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【 インターフォン越しの訪問者 】~覆された日常~

5月に入り自宅に技術職の業者の方をお招きすることになった。

約束の時間になりインターフォンが鳴ったので画面を見ると、
白い布切れで口鼻を覆った、イカツイ風情のケンコバの顔が映し出された。

「怖っ!」

玄関を開けると口と鼻を布切れで覆った、背が高くガタイのいい浅黒い肌の俳優中野英雄が目の前にいた。

2020年以前でこんな出で立ちでお客様の家を訪問するような人・・・考えられないですよね。

私は怯まず開口一番、
「私は口鼻を覆っていなくても気になりませんので、ご自由になさって下さいね」と伝える。

作業を開始して程なくしてその技術者の男性は
「お言葉に甘えて布切れを外させていただきます」と告げ、
「そのように言っていただけたのは初めてです、僕も口と鼻を覆うのは好きじゃないんですよね」
とおっしゃいました。
集中して作業をするのに苦しいに決まっていますよね。

その後作業をされながら、現在前妻との子と後妻の3人での暮らし、
この3年間のお子さんの学校でのエピソードなどを語られました。
私が素顔でどうぞと言ったのできっと気持ちもオープンになり、
身の上話をされたのではないかと思いますが、口を封じられる状態が心理的に及ぼす影響ははかりしれないですね。

この3年間お子さんは入学してからオンライン授業ばかりの学校生活だったので「あまり気にせず友達と会うんだよ」と言っていたそうです。
体格通りにエネルギッシュで飲んべえだけど優しいお父さん、バイキング西村との出会いでした。

その後以前から訪れてみたいと思っていた場所、会いたいと思っていた人にようやくお目にかかれる日がやってきました。

その場所は都内の人気の街と同じ沿線にある駅で、大きな駅ではないけど、大学のキャンパスがあるのでそれなりに賑わう街のようです。
私は初めて降り立ったのですが、ゴールデンウィーク中のため静かな街の雰囲気が心地よく感じられました。

降りた駅前の商店街の店員さんはこぞって口と鼻を覆っていました。
この商店街はまだルールを続けているのかしら?と思いながら歩を進めると、素敵な店名が目に入ったのでお店を覗いてみました。音楽がキーワードの店名だったのです。
お店には素顔の男性の店員さんがいらしたので「かっこいい店名ですね」と伝えると、その人はミュージシャンで、横浜でライブをやるからと名刺を下さいました。偶然の出会い。

さぁいよいよ目的地です。
お店に一歩入ると素顔の店主が姿を現しました。
会う前からわかっていました。素顔でお店に立っているに違いないと。

なぜならこの方は「本物」だからです。

自分自身の目に狂いはなかった、ちゃんと感じ取ることができていたと、このことがわかったことも嬉しい瞬間でした。

店主ととても楽しい時間を過ごした後に、美味しいコーヒーを飲んで帰りたいなと思い、商店街の中のお店をインターネットで探し、素敵な店構えのカフェにたどり着きました。ひとまず店内に入りますと店員さんは全員顔を隠していました。

通された席に着き様子を伺う・・・
珈琲は香りが命。鼻を覆って美味しいコーヒーがいれられるのか。
本能が告げる。
「すみません、またにします」と店を出る。

初めてきた場所だから散歩がてら適当に歩きながらお店を探そう、
そう気持ちを切り替える。
ところが歩いても歩いてもなかなか顔を隠さず営業している店に出会えません。
と諦めかけた頃、目の前に・・・カフェとおぼしき旗が見えてきました。
よい感じの店先、店内を覗きこむとカウンターに素顔のままで立つ男性の姿が見えました。

「やったー!!」
心の中でガッツポーズ。
ようやくたどり着きました。

コーヒーが抜群にお・い・し・い。
常連と思われるお客様も素顔で店内に入ってきて店主と会話。

ゆっくり本が読みたくてカフェに入ったものの店内に流れる音楽に耳を奪われました。

とっても美味しいコーヒーだったのでコーヒー豆を買おうと、店主とトーク。
素顔の店員さんを探してこのお店にたどり着いたことを伝えつつ、店内のBGMのことを聞いたら、お店に来られたお客様に合わせて流す音楽を変えるという、さながらDJのような音楽好きの店主さんでした。

お店選びは情報を探すのもよいけど、心のままに連れていってもらう方が、
自然によい場所、よい人に出会えるのかも。

この日初めて訪れた街では、素顔のコミュニケーションを求めた先に素晴らしい出会いがもたらされたのでした♪


そろそろこちらの方々の季節ですね

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