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私が影響を受けたもの5 「映画」

 誰しもが子供の頃に観た映画の記憶を持っているだろう。心に残っている映画は数多くあると思うが、「自分の原点」と思える映画を思い返してみた。

★バレエ映画「赤い靴」 
 1948年イギリス製作 日本公開1950年
 原作アンデルセン 監督マイケル.パウエル 
            エメリック.プレスバーガー
 出演 モイラ.シアラー 

  前回で「バレエ」を書いたが、小さい頃から踊りが好きだった私。小学生低学年の頃、母がこの映画を観に映画館へ連れて行ってくれた。母はこの映画を観たことがあると言っていた。「きっと気に入ると思って」と言っていたような気がする。漫画、ディズニー以外のちゃんとした映画(大人向けの)を映画館で観たのはこれが初めてかも知れない。

 もう一目で気に入ってしまった。「真っ赤なトウシューズ」に目が眩んだ。「赤」がより強調され、「あのトウシューズを履きたい」とものの数分で私の脳裏に焼きつき、憧れとなった。


 子供の私はストーリーなどどうでも良かったであろう。真っ赤なトウシューズに目を奪われ、そればかり観ていた。豊富に登場するバレエシーンにも身を乗り出して観ていた。
 劇中劇で創作バレエ「赤い靴」が上演される。赤い靴に憧れる少女が、その靴を手に入れ、履くと、もう脱げない。休息できない。疲れて眠りたくても赤い靴を履いた足は踊り続ける。街中にあるポスター(セロファンで出来ている)ははげ落ち、人もいなくなり、風に舞う新聞紙が少女の踊りの相手となる。
 私はこの映像美、色使いに胸ときめかせた。と、同時に羨ましく思った。「ずっと踊っていられるなんていいな。寝なくたっていい。食べなくたっていい。音楽が鳴っている中ずーっと踊っていたい。あんな靴欲しいな」
 てなことを考えていた。良く言えばそれほど「踊る」ことが好きだったのである。そして真剣にバレエに取り組みたい、と頑なに思うようになった。

 それからこの映画を何回も観ている。思春期になりストーリーも把握できるようになると、この映画の主題の三角関係、バレエ団の団長、作曲家、バレリーナ、それぞれの思惑、恋か芸術か、という答えがない問答に主人公バレリーナが悩まされる、という姿に「自分だったら」と、考えるようになる。
 私の癖、作品を観て楽しむというより、同化して、自分をその作品の中へ入れてしまう、という妄想はすでに出来上がっていたようだ。私は赤いトウシューズに憧れを持ちつつ、何か怖い存在だと思い出して、いまだに赤いトゥシューズを履けない。自由に買えるのに、だ。自分の中でも良くわからない想い、妄想かと思う。むしろ神聖化してしまったのか、、、。

★ミュージカル映画「王様と私」
 1956年アメリカ 20世紀フォックス製作
 原作「アンナとシャム王」マーガレット.ランドン 監督ウォルター.ラング
 出演 デボラ.カー ユル.ブリンナー

 ミュージカルでヒットした作品の映画化。
 私がこの映画を最初に観たのは多分テレビだったと思う。小学生4、5年か。つまり1970年代始め。「赤い靴」よりは後である。というのも、王様役のユル.ブリンナーが好きになったのだから。

 1970年代、テレビでは毎日のように「⚪︎⚪︎ロードショー」といった番組があり、名作が常に流れていた。もちろんテレビなので番組時間に合わされカットされた映画で、とても「映画を観た」とは言えない状況だが、子供にとっては「映画を知る」きっかけになっていた。
 その中で放映回数が多かったような気がする。年1、2回は観ていたような。

 この作品、まずは衣装の豪華さに惹かれた。デボラ.カー演じる教師役のドレス。パニエが入ったフワッフワのドレス。「いいなぁ、あんなドレス着てみたい」から始まり、王様役ユル.ブリンナーのスパンコールたっぷりのタイ国衣装。衣装、セットと実に豪華で、子供の私はワクワクしながら物語に引き込まれていった。

 物語は、19世紀半ばシャム国(タイ)の宮廷。将来の外交のため英語を子供達に習わせる。そこで選ばれたのが、英国からの家庭教師アンナ(デボラ.カー)。シャム国では王様は絶対権力者。妻や子供たちですら楯突く事は許されない。そんな中、イギリス女性がやってくる。アンナは王を恐れる事なく、自分の意見を堂々と言い、誰にでも「人権」があることを伝えていく、、、。

 初めて観たのはまだ子供だったが、王役のユル.ブリンナーの眼光に一目惚れした。強い眼差し。本当にドキッとする。その表情、芝居のダイナミックさに惹きつけられていく。

 劇中劇で、「アンクルトムの小屋」という舞踊が登場する。王のために売られてきた女(タプティム)が恋人恋しさに苦悩する中、アンナからもらった本を元に、神様は権力者を罰する、という皮肉がある舞踊劇を構成する。これで初めてタイ国の踊りを見たのだが、とても興味を持った。仮面の面白さ。

 そして名曲「シャルウィダンス」のダンスシーン。イギリスの官僚を招いての晩餐会。社交ダンスを初めて見た王様。深夜の大広間でアンナ教師と向かい合い、ダンスを教わる。両手を取り合い、ステップを踏む。子供のように楽しんでダンスをする王様。しかし、はた、と止まる。「こうではなかった」「いえ、皆このように踊ってましたわ」「いや、手はこうではなかった」
 そう、社交ダンスは男性の手が女性のウエストを支え、体を密着させる。

 それに気づいた王様とアンナ。手を組み直すが、この時の「間」がサイコーに良い。私が最もドキドキするシーンである。子供ながらに恥ずかしくなったことを覚えている。王様はアンナをじっと見据え、少しずつ近づいていく。アンナの胸の高鳴りが聞こえるようである。
 そしてダイナミックな社交ダンスシーン。アンナのスカートがひるがえりそうになるほどのスピード感で、大広間を飛び回るようにダンスをする。この作品一番の見どころであろう。

 もうここまで見入っているので、後半のドラマがやや早急過ぎるのは見逃そう。王様はこれからこの国をどう進めていくべきか、苦悩に陥り、死の淵を彷徨う。まだ子供の長男が国王を引き継ぐが、「これからはカエルのようにひれふくさなくとも良い」と述べる。死の淵で新しいこの国のことを想いながら、王はこの世を去る。これは号泣ものだ。そして何回見ても泣く。もちろん今でも。

 「赤い靴」「王様と私」は子供の頃から何十回も見ている。大人になり細かい点を感じるシーンも増えてくるが、感情的にはほとんど変わらずのめり込んで観ている作品である。

  洋画はこのようにきっちり覚えている作品があるが、日本作品となると、さて、と思った。映画で心に残っているといえば中学生になって観た金田一耕助シリーズ、市川崑監督作品だが、これはちょっと主題と違うと思う。もっと子供の頃に観た日本作品て何だろう、、、。

 思い出したのはテレビだ。夏になると毎年怪談物のドラマをやっていた。王道の「四谷怪談」「牡丹灯籠」「番長皿屋敷」「雪女」「耳なし芳一」等。毎年やっているので、ストーリーもわかっているし、「怖い」というのもわかっているのだが、毎年観てしまう。そして「コワイ〜!」と叫ぶ。
 そしてこれらの作品、皆、恋愛感情が元になっているストーリーだ。なので怖いながらもちょっとのラブシーンが観たくてみる、というのもあった。着物が着崩れていく、襟元がはだけていく。裾が乱れる。これらのシーンが観たくなって”つい”観てしまう。


 これがのちにステージネタになるとは、もちろん思わなかったが、子供の頃に観た怪談ドラマは深く脳裏に刻み込まれている。怪談といえどもエロティックさが混ぜ込まれている映像美であった。むしろこういうのを子供の頃に観ていて良かったと思う。

 中学生になると、映画館巡りが始まった。ロードショーも観に行ったが、子供の小遣いだ。月3回位は観ていたと思うので、2番館、3番館は外せない。こうして私は映像美にどんどん惹かれていくのであった。

https://youtu.be/68ITzpwliDU

 


    

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