本では数学は数1・Aと数2・Bの最初をカバーしたぐらいだったのですが、内容は驚くことにほとんどが私は日本でやったことのないものでした。それに加え、関数電卓を試験で使うことがあるので関数電卓の使い方も1からとなり、正直若干なめて行った数学でしたが意外と苦戦することになりました。
最終試験の内容
問題自体は日本の数学に似た感じではあるのですが、全問記述式になっています。そして採点は答えを導く過程も含み、答えだけを書いてもかなり減点されます。
ただ逆に、最初の数過程までできたら半分ぐらいの点数をもらうこともできるので、実力のレベルがそのまま反映されやすく私は好きでした。
3つのpaperがあり、paper 1は電卓無し、paper 2は関数電卓を使います。それぞれ110点満点なのですが、だいたい70点ぐらいを取れば最高評価の7相当になります。
そしてpaper 3も電卓は使用可なのですが、試験内容は「カリキュラム外に渡ることもある」(!)というもので、先生からは「きちんと脳を使って、幸運を祈るんだ!」と言われました(笑)。
もう1つ大きな特徴は、全てのpaperにてformula bookletというカリキュラム内で使う全ての公式が載っている冊子を使うことができることです。つまり、一切公式の暗記は必要なく、その公式をどう使うかといった点だけが問われています。
これは他の教科でもよく行われており、理科の科目でもそれぞれにdata bookletと言って必要な公式と数値が載っている冊子を使うことが可能です。
IA(レポート課題)
数学のレポート課題は本当に何でもありで、とにかくカリキュラム内の数学を使える研究を自分で行います。私は2年目は学業以外のことがとても忙しく、IAは全て後回しにして期限ぎりぎりに最大集中で仕上げるという方式で数学IAの提出1週間前にしてテーマが決まっていませんでした。
他のHLを取っている友達にそのことを言うと「え!!」とかなり心配してくれ、テーマ決めを手伝ってくれました。私の趣味に関係したもので数学を使えそうなものとして「テニスのガットの長さは?」と提案してくれ、検討の時間もなく即採用することにしました。
シンプルすぎるかなと言った心配は全く無用で、1つの縦線でも三角関数の式を何個も計算しなければいけなく、地道な微積の計算を1週間日夜続けなんとか完成することができました。
「動機」として書くことを考えていた結果、中学生の時に自分でガット張りをしていたことを思い出し、「正確なガットの長さを導くことでガットを張る前に長さを切るときの無駄をなくしたい」と本当にもっともらしい、というかかなり理にかなった動機を後付けで最後に書き、提出しました。
Theory of Knowledge(知の理論)
私の学校ではTOKは1年目の後期と2年目の前期の1年間だけ行われました。これはとても楽しみにしていた教科だったので正直すこしがっかりした教科でもあります。
知の理論ということで、なぜそれを知っているのか、なにを知っているというのか、といったことをディスカッションを通して考えるのですが、私の体験としては毎回の授業で同じような「こういう考え方もあるよね、人ぞれそれだよね」といった同じような結論になってしまい、新しいものを教えられることはあまりなかったように思います。
もちろん歴史や道徳ジレンマについて考えたときなど、おもしろい授業もあり、いつも授業内で同級生と意見を交わすこと自体はとても楽しめました。
成績の付け方
前述の通り、TOKとEEで最終成績のうちの3点分になるのですが、TOKの成績は1年目にやるexhibitionと2年目のessayの2つです。
Exhibitionでは3つのobjectを自分で選び20個ほどある問いの中から1つを選んでそのobjectに関連して答えるというもの。私は「個人の経験と知識の関係は何か?」という問いに対し小刀、万有引力の法則、マスクを使って答えました。
Essayも似ているのですが、こちらは単純に問いに対して実例を用いて答えるというもの。私は「私たちの知識の獲得が、一部の情報や声が排除された『バブル』の中で行われるかどうかは問題ですか?」という問いを選びました。ここで難しかったのは肯定意見とともに否定意見も必ずいれなければいけなかったことでした。こちらのエッセイは1600語以内のものでした。
まとめ
同級生の中ではIBがどれだけ大変かについて愚痴ったりジョークを言うのがもはやトレンドしてはいたのですが、正直きちんとやるべきことを期限を守ってやれば(私はあんまりでした、、、笑)そこまで高難度のものではありません。
ただ、日本人の方がIBを取る際にはエッセイ科目の社会科目は日本の教育では全くやったことのないものになると思いますので、注意が必要です。
私は全て分った上であえて自分にチャレンジを課して成長するチャンスにしようと第一言語の英語、数学のHL、社会科目2つという私にとってはかなり高難度な科目を選びました。
多くの人は可能な限り簡単な科目を取り、とにかく高得点を狙うので、科目選択のせいで頑張っても最高評価に届かないような時は落ち込むこともありました。ですが、最終的には英語で書く力や自分の力で考える力は大きく成長したのでこの科目選択で良かったと思っています。