【原告準備書面2】札幌弁護士会に対する不当利得返還請求訴訟

昨日公開した原告準備書面1とともに、昨日の口頭弁論期日で陳述した原告準備書面2です。分量としては9頁でした。
次回期日までに被告から反論等の書面が出る予定です。



令和5年(ワ)第2440号 不当利得返還請求事件
原告 林 朋寛
被告 札幌弁護士会

原告準備書面⑵

令和6年2月22日

札幌地方裁判所 民事第3部合議係 御中

原告  林  朋 寛  

第1 総会決議の遡及的効力の無効について

 1 租税事案について

⑴ 被告は、弁護士法等には会費の規定の会則や総会決議の遡及適用を禁止する規定は無い旨を主張し(答弁書17頁ウ)、租税立法について納税者に不利益な遡及的効力を有する立法が一切許されないものとは解されていない旨を主張する(答弁書17頁脚注12)。

 ⑵ 被告が脚注12で挙げる最高裁第一小法廷平成23年9月22日判決(甲23)は、暦年の途中に法改正をして改正後の規定の適用を当該暦年の1月1日以後の取引に適用することが問題となった事案である。この最高裁判決の事案の他、改正後の遡及適用が問題となった租税の事案は、暦年の途中に法改正がされて当該暦年の終了時に発生する納税義務について問題になったものばかりであり、当該暦年の前年以前にまで改正後の規定を遡及適用するという事案は見当たらない。

 ⑶ 上記最高裁判決の事案のように改正した当該暦年の1月1日以後の事実関係に改正法を適用するということと同じように、本件事案をたとえると、総会決議が成立して日弁連の承認を得た月の1日からの会費・特別会費に当該決議を適用するということになるに過ぎない。被告の会費と特別会費は、月ごとに発生するものだからである。

 ⑷ したがって、数十年前まで総会決議の効力を遡及させようとする本件の事案は、租税事案の判例とは異なるものであり、租税事案が合憲・適法とされているからといって、本件の令和3年決議や令和5年決議が有効となるものではない。

 ⑸ 本件の事案を租税の事案でたとえると、

数十年にわたり法律上の根拠なく課税していたことが発覚したため、課税の根拠を数十年前まで遡及させる立法をした

という事案といえる。

国税においては国、地方税においては地方公共団体が、このような数十年前までに徴税根拠の効力を遡らせる法律や条令を制定したという事例が実際にあることについて、原告は知らない。さすがに国や地方公共団体がこのような無法な遡及立法をしないと思われるので、このような事例は無いものと考える。
仮に、国税や地方税でこのような事案が生じた場合、裁判所はそのような法律や条令の遡及効を認めるような無体な判断はしないものと考える。

 ⑹ なお、納付または徴収の時点ですでに法律上の原因を欠いていた税額である誤納金は、不当利得であり、納税者に還付されるべきものである(国税通則法56条1項、地方税法17条)。

 2 弁護士法33条について

⑴ 被告は、総会決議の遡及適用を否定する規定は無い旨を主張する。
しかし、弁護士会の会則の制定・改定は日弁連の承認(弁護士法33条)によって有効となるので、日弁連の承認は会則の制定・改定に対する事前規制である。事実上承認を強いることになる事後的な承認は、事前規制を潜脱するものとして弁護士法33条に反して原則として無効というべきである。  
 したがって、一種の事後承認の場合である日弁連の承認の対象となる総会決議の遡及効の規定は、弁護士法33条に反して無効である。

⑵ よって、会館維持負担金・札弁会費・入会金の令和3年決議、並びに道弁連会費・すずらん会費の令和5年決議の遡及適用をする附則の規定は、弁護士法33条にも反して無効というべきである。

 3 不遡及原則について

⑴ 法の不遡及原則は、法の一般原則であり(甲31参照)、原則として遡及効は否定される。民法施行法第1条「民法施行前ニ生シタル事項ニ付テハ本法ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外民法ノ規定ヲ適用セス」は、この原則の表れである。

⑵ 答弁書17頁脚注12の最高裁大法廷昭和24年5月18日判決(甲24)は、戦後の農地解放という特殊な事案をGHQの占領下で判断したものであるから、現在においてあるいは本件事案において当然に妥当するものではない。
  妥当するとしても、上記判決は民事法規について憲法39条の事後法の禁止が及ばないとしたものに過ぎない。
  また、上記判決においても、民事法規の場合には何ら制限なく遡及効が及ぶと判断されているものではなく、「公共の福祉が要請する限り」として遡及効が及ぶ場合の必要性や合理性を検討して判断されている。
  したがって、上記判決においても、法の一般原則としての不遡及原則が判断の前提となっていたものといえる。

⑶ ア 被告は、不遡及の原則は解釈原則だから特に遡及適用を認めた場合には妥当しないと主張する(答弁書17頁ウ「なお」以下)。

イ しかし、被告の引用する我妻榮『新訂民法総則』(甲25の1)は、法律不遡及の原則は、「立法を拘束するものではない」と述べているのであって、立法者ではない被告が遡及効のある決議を自由にすることまで許していることに繋がるものではない。また、『新訂民法総則』は遡及効のある立法についても必要がある場合に限る趣旨であると読める。

ウ(ア) 『新訂民法総則』は、「解釈」は法の内容を確定することである旨を述べている(27頁〔二〇〕)。

(イ) 不遡及原則が『新訂民法総則』でいう解釈原則であるとしても、令和3年決議や令和5年決議の附則の合理的な解釈として、遡及適用を否定する解釈をすべきである。

 4 無効行為の追認について

⑴ 被告は、令和3年決議や令和5年決議は、過去になされた無効な行為の遡及的追認を内容とするものではないと主張する(答弁書18頁2行目)。
   しかし、被告は、「本件各決議によれば、会員は、本件各会費についてその徴収の時点において納付義務を負っていたものと扱われることとなる」とも主張する(答弁書18頁14行目)。
   この被告の主張からすれば、過去の徴収時に無効であった納付義務を令和3年決議や令和5年決議によって徴収義務を認めようとするものであって、令和3年決議や令和5年決議は無効行為の追認に他ならない。

 ⑵ 令和3年決議は、会館維持負担金の昭和60年5月18日総会決議や昭和63年5月14日総会の予算についての決議、入会金の昭和60年5月18日総会決議、札弁会費の平成17年3月1日総会決議がそれぞれ無効であるから(乙2・1枚目・9枚目・15枚目)、総会に議案が上程されて決議されたものである。令和5年決議は、無効どころか道弁連会費には総会決議が存在せず、すずらん会費の3度の総会決議が無効で、令和元年7月以降分の総会決議が存在しないことから(乙5・8頁3項・27頁4項)、議案が上程されて決議されたものである。
  したがって、令和3年決議と令和5年決議は、元の無効な決議あるいは不存在だった決議を後から遡って有効化させようとするものに他ならず、無効行為の追認をする場合あるいはこれと同視できる場合といえる。

⑶ よって、令和3年決議と令和5年決議の訴求適用を定める附則は民法119条本文によって無効となるというべきである。

 5 不当利得返還請求権を一方的に奪うものであることについて

⑴ 被告は、令和3年決議や令和5年決議によれば、会員は、本件各会費についてその徴収の時点において納付義務を負っていたものと扱われることとなるものであり会員の被告に対する不当利得返還請求権が発生していたことにならないから、令和3年決議や令和5年決議が会員の不当利得返還請求権を一方的に奪うものであるということはできないと主張する(答弁書18頁エ)。
  この被告の主張は、循環論法であり論証になっていない。

⑵ 被告は、「本件各決議により、会員が被告に対して本件各会費に係る不当利得返還請求権を行使する機会が事実上失われることになるのは確か」と認めている(答弁書18頁エ「なお」以下)。

⑶ 令和3年決議や令和5年決議の遡及適用をする附則は、原告や被告の他の会員・元会員から不当利得返還請求権を法的根拠なく不合理に奪おうとするものであるから、無効というべきである。

6 特別会費と扱われていた事実が無いことについて

 本件で問題となっている会費等の中で、道弁連会費とすずらん会費については、特別会費として扱われてきた事実すらないのであるから、令和5年決議の効力を遡及的に及ぼしたところで、それらの事実が無いことに変わりは無い。すなわち、法技術的に遡及効を及ぼすことのできる実体が無いのである。

7 その他の被告の主張について

⑴ 被告が答弁書19頁で縷縷述べることは、本件の不当利得返還請求権の存否・内容には関係が無い。なお念のため、これについて以下に述べる。

⑵ア 被告は、入会金や札弁会費、会館維持負担金、道弁連会費や すずらん会費について不当利得返還請求権が認められた場合は、多数の会員に対して多額の不当利得返還債務を負担することとなり、返還に充てる財源の確保や返還に伴う手続や費用等の多大な負担が生じるので、令和3年決議や令和5年決議の必要性がある旨を主張する(答弁書19頁)。
  しかし、原告の他、被告の会員や会員であった者に対して被告が不当利得返還債務を負うのは、被告が数十年間にわたり不当に金銭を徴収してきたからであって、その返還に財源が必要となったり手続等の負担が被告に生じるのは当然であるから、令和3年決議や令和5年決議を正当化する事由にはならない。

イ(ア) 被告は、返還に充てる財源や手続等の負担が会員の負担に帰することになるとか、その負担の在り方をめぐっても困難な問題が生じることが容易に想定されるなどと主張する(答弁書19頁)。
  このように会員の負担を人質に取るかのような被告の主張は不当である。

(イ) 被告には、令和5年3月31日において正味財産1,768,049,899円の財産があるのであり、このうち普通預金と定期預金の合計1,078,730,261円があるのであるから(甲26の5)、不当利得返還請求権を主張する会員や元会員に対して返還する財源は存在する。
  さらに、弁護士法が弁護士会に要求する業務の他の余計な業務を被告が止め、固定資産の土地建物を処分すれば十分に返還の財源は確保できる。
  加えて、弁護士法で参加が義務付けられていない道弁連から脱退すれば、被告が道弁連に負担している会費やすずらん基金の会費の将来の負担も無くなることになる。

(ウ) もし仮に、不当利得返還のためにできうる対応を被告が尽くしたとしても、会員や元会員からの不当利得返還請求権で債務超過になってしまうというのであれば、債務超過に陥った他の一般の団体と同様に被告は破産すれば良い。なお、弁護士法は弁護士会が破産する場合があることを予定し、許容している(弁護士法43条の3第1項)。

(エ) したがって、会員の負担に帰するなどとして令和3年決議や令和5年決議を正当化しようとする被告の主張には合理的な根拠が無い。

(オ) また、もし仮に、不当利得返還債務を被告が負うことで何らかの事実上の負担が会員に生じることになっても、これまでの会長副会長を支持してきた会員のみならずサイレントマジョリティである会員が、これまでの会長や副会長らによる長年にわたる不当な徴収を許してのであるから、会員にも責任の一端があるといえ、やむを得ない負担というべきである。

⑶ア 被告は、「徴収の根拠となるべき総会決議を欠いていたり、総会決議について日弁連の承認を受けていなかったりするなどの手続上の不備が存した」(答弁書19頁13行目)と主張する。

イ 被告は、「手続上の不備」などと問題を矮小化しようとしている。

ウ 会費や特別会費についての総会決議は、弁護士会の基本ルールであり、いわば弁護士会の憲法と言うべき会則に明確に要求されているものであって、会費や特別会費の徴収のための実体要件であるから、総会決議を欠くことは「手続上の不備」などといえるものではない。また、日弁連の承認は、弁護士法によって要求されているものであり、会費や特別会費を徴収するための実体要件であるから、日弁連の承認の不存在も「手続上の不備」などといえるものではない。
  上記の被告の主張は、弁護士法や会則を著しく軽んじる無法・不当な主張というほかない。

⑷ア 被告は、会員に対し、使途や納付時期等が周知されていた旨を主張する(答弁書19頁13行目)。

イ 原告は、この周知されていたという事実について不知ないし争う。
  被告は、このような周知がされていたという事実があると言うのであれば、具体的に主張すべきである。

⑸ 原告の他に被告に対して不当利得返還請求をしている者がいるかどうかについて、原告は不知である。

⑹ア 被告は、会員において納付義務を負わないとか不当利得返還請求権を有するという認識や信頼が形成されていたとは認められないと主張する(答弁書19頁20行目)。

イ そもそも被告は、令和3年決議に先立ち入会金や札弁会費、会館維持負担金を納付する義務が無かったとか不当利得になっているとか、令和5年決議に先立ち道弁連会費やすずらん会費を納付する義務が無かったとか不当利得になっているとかの説明をそれぞれ当時の会員に対してしていない(乙2、乙5)。
  被告は、納付義務が無かったことや不当利得になることを議案では会員に隠して令和3年決議や令和5年決議を行っていたのである。
  被告が会員において納付義務を負わないとか不当利得返還請求権を有するという認識をさせないように総会決議を通したのであるから、そのような認識が形成されていなかったことを理由に令和3年決議や令和5年決議の効力を認めるのは公正ではない。

ウ 会員が被告に入会金や札弁会費その他の会費を支払ってきたのは、徴収することに適法な根拠があるという被告に対する信頼があったからである。会員・元会員のそのような信頼を裏切ったのは被告であるから、被告の徴収を正当化するために会員の認識や信頼を主張するのは信義に反し不誠実である。

エ なお、被告に対して不当利得返還請求権があることを認識した上で行使しないという考えを持つ会員・元会員がいるとしても、そういう会員等が存在することは、原告の有する不当利得返還請求権(民法703条、704条)が法律上の根拠なく奪われることを正当化しない。

 

第2 原告の支払いがやむを得なかったものであること

1 被告は、本件を非債弁済の類型と主張する(答弁書5頁脚注2)ので、念のため、以下のとおり述べる。

2 原告は、入会金、札弁会費、会館維持負担金、道弁連会費、すずらん会費、が法律上の原因が無いことを知らずに支払ってきた。

3⑴被告の会費や日弁連の会費を6か月以上滞納した場合、懲戒事由となるおそれがある(被告の会則95条、日弁連の会則97条)。

⑵ 会費の滞納は上記の懲戒事由とされていることから、被告の会員に対する被告からの請求については、原告を含む被告の会員は事実上 支払を強制されている。

3⑴ 原告は、被告から請求される札弁会費、会館維持負担金、道弁連会費、すずらん会費の支払いを任意に拒否することはできなかった。

 ⑵ 原告が被告に入会金を支払わなければ入会を拒否され、あるいは、入会後に懲戒請求を受けるおそれがあったので、原告は被告に請求されたとおり入会金を支払わざるを得なかった。

以 上

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