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【UWC体験記㉕】ミュージックセラピー(CAS) ー認知症患者に歌を届ける

私が2年目のCASのServiceとして取ったのは、近隣の老人ホームに行って実施するMusic Therapyというものでした。コロナで過去3年間は実施されず、今年復活したCASで、大人気なのに枠はわずか5人のところ運よく入ることができました。

昨年度は校外に出るCASが無く、やっと本当のコミュニティへの奉仕活動ができる!ととても楽しみにしていました。


ミュージックセラピーとは?

そして最初の数週間はまず教室で歌の練習、および実際に老人ホームに行った際の振舞い方などを訓練します。

このミュージックセラピーですが、その名の通り、一種の療法として注目されているもの。単にお年寄りへの娯楽を提供するのではなく、認知症患者などに提供することで脳の活性化や長期記憶の復元、自尊心の向上などを狙いとします。

認知症の治療法ではありませんが、科学的にも患者の生活の質の向上に役立つとされています。

お年寄りの方々の記憶を刺激するため、私たちが歌う曲も彼らが子供だった頃、40年代や50年代の童謡になります。もちろん歌える曲は一切無く、ほとんどが聞いたことも無いような曲ばかりなのでCASの時間以外にも各自で練習し、なんとか歌詞を見ずに歌えるよう練習しました。


初回の訪問

そして待ちに待った初めての老人ホーム訪問。

担当の先生からは「君たちは学生でボランティアとはいえ、仕事だという意識も持つように」と言われておりとても緊張します。

そして習ったように老人ホームに入ったらまず膝立ちでお年寄り1人1人と目を合わせて大きな声で挨拶します。最初はどんよりとした雰囲気であまり反応が無い人や寝ていた人も。

しかし、重度患者ばかりのホームでは無かったこともあり、歌い始めるとかなりの人が一緒に歌ってくれどんどん盛り上がっていきます。タンバリンやマラカスも使い、私たちもとても楽しい回でした。

帰り際、多くの患者さんから「また来てね!」と言ってもらい、ホームのスタッフさんからも「こんなに活気があってすごい楽しそう!ありがとう」と言葉をかけてもらいました。

私たちも楽しく歌を歌い、楽しく会話をして、それで「ありがとう」と言ってもらえ効果を目で見ることができる。なんて良いサービスなんだとその帰り道、みんなで感動しました。


ほぼ寝たきりの患者が歌った?!

その後、重症度も様々な患者さんたちがいる老人ホームに毎週行き続けます。軽症患者とのセッションの時は反応も大きく患者さんたちが一緒に参加してくれ、ダンスをする人も出てくるなどとても楽しいのですが、私の中でより記憶に残っているのはかなりの重症患者たちとのセッション。

入った時からほとんどの人が寝ているか起きているか分からないような状態、1人ずつ挨拶をしてもほとんど反応がありません。歌いだしても一緒に歌うなどもってのほか、顔を上げてくれれば良い方、といった状況。

その中でも私たちが必死に歌ったり、手をつないだりとコミュニケーションを取っていくと次第にリズムに合わせて手を自分で動かしたり、中には歌を口ずさみ始める人も。

これに対して一番喜んでいたのは老人ホームのスタッフさんたち。そしてこの瞬間を逃すまいと携帯で動画を撮り始め、それを家族に見せたいと教えてくれました。

「この人はここ3カ月ほとんど反応が無かったからびっくり!」

と伝えてくれ、こんなにもやりがいを感じられるボランティアがあったんだな、とますますミュージックセラピーの活動が好きになりました。


患者の家族の思い

他にも非常に印象に残っている瞬間があります。2週連続で同じ老人ホームに行くと、先週もいた少し若め、といっても60代ぐらいの患者ではない男性が再びいます。

前の週には特に意識していませんでしたが、どうやら入居者の家族の方のよう。1人の女性にぴったりくっついて頻繁に話しかけています。

旦那さんかな?と思ったのですが、歌の合間にその人が携帯で女性に見せ始めたのは、小さい男の子とお母さんの写真。息子さんだったのです。

確かに、私たちが歌っている曲はその男性の子供のころもあったものでしょう。それでもその女性は男性のこともあまり覚えていない様子で、写真に対しても特に反応は見せませんでした。

帰りのバスの中でCASのメンバーでその話を。親が子供を忘れてしまう、こんな悲しいことがあるのか、と。すると私たちもみな自分の立場に置き換え、自分の親が認知症になってしまったら、自分が認知症になってしまったら、と想像してしまいさらに悲しくなります。

今はなくても、近い未来で十分起こる可能性のあること。そして家族の死もいずれ訪れることである。私たちの若さゆえ現状を当たり前と思ってしまい考えることの少ないことに考えを馳せる思わぬきっかけになりました。

この経験を教員がセットアップしてくれたCASの中でできたことで、UWC経験の中で数少ない、ほとんど何も苦労もせず本当に有意義でかつ私たちのリラックスにもなる経験をさせてもらい感謝しています。


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