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創作「太陽が溶かしてくれたら」

「え?祐実、水着持ってきてないの?」
友達のかれんの甲高い声が、グループ全体に響き渡ると同時に、みんなが私の方を見た。
「私、忘れてきちゃって」
集まった視線から逃げたくて、私はとっさに嘘をつく。

大学のゼミ仲間で海に来ている。大学生、夏の海。そりゃ水着は必須なのはわかっている。
そんなに白けることだろうか。まぁでも白けるだろうな。
体を見せられない事情があるかと思われただろうか。まぁそんなナイーブな感想じゃなくて、単につまんねー奴と思っているかもしれない。シートが風で飛ばないように、誰かが持ってきた大吟醸の一升瓶をシートの隅におきながら考える。

別に体に大きな痣とか手術の痕があるとかじゃない。
なんか嫌だっただけ。
じゃあ白けるからくるなよ、はごもっとも。
確かに、このノリに全身を預けられるタイプじゃない。ゼミって言っても、友人とかサークルのように趣味嗜好の合う人の集まりじゃない。はっきり言って、この人たちとは芯からは合わないと思う。
でも、ちょっと行きたかった。友人と夏の海なんて、自分の記憶にはないしこれからもないと思うから。仲間外れにされたくなかったのもある。私の知らないところで、みんなの仲が親密になるのが怖かったのもある。

だから参加した。だけどノリを合わせられない。
事前にみんなに言って予防線を張ることもしなかった。たぶん、大切にしたい間柄だったらそういう手間も惜しまないのだろう。それはしない。当日言って、挙句みんなを白けさせる。
そもそも、私が一人水着を来ていようがそうでなかろうが、瑣末な話だろう。そんな謙遜が、横着を産んだ。

私のスタンスが定まっていないのは、自分がよくわかっている。
それでも来る自分、来るくせに馴染まない自分。
結局、私のそのどっちつかずが気まずさを生んでいる。
そして何よりもそんな自分が嫌いである。

シートに座って、海を見つめる。空には絵葉書になりそうな綺麗な入道雲がかかっている。
横座りしていて、痺れてきたふくらはぎを揉む。なんのための横座りだろう。窮屈な座り方をして、足が痺れてきてまで誰のことを気にしているんだとう。
全部、全部バッカみたい。
痺れている足をゆっくり組み替える。ワンピースを捲って、あぐらをかく。なまっ白い私の太ももが太陽に照らされていく。


<三題噺の練習/30分>
1つ目は『夏の海』
2つ目は『大吟醸』
3つ目は『揉む』

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